第13話 同じお茶を飲んでも、その感想は各人で異なる

 子供たちと久しぶりに戯れるハルの姿を見ながら、ピーター達はお茶会をしていた。

 リタは、ジャムを塗ったスコーンに夢中であり、ピーターは堂々と

 話題は、ラーファの近況から、ピーターの近況へと移り変わっていた。

 ピーターは話した。

 配達のクエストを受けるため、

 アンデッドモンスターと出くわしたことと、それをその場で撃退したこと。

 それがきっかけで、村とトラブルになったこと。

 野宿を続け、その結果期間が予定よりも遅れたこと。

 そうしてアルティオスに戻ろうとした時、馬車を襲うグリーンウルフと遭遇。

 そのまま戦闘になり、護衛の冒険者とともにグリーンウルフを殲滅したこと。

 そして、アルティオスにはいった直後に、護衛対象だった聖職者に攻撃されたこと。

 その結果、命からがら逃げまわる羽目になったこと。

 

「また聖職者に殺されかけたのですか……。これで何回目でしょうね」

「いえ、それほどでもないですよ。まだ三回目くらいです、多分」

「…………酷すぎますわね」



 平静そのものの様子で、世間話として語るピーターと対照的に、ラーファは不愉快そうに顔をゆがめた。

 それがおかしくて、ピーターは少し笑ってしまった。



「……笑い事ではなくってよ?」

「まあまあ、無事だったので大丈夫ですよ。ああ、でもギルドマスターにはご迷惑をおかけしてしまいましたね」



 淡々とピーターは、世間話でもするかのように、いや実際に世間話の一環として飄々と語る。

それにも事情がある。

 一つには、聖職者などに嫌悪されるのに慣れてしまっていること。

 いまさらピーターにとっては自身が悪意を向けられること自体は、何とも思わない。

 リタやハルにまで及べば、話は変わってくるが。

 もう一つは、命の危機が多すぎること。

 ピーターは、というより冒険者には戦闘はつきもの。

 モンスターとの戦闘、他の冒険者とのいさかい、あるいは事故や災害。

 とにもかくにも、死の危険が多いのが冒険者というもの。

 人が普通に考えるよりもずっとはるかに、死のリスクが大きく、命の価値が軽い。

 もう何年も冒険者を続けて、中堅と言ってもいい年齢になって、それに慣れている。

慣れ切ってしまっている。



「…………」



 ラーファは、まだ何か言いたそうにしていたが、これ以上言っても無意味と判断したのか何も言わなかった。

 沈黙を、どういう風にとらえたのか、ピーターは近況報告に戻る。



「ギルドマスターから指名されまして、墓地まで調査に行くことになりました」

「父から、ですか」



 ラーファが少し心配そうな顔になったので、補足することにした。



「ええ、といってもあくまで調査ですから。心配いりませんよ」

「でも、わざわざ他のパーティと組ませるんですわよね?それはそれだけ危ないからということではなくて?」



 なるほど彼女の言は、正しい。

 実際、ギルドマスターはピーター一人では不安があると感じたからこそ、他のパーティと組ませることを提案したのだろう。

 純粋な戦闘能力も、索敵能力も、ピーター達は低くこそないものの、決して特別高いとは言えないから。

 ただ、ピーターはさほど悲観していなかった。

 

「大丈夫ですよ。本当にまずくなったら、さっさと逃げます」

「ほんとににげるのー?」

「当たり前だよ。冒険者は生きて報酬を受け取るまでが仕事なんだよ?」

「ふーん?」

「それがわかっていればよいのですけれど……」



 リタは、何か言いたそうだった。

 が。



「ねえねえ、らーふぁ!ほかにおかしってある?」

「ああ、待っててくださいましリタちゃん、まだケーキが向こうにありますから!」

「なんだかすみません……」


 

 特に言うまでもないと思ったのか、リタはためらった。

 その後、リタの食事の事後処理を、ピーター一人でするのにそれなりの時間がかかった。

 彼は苦しそうだったが、どこか達成した時には満足げでもあった。



「また来ますね。今日は話せて楽しかったです」

「またねー!すこーんもけーきもおいしかった!」

「ええ、またいつでも遊びに来てくださいまし」



 そして、ピーターは、アウファの家を辞去した。

 余談だが、彼はその日、夕食を抜いた。

お菓子の大食いで、彼の胃袋が限界を迎えたためである。

 根本的な原因であるリタは、ピーターを心配してはいたが、原因には全く心当たりがないのだった。

 


 ◇◆◇



 お腹を壊して、夕食を抜いた日の翌日。

 安宿を出てピーターはギルドへと向かった。

 基本的に、冒険者は定住しない。

 不安定な生活をしていることが多く、あちらこちらを移動したり、ダンジョン内部に野宿したりすることも多いので住居を買う意味が薄い。

 さらに言えば、そういう冒険者が多数いることによって、需要が生まれ、それによって宿屋が尋常ではないほどに増えており、価格競争が起きた。

その結果、宿に泊まる値段は大幅に抑えられる。

 ましてや、ピーターのようにモンスターや自身の足を生かして配達のクエストをするような手合いには住居の意味がないとさえいえる。

 ピーターは、ハルを運搬役に、リタを索敵要因として用いることでアルティオス周辺の村々へ配達クエストをメインとして生活している。

 そのため、結構な頻度でアルティオスを空けることが多く、安宿に住んだ方がコストパフォーマンスがいいまである。

 彼の場合は、住居を所有・・・・・していることもあって、家をわざわざアルティオスに買う理由がないというのもある。


「どんなひとなんだろーね!」

 リタが、ピーターに対していつものようにふわふわと浮かびながら話す。

「ほふははほうふふふ」

「ぴーたー?」

「あの、奥様、主様は今口がふさがっておりますので」

「あ、そうだった!」

 ピーターは、口の中に入っていた飴玉をかみ砕いてそのまま飲み込み話す。

「どうだろうね、僕のことを知っているとは聞いているんだけど」

 ピーターは、相手に心当たりはない。

 ピーターは、そもそも普段人と関わらない。

 それによって、今まで不都合だったことはない。

 戦闘能力、防衛能力、索敵能力。

 すべてにおいて、ピーター、ハル、リタだけで完結してしまう。

 唯一補えないのは、ピーター本人への回復だが、それだけはもとより【邪神の衣】の影響下にある以上、どうにもならない。

 生まれた時からあるこのギフトだけはどうにもならない。一般的なパッシブのジョブスキルとは異なり、自分の意思ではオフにもできないのだから。

「誰でしょうかね」

「そうだねえ、本当に心当たりがないんだけど」

 今までにかかわっている人の中で冒険者はそれこそ、〈魔王〉アラン・ホルダーくらいしかいないのだ。

 ラーファのように、大半は冒険者として活動していない者たちが多い。








「なるほどー」


 ピーターは納得する。

 目の前にいるのは、四人の冒険者。



「あ、お久しぶりです!あの後ご無事だったんっすね!」

「「「…………」」」



 先日、ピーター達とともにグリーンウルフと戦った、パーティだった。

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