第4話穢れた職業、聖なる職業
冒険者ギルド。
それは、数多の冒険者が集う施設。
特に冒険者の活動が活発な、ここ迷宮都市アルティオスの冒険者ギルドは規模が大きいそうだ。
逆に、王都などは騎士団や教会の力が強いため規模は極々小さいらしい。
最もピーターはアルティオス以外の冒険者ギルドに行ったことがないため、あまりよくわかっていない。
アルティオス内部には冒険者ギルドより大きな建造物は存在しないので、相当規模が大きいのだということは知っていたが。
「では、これが配達クエストの報酬です。お疲れさまでした」
「……ありがとうございました。そういえば、グリーンウルフが街のすぐ近くに出没したんですが……」
「ああ、それは別のパーティーから報告を受けています。現在、原因を調査中です」
あの後、頭のおかしな女もとい、非常にかつ異常に敬虔な聖職者の攻撃から逃げきったピーターたちは、冒険者ギルドへと立ち寄っていた。
アルティオスから近辺の村にまで、商品を配達するというクエストを達成したので、その報酬を受け取るためである。
護衛のクエストに比べると、報酬の額は相当低くなってしまうが、護衛は先ほど見た少年たちがそうであったように基本的にパーティー単位で雇われる。
ジョブスキルなど諸々の事情から他の冒険者とパーティーを組めないピーターにとっては、受けることのできないものなのである。
とはいえ、彼にとっては配達クエストの収入でも十分だ。
報酬をアイテムボックスにしまい、呼び出した。
「もう出てきてもいいよ、リタ」
「……うん」
【霊安室】、契約したアンデッドを亜空間に格納する〈降霊術師〉のスキルから出てきたリタは、とても落ち込んだ様子だった。
「ぴーたー、ごめんね」
「何が?」
「さっきのおんなのひと、わたしのせいでぴーたーにこうげきした」
言われて初めて、ピーターは先ほどのトラブルについて謝っているのだと気づいた。
自分が飛び出したせいで、
それが、根本的に誤っていることにも。
「それは違うよ、リタは悪くない」
実際、ピーターは全面的にあの聖職者が悪いと思っている
しいて言うなら、ああいった過激派の存在を失念していた彼自身にも責任はあるだろうか。少なくともリタに責任はないし、彼女が自分を責めるのはお門違いだ。
そもそも、契約したアンデッドをしまい込む【霊安室】からは、互いの同意がなければ出ることは出来ない。
だから、彼女の願いを承認したピーターの方に責任がある。
少なくともリタは悪くない。
教会の権威が大きいと噂の聖都ハイエンドならともかく、ここ迷宮都市アルティオスで過激派の聖職者に出くわすとは、ピーターにとっても想定外だったのだが。
「でも……」
「僕のギフトのおかげで全くダメージもない、問題ないよ。それより、パンケーキ食べに行こう。せっかくまとまったお金が手に入ったんだし、久しぶりに贅沢しないと」
「うん!わかった!」
たちまちリタは、パッと明るい顔になる。
彼女は甘いものに目がないので、だいたいそれを食べに行くといえば、機嫌はたちどころに直るのである。
加えて、彼女は忘れっぽいところもあるから、パンケーキを食べ終えれば嫌なことはたいてい忘れている。
ピーターの説明で彼女の精神が安定したところで、ピーターたちはギルド内のカフェへ向かうことにした。
「ああ、一応ステータスは確認しておこうかな。【参照】」
そうスキルを唱えた直後、ピーターの視界には彼を表す文字の羅列が生じる。
ピーター・ハンバート
職業:〈降霊術師〉LV50(条件達成率2/3)
ギフト:【邪神の衣】
状態:健常
HP:657/657
MP:668/694
STR:10
VIT:12
AGI:11
DEX:13
LUC:9
わずかにMPが減っているのは、先程ハルにバフをかけたからだ。
HPも減らされたのだが、先程手持ちのポーションで回復しきっている。
そもそも、彼のギフト【邪精霊の衣】によって、ダメージはごく軽微なものだったのだが。
状態も健常、つまり毒や麻痺といった状態異常には罹患していないということ。
職業も、特に変わりはない。
何度見ても、彼の人生を変えたものは、この生まれついての呪いは消えてくれはしない。
人間は、一人の例外もなく生まれながらに職業を授かる。
そうして、職業のレベルを上げることによって、HP、STRなどをはじめとした職業に対応したステータスも上がっていき、職業ごとに応じたスキルを身に着けていく。
例えば、〈降霊術師〉の場合は、アンデッドと意思疎通や、契約をするための【交霊術】、アンデッド専用のバフスキル、アンデッドを保護、格納するための亜空間である【霊安室】、契約したアンデッドの力を借りる【降霊憑依】などがある。
また、ステータスとしてはHPとMPの伸びが良い代わり、他のステータスは一切伸びない。
ちなみにジョブによる伸びを除けば、一般的な成人男性はHPとMPが100前後、他が10前後といったところである。
ハルやリタといった、契約したアンデッドがいなければ、ピーターはグリーンウルフ一体にも負ける。
そして、職業は多種多様だ。
剣を扱う技巧と、剣の使用を条件としたさまざまな攻撃スキルを持つ〈剣士〉。
命を救う回復や穢れをはらう浄化などの聖属性魔法に秀でた〈司祭〉。
鍛冶スキルによって武器や防具などを作り出す〈鍛冶師〉。
探索と獲物の捕獲に長けたスキルと、それを発揮するための器用度を持つ〈狩人〉。
探索と隠形、奇襲による一撃必殺に特化した〈暗殺者〉。
そんな様々な職業だが、他者からの評価は職業ごとに大きく異なる。
〈司祭〉や〈鍛冶師〉、〈剣士〉のように有用であり、好意的にみられるもの。
アンデッドを使う〈降霊術師〉や悪魔を呼び出す〈拝魔師〉、呪いを生物やアイテムにかける〈呪術師〉などのように忌み嫌われる職業。
そして、彼の就いているのも、その〈降霊術師〉である。
特定の職業が差別される背景としては、様々なものがある。
アンデッドを扱う職業に限っていえば、回復魔法を使う〈司祭〉や〈聖騎士〉などいわゆる聖職者といわれる者たちが、半ば本能的にアンデッドや悪魔を嫌悪していることも理由の一つである。
彼らには人を救っているという自負がある。
だからこそ、その職業のスキルが邪悪だと判定するアンデッドと、それを扱う職業の者たちを侮蔑しているのだ。
「この国じゃあ、珍しいことでもないからね」
この国の国教は、回復魔法や浄化魔法、結界などを使える聖職者を中心としている。
彼等の使える聖属性魔法によって、人々を救済し、悪とされるアンデッドなどを祓うというのが教義である。
だから、ある意味仕方ないのかもしれない。
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