終章 これからの相棒➁
「はあ、はあ、はあ」
何とかあの二人から逃げることができた。
縁虎の背に乗って走ってきたので、追ってきたとしても追いつけないだろう。
まさか、前に見つけた地下水道に繋がる隠し通路、こんな所で役に立つとは思わなかった。
こんな事になるなんて想像もしていなかった。
途中までは順調だったはずだ。
全員私の掌の上で動いていたはずだ。
それなのにも関わらず、さっきの戦いだけで全てが覆されてしまった。
そして、その全ての元凶はあいつだ。
隠し通路を抜け、地下水道に降り立つ。
「西条正人、お前を絶対殺してやる」
「いやあ、何か面白いことを言っているね」
なぜだ。こんな所には誰もいないはずだ。
そう思うが、地下水道の奥から声が聞こえる。
コツコツという、足音と共に近づいてくる。
手元の明かりを向けると、そこにいたのは……。
「なぜここにいるのですか! 十席第六位、猿飛風真!」
猿飛風真、奴は私の誘導によって、東京で私の捜索をしていたはずだ。
どう考えても、ここに戻ってくるはずがない。
「いやあ、正人がここにいれば、神野浩介が来るって教えてくれたのさ」
「なぜこの場所が……」
西条正人が、あの部屋の隠し通路を知る機会なんて無かったはずだ。この隠し通路はこの研究施設の見取り図にも書かれていないのだ。
「君の計画はもう完全に終わったんだ。大人しくお縄に付こうよ」
「まだだ! 俺は八咫烏第三烏だったんだぞ! 十席第六位程度に負けるはずがない!」
縁虎に命じて、猿飛風真を襲わせる。が、一瞬で真っ二つに切られてしまった。
「な、何が起きて……」
「流石に、君の式神一体に負ける程、僕は弱くないよ。それに、こんな狭い空間でその式神が、自由に身動きが取れるとは思えないしね」
緑虎は、虎をモチーフにした式神で、俊敏な動きを重視している。そのため、他の式神より戦闘能力が低く、それに加えて、この狭い地下水路では逃げ場がほとんどない。
やられるのは必然だった。
どうしてこんなことに。今頃俺が新時代を作るはずだったのに。
なぜ、なぜ、なぜ。
「なぜ!」
「……それは君がやろうとしたことが独り善がりなものだったからじゃないのか」
「な、に」
そんなことはない。俺は妖怪という存在を消すことで世界をよりよくする。そのために、どんな犠牲も……。
「君の言うよりよい世界に今生きている多くの人々はいないよ」
私は、何がしたかったのだろう。
京都事変で弟が死に、目の前で死んでいく人々を見てそれを変えたいと思っていた。
だが、本当はそうではなかったのかもしれない。
「私はただ……」
妖怪や呪術師たちに復讐したかっただけなのかもしれない。
新時代は、そんな自分のやる事を正当化するためだけに並べた言葉に過ぎない。
「本当に、滑稽だ」
猿飛風真が近づき、手刀を入れようとする。
それを何の抵抗もなく受け入れた。
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