終章 これからの相棒①

「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!」

 神野浩介は取り乱すように叫んでいた。

 さっき、西条正人によって、ハクとの隷従契約が解除された。

 完全に状況が逆転した。

「神野浩介、投降しろ。お前の式神ももうほとんどないはずだ。頼みの綱のハクも失った。もうお前に勝ち目はない」

「うるさい、うるさい、うるさい! 何でですか? あんな妖力もない、御符術なんていう古臭い術に頼らないとやっていけない奴に私が負けたというのですか。そんなこと認められる訳がない!」

 奴は新たな式神を出現させる。それは四足歩行の虎のような見た目だった。

「最後にあいつらだけでも殺してしまいなさい!」

 土の式神によって、鎖に繋がれた今回の神隠し事件の被害者に攻撃を仕掛ける。

 その隙に、神野は虎の式神に乗って、逃げるつもりのようだった。

「正人、ここは任せた」

 被害者たちは西条正人がいるため、あいつが守ってくれるだろう。ここは西条正人に任せて、奴を追う。

「待て、景虎!」

 叫んだ西条正人の声で振り返る。

 正人は、ハクを庇いながら、動かない。いや、動けない様子だった。

「ちっ!」

 急いで、土の式神に向かって弾を放つ。

 これまでのダメージが積み重なっていたためか、一発で土の式神を破壊することができた。

「……逃げられたか」

 もう一度、神野浩介がいた方向へ向き直すが、もういない。

神野浩介には逃げられてしまったようだ。

「景虎、すまん。もう限界だったみたいだ」

「せめて、札の術を発動させられなかったのか」

 辺りには、まだ多くの札が散らばっている。

 その札を使えば、土の式神をどうにかできたのではないか、と思う。

「無理だな。やっぱりさっき他者の妖力を取り込み過ぎたみたいで、今妖力を使うと暴発しそうだ。流石にそんなリスクを冒せない」

 やはり、先ほどの多量の妖力の取り込みは多少なりとも影響したようだ。

 こればっかりは責めることはできない。

 こいつがいなければ、神野浩介の計画を止めることはできなかった。

「仕方がない。神野浩介を取り逃がしてしまったのは惜しいが、被害者たちを救出できただけで良しとしよう」

 とはいえ、神野浩介を野放しにしておく訳にはいかない。

 近くにいる夜烏に連絡を取り、ここ朝陽市一帯に包囲網を作ろうと連絡しようとする。

「その必要はないぜ」

「どういう意味だ?」

 西条正人が連絡しようとするのを止める。

「俺が神野に言ったことを覚えているか? あいつは詰みだって言ったんだぜ」

 どうやら、まだ何かあるらしい。

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