四章 窮地に立つ八咫烏➂

「この改造銃ヤバすぎだろ」

 景虎の使う銃に思わず、そう呟く。

 あれから少し戦い続けて、奴の昔の戦闘スタイルとは違う部分が見えてきた。

 一つ目は、弾丸の威力だ。あの銃は妖力で作られた弾を打ち出す術式で動いている。

 問題はその弾の威力だ。

 昔は、威力よりも弾速を意識した弾になっていたが、今は威力重視の弾を打ち出してくる。

 その威力のせいで、青色の札五枚で作る風の盾が簡単に崩壊してしまう。七枚以上なら防げるのだが、それじゃあ……。

「コストがかかりすぎる」

 それでなくても、俺の妖力は少ない。

 札を使う枚数が増えれば増える程、使う妖力も多くなる。そして、札の枚数にも当たり前だが、限りがある。

 風や雷の力を扱える青色の札は便利だが、その分使う頻度も高い。

 まだ戦いが続く可能性がある以上、残しておきたい。

 そんなことを考えていると、景虎が引き金を引いて、また弾が飛んでくる。

 躱そうと上に跳ぶが、そんな俺に合わせて追いかけるように弾が向きを変え迫ってくる。

「本当厄介だな」

 仕方なく、赤色の札を投げ、術で作った火球をぶつけて相殺する。

 これが景虎の新たな戦闘スタイルの二つ目で、銃のタイプを切り替えられることだ。

 今右手に持っている銃が、威力重視の弾と追尾性能の弾の二種類を切り替えられ、左手に持つ銃が、威力重視の弾と昔使っていた弾速重視の弾を切り替えられるようだ。

 切り替えはリボルバーで行っているっぽいが、自分の身体で死角を作ったり、銃を持ち換えたりすることで、弾のタイプを悟らせないようにしてきている。

「きつすぎるな」

 俺は長期戦が苦手なので、どこかで攻めに転じる必要がある。

 だが、景虎の厄介な銃のせいで間合いを詰めることができない。

 かといってこのままの状態が続けば、負けは濃厚だ。

「……またか」

 また、引き金を引いて攻撃してくる。

 どうやら、威力重視の弾らしい。

 それを躱しつつ、周りに札をばら撒く。

 景虎は俺に向かって、左手の銃で撃とうとしていたが、ばら撒いた札を見て、舌打ちしながら後方に下がる。

 だが、どの術も発動しない。

 この一瞬の隙で俺は勝負に出る。

 景虎に向かって走り出すが、そんな俺を景虎が黙ってみているはずもなく、両手の銃を俺に向けて構える。

「終わりだな」

「まだ終わりじゃねえよ」

 右手に持っていた白い札を景虎に投げつけ、目を閉じる。

 そして、眩い光が辺りを照らす。

「くっ」

「ここで終わらせる!」

 術の発動前に目を閉じていた俺とは違い、もろに眩い光を見た景虎はそれなりにきついだろう。

 目を閉じたまま景虎に近づき、左手を振り上げ一撃を加える。

 が、それは景虎の右腕で受けられてしまう。

「ちっ」

 すぐに右足を振り上げ追撃するも、それも躱されてしまう。

「相変わらず怪物だな」

「そんな特別なことしてねえけど」

「馬鹿を言うな。札をばら撒いて意識を散らしつつ、間合いを詰めてきて目くらましで近接戦に持っていく。しかも、ばら撒いた札の術式をいつ発動させるかで気を散らし続ける。ここまでのことを数分でやってくる奴はお前くらいだ」

「……それぐらいしかできることがないからな」

 実力や相性で差のある相手を倒すには、意識を散らしたりするぐらいしかできない。

 九音がいない俺が、実力のある相手に勝つには、どうやっても相手の隙を突く必要がある。

 今の一撃で決めたかったが、流石に相手も実力者。なかなか厳しい。

 本当は温存しておきたいが、そうしたことを考える余裕もなさそうだ。

「考え事か? そんなことしている余裕があると思うなよ」

「くっ、またか」

 景虎の銃撃により、またさっきと同じ受け身の状態に戻ってしまう。

 さっきと違うのは、ばら撒いた札のおかげで動きが制限されている所だが。

 俺は、相手の攻撃を回避、防御しながら更に札をばら撒く。

 景虎は先ほどと同じで銃撃を繰り返すが、周りの御符術の発動を警戒して、どちらか片方の銃を使わずに攻撃し始めたため、対処がしやすくなった。

「これでようやく五分といった所か」

 銃一丁だけの火力でも十分な程の火力がある。

 そのため、火力が半分になってもそれだけで崩せる訳ではない。

 それに加えて、相手の御符術の警戒度が更に上がっているため、術を発動しても余程のことでない限り、先ほどと同じくそこまで崩れることはないだろう。

 せめて、妖術一辺倒の祓い屋や近接戦に特化している相手ならまだ戦いやすいが、景虎のように銃による射程と近接戦での格闘術、どれにも対応できる景虎に対応するのは中々難しい。

 俺も御符術により中距離にも対応できるが、威力も劣るし、札を配置する手間がかかるため、その分あちらが有利となる。

 現代になって、こうした簡単に強力な妖術ができたため、御符術はどんどん衰退していった。

 俺の場合、妖力の少なさから、こんな術を使っているが、そうでもなければこんな不便な術は使わないだろう。

「どうした? もうそれで終わりか?」

「……まだ終わるつもりはねえよ」

 札をかなりばら撒いたが、徐々にその場所から離れるように俺を追い詰めている。

 俺もそろそろ今持っている札が尽きかけている。

 召喚術を使えば、札の入ったポーチをもう一セット出せるが、そんな隙は作れそうにない。

「ここで倒さないと俺が負ける。勝負に出ねえとな」

 ここでもう一度景虎に向かって突っ込む。

 そして、さっきと同じく白い札を投げつける。

 それを見た景虎は目を閉じる。

 ここまでは想定通りだ。

 白い札は術を発動することなく、風に流されていく。

「ちっ!」

 俺の罠に気付いた景虎が思わず、引き金を引く。

 それに合わせて、体を横に反らし、頬をかすめ何とか致命傷にならずに済んだ。

 後もう少しで相手に届く。

 景虎は目を開け、俺の攻撃に対処しようと構えている。

 ポーチから取り出した赤い札を持つ。

「これで詰みだ」

 第一に、相手に蹴りを入れる。が、これはきれいに受けられたため、数歩下がるだけに留まった。

「次はこの術だ」

 遠く離れた黄色の札三枚を妖力で繋ぎ合わせ、術を発動する。

 それにより、黄色の札で囲まれた地面を上に突き上げた。

 それにより、地面の上にあった札が飛び散る。

「……何をするつもりだ」

「さあな」

 警戒する景虎に、更に追撃をかける。

 突き上げられた地面からひらひら舞って落ちてくる札から、青色の札三枚を繋ぎ合わせ、雷撃を降らせる。

「くっ!」

 流石と言うべきだが、これは何とか身体を捻って躱してきた。

 だが……。

「これで終わりだな」

 持っていた赤い札を投げつけ、空に舞う、二枚の赤い札と繋ぎ合わせ術を発動しようとする。

「残念だが、この術は発動させない」

 空に舞う札の二枚を打ち抜き、術がかき消される。

「これで俺の勝ちだ」

「……いや、俺の勝ちだ」

 投げた赤色の札にくっついていた青色の札が離れる。

 それに気づいた景虎が急いで銃を向けるが、もう遅い。

「……まさか!」

 景虎の頭上には、青色の札が光り合って、術が発動する。先ほどと同じ雷撃だ。

 今回は、全ての青色の札を使って発動しているため、躱す他ない。

 赤色と青色の札を繋ぎ合わせ、術が発動する。

「俺の御符術が五行を元に作られているのは、知っているよな。赤色の札は『火』を意味していて、青色の札は『木』を意味している。この二つを組み合わせると、俺みたいな妖力が少ない人間でも、上級妖術を超える火力を出せるんだぜ!」

 発動した術の炎は一瞬で景虎を飲み込んだ。

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