四章 窮地に立つ八咫烏➁

「……正人、遅いの」

 影の妖怪と正人が茜と呼んでいた少女を見張りながらそう呟く。

 正人が、結界を解くためにこの場を離れてから、十数分が経過したが、未だに帰ってこない。

「何かあったの?」

 気になるが、この妖怪と少女のことを正人から頼まれている以上、この場を離れることもできない。

 バンッ!

「この音は……」

 前に襲ってきた夜烏の男が使っていた武器の音に似ている。

 もしかしたら、夜烏と戦闘しているのかもしれない。

「正人のために何かできることはないの?」

 自分に問いかけるが、答えは出ない。

「とりあえず、影の妖怪が逃げられないようにしないとなの」

 この場から離れて影の妖怪を逃がすわけにはいかない。

 私は、正人を信じて影の妖怪をじっと見ていた。

 そんな時だった。

 ズキンッ、と頭に痛みが走った。

「痛い、の」

 その場でしゃがみこんで藻掻くが、痛みは一向に収まらない。

『あなたに……』

「何なの……これ?」

 迸る痛みの中、声が聞こえる気がした。

 その声を聴きながら、意識が遠くなっていくのを感じた。

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