四章 窮地に立つ八咫烏①

「西条正人、お前を神隠し事件の容疑者として確保させてもらう!」

 聞き覚えのある声がして振り向く。

 すると、銃口を向けた黒髪の男が立っていた。

「お前は、中嶋景虎!」

 中嶋景虎、夜烏所属で五年前の京都事変後、八咫烏の第五烏に任命された陰陽師だ。

 八咫烏第七烏である菊野美鈴とは幼馴染であり、よく一緒に任務に出ていた。

「やっぱり景虎が今回の神隠し事件を調べていたんだな」

「そうだ。河川敷でお前の札を見つけたときから、お前がこの事件に関わっている可能性を考えていたが、まさか本当だとはな」

「ちょっと待て。確かに、河川敷でハクを助けたのは俺だが、神隠し事件の犯人じゃ……」

「問答無用だ。お前相手に隙を見せたら駄目だと昔から知っている!」

 俺に向けた銃から弾が放たれる。

「うわっ!」

 すんでの所で何とか避けるが、その隙に景虎が間合いを詰めてくる。

 もう一度、撃とうと銃を向けてくる。

「ちょっ、一度話を聞いて欲しいんだが……」

「聞くわけないだろう! 昔からお前はそうやって俺の隙を突いてきたんだからな!」

「……そういえば、そんなこともしてたな」

 景虎は結構な堅物で真面目な男だった。

 任務などで鉢合わせすれば戦闘になりそうだったから、面倒くさかった俺は、こいつの不意を突いてよく倒していた。

 それが今になって返って来るとは……。

「ちっ」

 とりあえず、青色の札を放ち、風の刃で射出された弾を切り裂く。

 だが、それを分かっていたかのように、もう片方の手に握られた銃がこちらに向けられていた。

 どうする?

 これ以上避け続ければ、流石に後手に回って俺が不利になる。それに、相手の弾速も速く、二丁拳銃により手数も多い。

 このままじゃ、やられる。だったら……。

「突っ込むしかねえ」

 突っ込んできた俺に一瞬、景虎の表情が曇る。

 撃つのを躊躇したその一瞬の隙で詰め寄り、足払いをする。

 態勢を崩した景虎に更に追撃を加えようと拳を振りかぶるが、倒れる寸前で片手を地面につき、一回転して体制を整える。

「五年経っても、反応速度、御符術、体術、どれも衰えていないようだな」

「景虎は、二丁拳銃を扱えるようになったんだな。昔は反動がどうのこうので使ってなかったのに」

「まだ、格上気取りか? まあいい。ここでお前を倒して、被害者がどこにいるか吐いてもらうとしよう」

「だから、俺が犯人じゃないんだが」

「それなら、早くあの白髪の妖怪を渡せ! 奴が神隠し事件の実行犯であることは確定している」

 確定している、というのはどういうことだ。

 夜烏は、他に決定的な手がかりを持っているということなのか。

 しかしそれだと、ハクの話と辻褄が合わない。

 まだ、この事件には裏があるようで、何が真実かは分からない。だが……。

「断る。ハクをお前らに渡す気はさらさらない。依頼を受けたからには必ずあいつを守る義務がある」

「なら、お前を倒すしかないようだな」

 そう言って再び銃を構え、戦闘態勢を取る。

 俺の戦闘スタイルは御符術と体術を合わせた中近距離戦を得意としている。元々、中遠距離で戦える景虎とは相性が悪い。

 それでも昔の拳銃一丁だけなら、難なく対処できた。

 しかし、今のような二丁拳銃、しかもあの弾速で撃たれるとなると確実にこっちが負けることとなる。

 当初の予定としては、実行犯である影の妖怪を渡して、ハクの無実を証明するはずだったが、何やら夜烏にはハクが実行犯と確信する何かがあるらしく、それが通用しなくなってしまった。

 景虎なら、昔の知り合いだし交渉できるか、なんて考えていたがそれも難しそうだ。

 この状況では、こいつに勝って夜烏側の情報を引き出す他ない。

「難しいが、勝つしかない」

 そう呟いて、勝つ方法を模索し始めた。

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