二章 十の席に選ばれし者⑤
「さて、調査に行くとするか」
翌日、カジュアルな服装で身を包み、外に出る。
いつもは休日を家で勉強したり、読書したりで過ごすが、今回は昨日受けた依頼のこともあり、珍しく外出することとなった。
「正人、まずはどこに行くの?」
俺の背中を追って家から出てきたハクがそう尋ねてきた。
ハクには、俺の古着の白いTシャツと青色のジーンズを着せている。頭には、キャップを被せている。
昨日のフード姿は夜烏に見られているため、そのままだとすぐにバレてしまう。
そこで、現代らしい服装とキャップによって特徴的な白髪を隠すことにした。
「とりあえず、蓬莱の所だな」
「蓬莱って確か……」
「妖術師を束ねる組織だな。夜烏とは仲が悪いから、今回の神隠し事件のことには、あまり関与していないから、お前のことは知らないはずだ」
夜烏と蓬莱は、昔から仲が悪い。
夜烏率いる陰陽師が妖怪を敵視するのに対して、妖術師は妖怪との共存を目指している。
この考え方の差から、昔から仲が悪いのだが……。
「神隠し事件に関係していないのに何かわかるの?」
「現在、夜烏と蓬莱は休戦中なんだよ」
「休戦中?」
「五年前にあった京都事変で夜烏も蓬莱も甚大な被害を出した。それに加えて、妖怪の存在が世間に知られたことで妖怪関連の依頼が増えた。その結果、祓い屋界は深刻な人手不足に陥ったんだ」
京都事変では、民間人の被害より祓い屋の被害の方が大きかった。
蓬莱も夜烏もかなりの戦力を失い、それが今でも続いている。
それなのにも関わらず、祓い屋の需要は京都事変前より急激に増えている。
「それまでは方針の違いとかでよく夜烏と蓬莱との間で戦闘が勃発していたが、祓い屋の業務に支障が出るということで事実上の休戦状態になっているんだよ」
「それが何か関係あるの?」
「あるさ。今までは夜烏と蓬莱で情報共有することはなかったが、ある程度情報を共有してお互いが対立しないように調整している。だから、今回の神隠し事件についても大まかな情報は入っているはずだ」
これまでは情報を互いに集める過程でぶつかることもあったが、それが今はないらしい。
とはいっても、全ての情報を共有するといったことはしていないだろうが。
「俺は今回の神隠し事件について、ニュースで聞いた情報しか知らない。概要も分からない内は調査をしようがないからな。まずは蓬莱で神隠し事件の情報収集だ」
しばらく歩き進め、昨日のボウリング場の近くにあるビル街にまで来た。
そのビル街の中でも一際小さな六階建てのビルの中に入った。
エレベーターに乗り、六階のボタンを押して、上に上がる。
六階に着き、エレベーターを降りると、そこには大きな扉があった。
扉を開けると、扉の先は真っ暗で先が見えない。
「これは何なの?」
「これは転移装置だ。蓬莱や夜烏は自分たちの本拠地にすぐ行けるようにいくつかの地点に転移装置が設置してあるんだ」
「何か怖い感じがするの」
「……初めは転移の変な感覚で酔うかもしれないが、死んだりはしないから大丈夫だ」
初めてこれを使ったときはつらかった。
着いてからしばらくの間フロントで動けなくなったものだ。
尻込みしているハクを押して、扉の中に入る。
景色が流転しながら、切り替わっていく様子は何度見ても変な感じだ。
「着いた?」
「着いたな」
そのまま歩き続けると小綺麗な和風の大広間に出てきた。
その大広間に一人だけいる女性に話しかける。
「お久しぶりです、有紗さん」
「あら、正人君? 久しぶりね」
有紗さんは俺が蓬莱に所属した時からいる人で依頼の受付や処理、窓口などを担当している。
蓬莱に所属していない妖術師は、基本的に有紗さんから依頼をもらうか自分で依頼を取ってくるかになる。
「今日は何の用かしら? ようやく蓬莱に戻ってくる気になったのかな?」
「今日は面会したい人がいまして。十席第六位はいますか?」
「猿飛君なら今任務で出ているわよ」
「じゃあ、十席第四位は?」
「彼女も任務で今いないわね」
「第七位は……」
「任務で出ているわ」
「……誰かいないんですか? 十席の中で」
「十席でいるのは、第三位と第十位ね。呼ぼうか?」
「いえ、いいです」
困ったことになった。
蓬莱から情報を得るには、資料室にまで行かなければいけないが、俺は蓬莱の人間ではない。
そのため、蓬莱の許可を得た上で入る必要があるのだが、知り合いで協力してくれそうな人は現在いないようだ。
「正人、十席って何なの?」
頭を抱えている俺に、ハクがそう尋ねた。
「十席っていうのは、蓬莱の組織の最上位に位置する機関で、蓬莱にいる妖術師の中で最も優秀な十人の妖術師が選ばれているんだよ」
「もしかして、そこに妖怪がいるの?」
「まあ、妖怪もいるな」
ハクに説明している途中で有紗さんが間に入ってくる。
「へえ、それじゃあその妖怪関連で調べたい感じ?」
「そうなんですよ、だから入れてくれませんかね?」
「私にはそんな権限がないから無理ね。十席か姫様に頼んでもらわないと困るわ」
「姫様は蓬莱のボスですよ。そう簡単に面会できるわけないのに言わないでくださいよ」
有紗さんは頬に手を当てながら、首を傾けてそう言った。
十席で現在いるのは第三位と第十位。その内、第三位は知っているが、あまり快く思われていなかったようで昔から当たりが強い。一方、第十位に関しては俺が蓬莱を辞めてから、十席入りした人物であるため、面識がない。
どちらに頼んでも自分の望む返事はもらえない気がする。
姫様なら、もしかしたら許可が出るかもしれないが、蓬莱のボスである彼女にすぐ面会できる可能性は限りなく低かった。
「どうしたものかな」
考え込むが、答えが出ない。
蓬莱の力無しに闇雲に探していたら、時間がいくらあっても足りない。
だからこそ、必要なのだが協力してくれそうな人がいない。
「……どうしたら」
「あれ、正人じゃん。おひさだね」
後ろからの声に振り向くと、そこには百六十センチほどの小柄な男が立っていた。
見た目と言動だけなら、中学生と見間違えられることも少なくないぐらい子ども扱いされているが、その実力は本物である。
「久しぶりだな、風真。ちょうどお前に用があってきたんだ」
「うん、用って何だい?」
こいつが十席第六位に位置する蓬莱で十本の指に入る妖術師である。
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