二章 十の席に選ばれし者➁

「【かの傷を癒し給え】」

 そう唱えると、目の前にいる白髪の少女の手足についた傷が癒えていく。

「これで大丈夫か?」

「うん、ちゃんと動くの」

「ちょっとの間、ゆっくり休んでおけよ。自然回復能力を加速させて治癒したから、結構体力奪っているからな」

 腕を回して身体の動作を確認している少女にそう言った。

 あの戦闘があった河川敷から離れて、我が家に帰ってきた。

 あの後、夜烏の者たちが集まってきていたので、見つからないよう逃げるのには苦労したが、なんとか帰ってこれた。

 現在、白髪の少女の傷を癒して話を聞こうとしていた。

「さて、傷も癒えたことだし、改めて話すとするか」

 客間の和室の座布団の上に座り込む。

 テーブルを挟んだ向かいに俺に合わせて少女も座る。

「おま……えっと、名前はなんていうんだ?」

 お前と言いかけて気付いた。

 まだ、白髪の少女の名前を聞いていなかった。

「そういえば、言ってなかったの。私はハクなの」

「ハク、さっきは悪かったな。頑なに拒んで」

 あの時の態度はあまり良くなかったと思い、頭を下げて謝る。

「だ、大丈夫なの。こちらこそいきなりあんな話を切り出したのは、悪かったと思うの。ごめんなさいなの」

 ハクも俺と同じように頭を下げた。

「じゃあ、この話はおしまいだ」

 パチン、と手を鳴らして話を断ち切る。

「依頼の話を聞かせてもらっていいか?」

「本当にいいの? このままじゃ本当に私に巻き込まれることになるの」

「今更だろ、そんなの。さっきハクを助けた時点で俺は目をつけられてるし、それにあの河川敷に俺が使っている札を置いてきたからな。俺のことを知っている夜烏の人間がいれば、俺だってすぐ分かるはずだ」

 河川敷で夜烏と対峙した時点で、それくらいの覚悟はしているつもりだ。

「どうして、そんなことを……」

「依頼を受けるからには、途中で逃げ出せないようにハクと同じだけのリスクは背負っておかないとな。それに話が分かる奴だったら、俺に接触してきたときに詳しい状況を聞けるだろうしな」

 自分は、あの京都事変のときから時が止まっている。

 あの時感じた恐怖を未だに鮮明に覚えている。もし、同じ恐怖を感じたら、俺は逃げてしまうかもしれない。

 だから、逃げられない状況を自分自身で作っているのだと思う。

「あ、ありがとうなの」

「泣くのはまだ早いぞ。まだ何も始まっちゃいないしな」

 ずっと一人でハクは夜烏から逃げてきたのだろう。

 誰かの助けをずっと求めつつも、一人で戦い続けてきたのだと思うと、心が少し痛む。

「……もう大丈夫だ」

 ハクの頭を撫でながら、そう呟いた。

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