一章 英雄と呼ばれし妖術師➅
「……行ってしまった」
路地裏を抜けて消えていった後ろ姿を見て、そうつぶやいた。
昔、聞いたことのあった妖術師という存在。その中でも有名だったのが、西条正人だ。
あの京都事変を終結させた英雄、夜烏から命を狙われ始めた時、そのことを思い出した。
たまたまこの町にいることが分かって、ようやく彼を見つけることができたが、結果は散々で、結局駄目だった。
「どうしよう。蓬莱に頼る?」
西条正人が言った通り、蓬莱ならば私を助けてくれるだろうか。それとも、夜烏と一緒で私と敵対するだろうか。
「妖術師は、妖怪の誰をも助けてくれるわけじゃないの」
さっき彼が言った言葉が頭をよぎる。
もし、私の言ったことを信じてもらえなければ、蓬莱と夜烏の祓い屋二大組織を敵に回すことになる。
そう考えると、蓬莱に助けを求める気になれなかった。
「私一人で頑張るの」
元々、私の抱えている問題だ。しかも、この問題は命に関わることだ。
それに他者を巻き込むという考え自体間違っていたのかもしれない。
自分一人で頑張る覚悟を決め、フードを被り直す。
そして、路地裏から出ようと歩き始めた。
その時だった。
バンッという音が鳴り響いた。
「……うっ」
咄嗟に左に飛ぶと、右手に痛みが走った。
見てみると、血が出ていた。
「やっと見つけたぞ」
後ろを振り向くと、何かを筒状の物を持った黒装束の男が立っていた。
「一応名乗っておこうか。俺は夜烏の最高幹部が一人、八咫烏第五烏の景虎だ。お前には、じっくり話を聞かせてもらうぞ」
そう言って、こちらに筒状の物を向ける。
次当たったら駄目だと、本能が告げていた。
筒から出た弾が一直線上に飛んでいく。
私は飛び退いて躱そうとするが、弾は私を追うように曲がってきた。
それと同時に男はもう一度、私に向かって弾を打ち出す。
追尾してくる弾には、多大な妖力が込められていた。これが、一つでも当たれば無事では済まない。
追尾性能が切れるまで躱そうにも、ここは路地裏で狭い。それに、もたもたしているとあの男に一方的にやられる。
あまり狭い路地で妖術は使いたくなかったが、仕方ない。
私は左の拳に妖力を溜め込む。そして、もう間近に迫った二つの弾に向かって、拳を振り下ろす。
「くっ!」
すると、風の斬撃が弾を引き裂いた。男も、突風で身動きが取れずにいた。
この一瞬の隙に私は路地裏を飛び出した。
空はもう暗くなっており、商店街の明かりだけが光を放っていた。
男も路地裏から出てきたようだが、まだ気づいていない様子だった。
今の内に逃げないと……。
心の中で焦る中、私は商店街を飛び出した。
「いたぞ!」
だが、それは罠のようだった。
景虎と同じく、黒装束の男たちが商店街の周りを囲んでいたらしい。
おそらく、あの男の指示であらかじめ逃げられないように用意していたのだろう。
「相手は一人で手負いだ。俺達でも捕獲できる。恐れず、前にでよ!」
その掛け声で、黒装束の男、五人がこちらに向かってくる。
今度は全身に妖力を駆け巡らせる。
「まずい! 全員で攻撃だ!」
指示と共に攻撃を打ち出すが、もう遅い。
攻撃が当たる前に、大地を蹴り、上へと飛び退く。そして、近くの屋根伝いを走って逃げる。
「くっ、追え! 逃がすな!」
地を蹴った際に起きた突風で身動きが取れなかった陰陽師たちが、私を追って、行動を開始する。
思ったより逃げ切るのは難しそうなの。
いつか捕まる未来が容易に想像できて、不安に駆られながら、とにかく走った。
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