一章 英雄と呼ばれし妖術師➂
左手にずっしりとした重みを感じる。
集中して意識を整えて、大きく振りかぶって投げる。
投げたボールは左のガーター側ぎりぎりまで来て、そこから急激に曲がって中央にあるピンに向かってゆく。
ボールはピンの中央を貫き、十本あるすべてのピンを倒した。
「すげえ! これで三連続ストライク、ターキーだ!」
「なんで、落ちないの! あそこからどうなったら、ストライクが取れんのよ!」
今、俺たちは無事ボウリング場に着いて、ボウリングを始めていた。
ちょうど、第三フレームまで終わり、一位が三連続ストライクでターキーを出した俺、二位がストライク一回、スペア二回の陽で、三位がスペア三回の摩耶で、最後にほとんどがガーターで今まで倒した本数がたったの三本の茜である。
茜は的を射ることはできるのに、ピンには当たらないと嘆いていた。
皆ターキーに興奮しているようだが、俺の気分はあまり良くない。
「……」
じーっとこっちを見ているフードを被った妖怪がずっと隣にいるからだ。
ボウリング場に来るまでは、俺に話しかけようと試みていたようだが、話を聞いてもらえないと理解したらしく、ここに来てからは、ずっと無言で熱い視線を送られている状況だ。
呑気に楽しんでもいられない。
「正人ももっと喜べよ。それとも、ミスターパーフェクトにとっては、当然って事かい?」
「うるさい。俺も喜んでいるさ」
「本当かよ」
嘘だ。そんな余裕ない。
ただ一つだけ分かったことがあるとすれば、この妖怪が俺に敵意を持って近づいたわけではないということだ。
もし、そうしたことを考えているのなら、これまでに襲ってきているはずだ。
しかし、あの妖怪はただじっと近くで俺が話を聞いてくれるのを待っている様子だ。
「……また、ガーター」
「仕方ないよ。次があるって!」
茜はまた、二球とも全てガーターだっとようだ。
ここまで続けば、ある種の才能なのかもしれない。
ひとまず、あの妖怪については安全と判断しても良いのかもしれない。何のために近づいてきたのかについては、まだ何もわかっていないが……。
「おーい。次、お前のターンだぞ」
「おう!」
……何が目的かについては何もわかっていないが、とりあえず、妖怪については後回しにして、ボウリングに集中するとしよう。
そう思いながら、ボールを手に取った。
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