特別編 『バレンタインSS』 白亜編

「コウ、ハッピーバレンタイン。チョコちょうだい」

「白亜は本当にブレないな‥‥」

「当たり前じゃん」

白亜だけは、毎年バレンタインになると俺にチョコをねだってくる。そしてホワイトデーになると、なにかしらのお返しをしてくれる。ほかの4人とは違って、白亜だけは逆の立場になる。ここ数年はずっとこんな感じだからいい加減俺も慣れてきた。

「ほら、これだよ」

「これは‥‥!?」

「抹茶テリーヌだよ。白亜、確かこれ好きだったよな」

驚いた様子の白亜に対し、俺はそう声をかける。俺が白亜に対して用意したのは、抹茶テリーヌと呼ばれる長方形のスイーツだ。

「これ‥‥私のために?」

「あー、まぁそうだな。今日渡すのは白亜と母さんだけで、母さんには余ったものを渡す予定だから」

もともと、今日お菓子を渡すのは例年ねだってくる白亜だけの予定だったのだが、今年はなぜか母さんも「私も虹が作ったお菓子食べたい!」とか言い出したから気持ち多めに作っておいた。けど、最初の予定を崩して抹茶テリーヌから作るものを変えるのは正直だるい。だから、白亜だけに渡す予定だった抹茶テリーヌをそのまま作ったのだ。


「むぅ‥‥そこで歯切れよく『そうだよ』って言えないのがコウの悪いところだよ。‥‥けど、今日はこの抹茶テリーヌに免じて許しあげる。感謝してね」

「お、おう‥‥?」

なんか勝手に怒られて勝手に許されていた。一体なんだったんだ‥‥?

けど、当の本人は、珍しくあからさまに頬を緩ませている。それくらい喜んでもらえたということなのだろうし、今回の抹茶テリーヌは成功したってことでいいんだろう。とりあえずは一安心だ。

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