第28話 「虹ちゃん、満足しましたか?」

「虹ちゃん!お昼休みです!」

「おう、そうだな」

4時間目終了のチャイムが鳴るや否や、俺の机のまえにやってきた翠は、開口一番そう言ってきた。

ちなみに翠は今日1日ずっとテンションが高い。いつもの2倍は高い。ずっとこのテンションで疲れないのかなとも思うが、聞くだけ野暮だ。


それにテンションが高い理由は朝にも聞いた通り、俺を独占できるからなのだろう。

‥‥こんなふうに考えてしまうのは自意識過剰だろうか?


「虹ちゃーん?なんだか顔が怖いですけど、大丈夫ですかー?」

「あ、あぁ、悪い。少し考え事をしていただけだ」

翠に声をかけられ慌てて意識を戻す。どうやら自分でも気づかないうちに深く考えすぎていたみたいだ。


「それでお昼はどこで食べるんだ?」

「よくぞ聞いてくれました!」

最初の方の話に戻すために、俺が翠にお昼を食べる場所を聞くと、翠は自信満々に胸を張りだした。

‥‥それやめた方が良いぞ、翠。(おそらく)朱莉や蒼よりはでかいであろうたわわに実った果実がこれでもかと強調されているから、目のほよ‥‥目の毒だからな。

「私たちがお昼を食べるのはズバリ、屋上です!」

「なるほど‥‥」

確かに屋上は今まで行ったことないし、気になる場所であるのは間違いない。今の時期なら、温かいし外で食べるのもやぶさかではない。


「それに、屋上なら人気ひとけもあまりありませんし、なにより楽しそうです!」

机に手を勢いよく叩きつけ乗り出しながらそう熱弁する翠の目はとても輝いている。どうやらかなり楽しみにしているようだ。

「場所が決まっているのなら早めに移動しようか。ご飯を食べる時間もなくなっちゃうしね」

「はい!今までの2人と同じように私もお弁当を用意してきているので楽しみにしておいてください!」

場所を決めた俺と翠はさっそく移動を開始した。


「これが虹ちゃんの分のお弁当ですよ」

そう言って翠は水色の包みを渡してくれる。

「ありがとう。開けてもいいか?」

「もちろんですよ」

それを受け取った俺は、翠に一言断りを入れてから包みを開ける。そしてその中から出てきたのは、黒色の2段重ねになった長方形のお弁当箱だった。


「2段重ねになっているのか」

「そうですよ。虹ちゃんも男子高校生ですからね。私と同じサイズのものでは足りないかと思い多めに用意しました」

どうやら翠が気を遣って多めに用意してくれたみたいだ。隣に座る翠のお弁当箱を見てみたら、ちんまりとした1段のお弁当箱が膝に乗っかっていた。確かにこのサイズだと俺には少なかっただろうし、翠の考えは間違いなかったといっていいだろう。


「おぉ‥‥」

お弁当の蓋を開けた俺は、思わず感嘆の声を漏らす。

1段目には、色とりどりのおかずが詰められていた。ミニハンバーグや卵焼き、ポテトサラダなどオーソドックスなものに加え、小さいカップに入ったパスタなんかも用意されていた。このパスタは翠のイタリアン好きが影響しているのだろう。

2段目にはふりかけご飯が容器いっぱいに敷き詰められていた。これだけ敷き詰めてくれているのも、翠の気遣いの証だろう。


「いただきます」

「ふふ、召し上がれ」

両手を合わせ挨拶を済ませた俺は、最初に卵焼きに箸を伸ばした。

モグモグ――――

「うん、美味いな。卵焼きの味付けを甘めにしたのには理由があるのか?」

「彩さんから虹ちゃんは甘めの味付けの方が好きだと聞いたからですね」

どうやら朱莉だけでなく翠も俺の母さんに話を聞いていたようだ。卵焼きの味の好みくらいなら別に構わないのだが、そのうち勝手にプライベートな情報も漏らされそうで少しビビっている。母さんにはちゃんと言っておかないと。


「――――ごちそうさまでした」

「お粗末様です。良い食べっぷりでしたね。見ていてとても嬉しかったです」

あの後も俺は夢中になって翠のお弁当を食べていた。どのおかずもすごく美味しかったせいで、食べることに夢中になってしまい、翠との会話もほとんどなく、ものの5分で完食してしまった。


「悪い、翠。お弁当に夢中になっちゃってた」

「別に大丈夫ですよ。むしろとても美味しそうに食べてくれたので、作った側としては嬉しいほかなかったですよ。あ、これデザートのりんごです。よかったら食べてください」

そう言って差し出されたりんごは、きれいにウサギ型に切りそろえられていた。そのせいか、デザート1つでもかなりの想いが込められているのを感じる。

「ありがとう。もちろん食べるよ」

そう言って1つを手に取りそのまま口へ運ぶ。そうして口の中で咀嚼すればシャクシャクと気持ちのいい音が聞こえてくる。この音、めっちゃ好きなんだよなぁ。


そんなことを考えながら食べていたら、気づけばりんごはなくなっていた。

「あ、悪い翠。全部食べちゃった」

「もともと虹ちゃんの分として用意していたものですし。家に帰ればりんごくらいあるので気にしないでいいですよ」

再度謝る俺だが、翠は特段気にした様子を見せない。翠の言葉はおそらく偽りのない真実なのだろう。


「虹ちゃん、満足しましたか?」

「あぁ。ものすごく満足したよ」

「そうですか。それはよかったです。なら次は私の番ですね」

‥‥ん?なんか今、怖い言葉が聞こえてきたような。

「虹ちゃん、朱莉ちゃんと被ってしまうのは少々癪ですが、この際かまいません。膝枕させてください。今度は虹ちゃんが私を満足させる番ですよ」


どうやら今日の昼休みも平穏には過ごせそうにないみたいだ。














―――――――――――――――――――――――

なんだか、口調も相まって、翠がメイドにしか見えなくなってきたw


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