第24話 「私たちの戦争はね、情けは無用なの」

昼休み、屋上にて。

「はい、虹。あーん」

「あ、あーん」

俺は蒼にお弁当のおかずを「あーん」されていた。ここまでなら別に問題はない。アピールの一環として俺も受け入れることができただろう。だが、現状はとてつもなく酷いことになっていた。


「なぁ、湯原さん、遠山さん、氷室さん、水無月さん。俺たちは一体何を魅せられているんだ?」

そう、蒼が俺に「あーん」をしてきているのは、まさかの橙弥と蒼以外の幼馴染の目の前なのだ。俺からしてみれば、この状況には羞恥しか感じられない。もはや拷問だ。

「蒼ちゃん、これは宣戦布告ですかねー」

「そうだねー。真っ向から喧嘩売ってきてるよ」

「明確に敵意を表現してる。煽りの意味も含まれていると思われる」

「あ、あーんなんて。そんなこと私にはできないわよ」

どうやら4人は4人なりの解釈をしているようだ。

まぁ、1名あわあわしている初心な方(紫夕)がいますけど。その人は無視でいいかな。


「ほら、虹。ちゃんと食べてってば」

「いや、あの自分で食べれるよ?」

「いいじゃない。朱莉には膝枕までされたんだから。私のあーんだけできないなんてことはないわよね?」

「ぐっ‥‥」

さすがに幼馴染や、男友達にあーんされているのを見られるのは恥ずかしすぎるから、蒼に断りを入れようとするが、朱莉の時のことを盾に使われて何も言い返せなくなってしまう。

「ガルル‥‥」

「朱莉ちゃん、落ち着いてください。威嚇したところで何も変わりませんよ。今日は蒼ちゃんが虹ちゃんを独占する日なんですから」

4人の方もなんだかいろいろ起きてるみたいだ。先日のことを出されて、朱莉が若干怒っているようで、翠がそんな朱莉を慰めている。

「虹にあーんするのがずっと夢だったの。今まで誰も虹にあーんなんて出来なかったし、虹の初めてを1つ奪っちゃったわね」

「ガルル‥‥」

「いや、翠までそんな安い挑発に乗ってどうするの。さっき朱莉に『威嚇するな』って自分で言ってたじゃん。ブーメラン刺さりまくってるけど大丈夫?」

え、今のって挑発だったの?俺的には単純に蒼の独り言にしか思えなかったんだけど。でもまぁ、白亜がそうやって言っているんだし、蒼は挑発の意味も込めているのかもしれない。独り言にしては声のボリュームが大きかったし。5人の中でしか伝わらない言葉の意味もあるのかもしれない。

「それにしても、白亜たちも虹にあーんの1つでもすればいいのに‥‥」

「ガルル‥‥」

「水無月さん。あなたに一番大きいブーメラン刺さってますよ」

どうやら白亜も蒼の挑発に乗ってしまったようで、呆れた声で橙弥がなだめている。ここまであからさまに4人のことを挑発するなんて、蒼ってこんなに性格悪かったっけ?今までのことを振り返ってもこんな風になった蒼は見たことないんだけど。


「虹、1つだけ言っておくわ」

「どうしたの?」

「私たちの戦争ヒロインレースはね、情けは無用なの。誰が選ばれて誰が選ばれないのかのみ。全員が女の子としてのプライドと、夢を抱えて戦うの。これくらいするのが普通よ」

そう宣言する蒼。朱莉の時もそうだったが、この5人は俺のことになると、どうも性格が急変しているような気がする。これも母さんの言ってた『女の本気』なのかもしれない。どのみち、これからの5人の言動にはどんどん振り回されれていくんだろなぁ。

そんなことを考えながら、俺は蒼にあーんされた唐揚げを咀嚼していた。これ美味いな。蒼が一から作ってくれたのだろうか。とりあえず、蒼には感謝しておこう。

ちなみに、最後まで蒼の挑発に乗ってこなかった紫夕はというと、

「あ、あーんなんて私には‥‥」

「氷室さん、いつまでそれ引きずってんの?」

最後まであーんを引きずっていたせいで、蒼の挑発なんて耳に入っていなかった。


「なぁ、虹。この3人、いつまでもバーサーカーモードなんだけど、どうにかなんない?氷室さんに関しては、いつまでもあーんを引きずってるし」

「紫夕はちょっとわかんないが、ほかの3人ならどうにかなるかもしれないな」

困ったように俺に助けを求めてくる橙弥。こいつ、俺が蒼にあーんされている間にも、3人の機嫌を直そうとしてくれたり、紫夕を現実に引き戻そうといろいろしてくれたんだよな。まぁ、それでどうにもならなかったから俺を頼ってきたんだろうが。とりあえず、橙弥の苦労には応えてやらないとな。

「3人とも—。そんなに怖い顔するなって。俺は3人の笑っている顔がみたいな」

「「「ふへぇ‥‥////」」」

うん、とりあえず3人の機嫌は直ってくれたな。紫夕に関しては、ちょっと俺には手に負えないし、時間経過で現実に戻ってくるのを祈ろう。

「毎回思うけど、これで機嫌直るこの人たち、チョロすぎでは?」

「橙弥、次それ言ったら2度とバーサーカーモードの時助けてやらねぇからな?」

「ごめんて」

一応、地雷を踏みそうな橙弥の発言にはしっかりと釘を刺しておいた。

「まぁ、そのくらいは許してあげるわ。その代わり、あとで虹にはしっかりと私のことを可愛がってもらうけどね」

3人の機嫌が直ったと思ったら、今度は蒼の機嫌が悪くなってしまった。

無限ループでは‥‥?














――――――――――――――――――――――――――

緑麗:「蒼ちゃん、Sだねー」

菫:「私の娘はもはやスタートラインにすら立ててないんじゃないの?あーんだけであんなになるなんて‥‥」

美雪:「なかなか面白いですね!虹くん、これからもこんな感じでアピールされると思うから、頑張ってね!」


今回の一番の苦労人は橙弥です。

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