第21話 「朝から虹と密着‥‥」

「ごちそうさまでした!!」

「気にすんなー。その代わり、モデルはきちんとやってもらうしな」

『colorful』を出た後、ファミレスで火神さんに夕ご飯をごちそうになった。火神さんにはかなりひどいことをされたが、それとこれとは別なのでしっかりとごちそうになった。


「それじゃあ、気を付けて帰れよー。と言っても、そっちは少年がいるし心配ないか」

帰り道が分かれるタイミングで火神さんが声をかけてくれる。この辺は大人としてちゃんと気にかけてくれるらしい。‥‥あまり信頼されても困るけどな。

「そう言われるのはもうフラグにしか聞こえないんですよ。不吉なのでやめてください」

「ハハッ、悪かったな。まぁ、何もないと思うぞ。じゃあな」

最後にまた、フラグのような発言を残して火神さんは、俺たちに背を向けて歩いていく。

「火神さん、ありがとうございましたー!」

「またお店に伺わせていただきまーす!」

「気をつけてくださいねー!」

「モデルの話もよろしくお願いしまーす!」

「ごちそうさまでしたー!」

5人も口々に挨拶しながら、手を振り火神さんを見送る。

そんな火神さんは、振り返りはせず、ただ手を振り返して、そのまま歩いて行った。


「さてと俺たちも帰るか」

火神さんが完全に見えなくなったタイミングで、俺たちもそれぞれの家に向かって歩き出す。

日がほとんど地平線の向こうへ沈み、だいぶ周りが暗くなってきた。急ぎ足で帰らないと気温も下がってきそうだ。


「火神さん、すごい良い人だったね」

「そうですね。モデルの話も簡単に通りましたし」

白亜と翠がそんな風に話しているが、俺の頭の中は疑問符でいっぱいだ。

火神さんが良い人?いや、ちゃんとしているときは良い人なんだろうけど、俺には性格悪い火神さんしか印象に残っていないな。

そんなことを考えながら歩いていると、ちょうど5人の家のあたりに着いていた。


「それじゃあみんな、おやすみー!」

朱莉がそう言ったのを皮切りに、みんな口々に「おやすみ」と言ってそれぞれの家へと入っていく。朱莉、白亜、紫夕、翠が入っていき、最後に蒼が残る。

残った蒼は、家に入る素振りを見せず、じっとこちらを見つめている。

「どうした蒼?入らないのか?」

俺がそう聞くと、蒼は少しだけ口元に笑みを浮かべて、

「明日は私が虹を独占する日だから、楽しみにしておいてね」

そう言い残して家に入っていった。最後の言葉の口調と口元の笑みは、少しだけ小悪魔めいていた。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

――――ピーンポーン

翌朝、学校へ行くための身支度を済ませ、家のリビングでくつろいでいるとインターホンが鳴る。おそらく昨日意味深な宣言をして帰っていった蒼だろう。もう少しすればここまで入ってくるはずだ。


「‥‥‥‥」

そう思っていたのだが、なかなか入ってこない。一体どうしたというのだろうか。

心配になった俺は、玄関の外へ様子を見に行く。こんな時間に宅配便が来たりすることはないだろうし、インターホンを押したのは蒼で間違いないとは思うのだが。


「蒼、どうした――――」

「虹ーっ!」

「うわっ?!」

玄関のドアを開けた瞬間、俺の体に蒼が飛び込んでくる。さすがに突然すぎたため、俺もうまく受け止めることができずに、玄関に倒れてしまう。正面から抱き着かれて、後ろに倒れこんでいるので、俺の上に蒼が覆いかぶさる形になる。


「ちょっ、蒼?!いきなり抱き着いてくるなよ!」

「えへへぇ、朝から虹と密着‥‥。幸せ////」

蒼に声をかけるも、俺の上から退くどころか、まず聞く耳をもってくれないし、俺の上を堪能している。早く退いてほしいんだけど。


「蒼?いったん退いてくれるか?早く学校に行かないと遅刻してしまうから」

「やだ!虹と密着していたいもん!」

一応聞く耳は持ってくれたが、相変わらず退いてはくれない。頬を膨らませて抵抗の意を示してくる。

チクショウ、いちいち可愛いな。もともと整っている顔を、リスのように膨らませている。しかも、覆いかぶさられているせいで、目と鼻の先にその顔があるため、破壊力がとんでもない。

というか、いつからそんなキャラになってしまったんだ。今までのクールさはどこにいってしまったんだよ。今まで蒼から「もん!」なんて聞いたことないぞ?


「あのー、蒼さん?いろいろキャラが崩壊してしまっているような気がしますが大丈夫ですか?」

「違いますぅー。これが素の私なんですぅー」

え、マジで?これが素の蒼って‥‥。今までは猫を被ってたってことか?

「こんな姿、虹以外には見せられないし。と言っても4人にはバレてると思うけど」

どうやらほかの4人は今のような蒼の素の状態を知っているようだ。朱莉の時からそうだけど、こうやって1人ずつと話すことが増えてから、今まで知らなかったことをどんどん知っていっているような気がする。15年くらい一緒に過ごしてきた5人だけど、まだまだ知らないことはたくさんありそうだ。


「‥‥いや、蒼!本当に遅刻しちゃうから!早く行こう!」

「そしたら虹と密着できなくなっちゃう‥‥」

「腕組みで勘弁してください!」

「やった!それじゃあ、早く行こ!」

上手く蒼に乗せられてしまったような気がする、もうどうでもいいや。

とりあえず今日1日蒼に振り回されることは確定しました‥‥。












―――――――――――――――――――――――――

も、もしや『いい夫婦の日』の蒼のEpiは伏線‥‥?!

デレデレになった蒼の攻めは、萌え不可避?!虹は一体どうなってしまうのか!?


翠:「蒼ちゃん、大胆ですね」

朱:「ほんとだよ。これじゃあ、私が霞んじゃうなー」

紫:「やっぱり順番は最初の方が良いのか、後の方が良いのかわからないわね」

白:「蒼、絶対後で羞恥で悶えだすよ」


(こんな感じで、これからあとがきにもキャラクター達を出していこうと思います。誰が出るかはその日の作者の気分で決まります)

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