第20話 「何してもいいぞ」

「火神―!!」

「アハハハハッ!!」

5人が意識を失い倒れていく姿を見た瞬間俺は、思わず叫んでいた。

この際、火神さんを呼び捨てにしていたのは許してほしい。だってこの人が絶対悪いし。


「どうするんですか!!5人全員気を失っちゃったじゃないですか!?」

「でも、私の言った通りにやったらくねくねしなくなっただろ?むしろ感謝してほしいくらいだぞ?」

「もっと他に方法あっただろうがぁ!!しかも、もっと大変なことになってるんだよ!!」

全く反省してないよ、この人。しかも自分を正当化しようとしだしたし。

‥‥とりあえず、5人の介抱が先か。


「おーい。朱莉ー、蒼ー、紫夕ー、翠ー、白亜ー?大丈夫かー?」

後ろ向きに倒れて、今も仰向けに倒れているし、後頭部を打っている可能性もある。もしけがをしていたら大変だし、一応全員体を起こして外傷がないかを確認してみる。

「「「「「ふへぇ‥‥/////」」」」」

あ、これ大丈夫なやつだ。全員、そろいもそろって幸せそうな笑みを浮かべてるわ。心配するだけ損だったかもしれねぇ。


「いやーお疲れさん。少年、俳優でも目指せるんじゃないか?さっきの言葉、かなりよかったぞ」

「あなたも手伝ってくれませんかね。5人も介抱するの大変なんですよ‥‥」

腕と足を組み、偉そうに椅子にふんぞり返っている火神さんに、俺は呆れながら返事をする。もう怒る気力もなくなってきた。


「心配しなくてもしばらくしたら自然と目を覚ますと思うぞ。単純に気絶してるだけだしな」

「…なんだか疲れましたし、眠くなってきました。しばらく寝ててもいいですか?」

「別に構わないが、そんなところで寝るのか?一応休める場所くらいは確保できるぞ?」

「5人もここにいますので、全員まとめて移動させることもできませんので。5人が起きたら俺も起こしてください」

「あ、あぁ――――」

火神さんの言葉を聞いた瞬間、俺はプツンと意識が切れて、そのまま眠りについてしまった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「虹――――――――ね」

「―――ても―――ら?」

「――がに―――た―――が」

「――たし―――ついた」

「なに―――の?」

なんだ?遠くから声が聞こえてくる‥‥?

この声は、5人か‥‥?

「フゥー」

「うわぁっ!?」

意識が覚醒しかけた瞬間、俺の耳に何か温かいものが入ってきた衝撃で、飛び起きる。

「あ、起きちゃった」

突然のことに俺がびっくりしていると、後ろから苦笑交じりにそんな言葉が聞こえてくる。

「起きちゃった、じゃないよ!何やったの?!」

「何って、耳ふーだよ?」

声の主である白亜に聞けば、白亜は首を傾げながらそう答える。

いや、そんな「何言ってんの?」みたいな感じで言われても‥‥突然すぎて理解が追い付かないんだけど。


「それにしても、ぐっすりと寝ていたわね」

蒼がそう言ってくる。

そうか。俺、火神さんの店で寝ていたのか。

「あれ?そういえば火神さんは?」

「お店の方に戻ったよー」

寝る前まであった姿が見当たらないので、疑問に思っていると、朱莉が火神さんの居場所を教えてくれる。

まぁ、あの人も自分の店だしな。そりゃいつまでもこんなとこにいられるほど暇じゃないか。


「というか、今何時だ?」

どのくらい寝ていたのだろうか。あまり寝たような気もしないし、長い時間寝ていたような気もする。

「夜の7時過ぎね」

「7時過ぎぃ?!」

冷静な紫とは対照的に俺は、素っ頓狂な声を上げる。俺がこの店で寝始めた時間が5時くらいだったし、1時間半以上寝ていたことになる。


「今日の夕ご飯の準備全くしてないよ!火神さんに挨拶して、早く帰ろう!」

「あ、それなら心配らないですよ」

俺が慌てて帰り支度を始めると、翠が諭すように言ってくる。

「どういうことだ?」

「火神さんが夕ご飯、ご馳走してくれるんだって!お礼とかを兼ねてだってさ」

俺の質問に、朱莉が笑顔で答える。どうやら俺たちに対するお礼として、ご飯をおごってくれるらしい。‥‥俺的には、お礼の意味以外に謝罪も含めていてほしいけどな。


「『私の仕事が終わるまでここで待っていてくれ』って言われたわ。あと、『寝てる少年には何してもいいぞ』って言ってたわ」

「あのクソ店長‥‥!!」

やっぱり本気で謝罪してもらおうかな。寝ている人に対して『何してもいい』って。あの人どうかしてるよ。


「コウ、顔が怖い。そんなに店長さんが嫌いなの?」

「お前たち5人が正気を失っている間にちょっとな‥‥」

俺の言葉に5人はきょとんとしているが、この5人に全部を話すつもりはない。むしろ、話したところで信じるとは思えないしな。自分たちが体をくねらせて、挙句の果てに後ろ向きに倒れたなんて。


「おう、少年。起きたか」

俺たちの会話が切れたタイミングで、仕事を終えたらしい火神さんが姿を見せる。

「して、少年よ。寝ている間に幼馴染美少女に何をされたのかな?」

「黙っていてください‥‥」

ニヤニヤしながら聞いてくる火神さんに、俺は少しも怒りを隠さず、そう返事をする。

「面白くねぇなぁ。まあいいか。それじゃあ飯、食いに行くぞー!」

不満そうな声を漏らしつつも、火神さんはそう指揮を執ってご飯を食べに行く準備を始めていった。













――――――――――――――――――――――――――――

作:「ちなみに虹が寝ているとき、何を話してたんだ?」

朱:「虹くんの寝顔、可愛いね」って

蒼:「食べちゃってもいいかしら」って

紫:「さすがにやめたほうが」って

白:「私良いこと思いついた」って

翠:「なにをするの?」って

作:「蒼、お前今なんて言った‥‥?」

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