第19話 『手のひらドリルだって?‥‥知らないな、そんな言葉』
「えへへぇ////」
「ふふふ////」
「~~~っ!////」
「うふふ////」
「‥‥////」
さてと、5人の殺気は収まったわけだが、代わりに目の前では5人全員顔を真っ赤にして体をくねらせるというカオスな空間に発展してしまいました。どうしようか。
「火神さん、助けてくださいよ。あなたが蒔いた種でしょ?」
「違うぞ、少年。私は殺気を出してしまっただけだ。こんなふうに体をくねらせているのは私の責任ではない。少年の責任だ」
「あなたが殺気を出させなかったらこんなふうにはならなかったと言っているんです!!」
こういう時に頼りになるはずの大人が、全く頼りにならない。完全に人任せだよ、この
「おーい、5人ともー。とりあえず正気に戻ってくれー?」
「えへへぇ////」
「ふふふ////」
「~~~っ!////」
「うふふ////」
「‥‥////」
あー、だめだ。俺の言葉が全然耳に入ってないよ。
というか、紫夕。お前はいつまで衝撃を受けたような顔をしているんだ。そろそろその衝撃が抜けてもおかしくないだろ。いつまで目を見開いているんだ。乾燥するぞ。
「仕方ないな。少年、ここは
「ほ、本当ですか?!火神さん!」
なんだ。やっぱり頼りになるじゃないか、火神さん。やっぱり頼るべきは大人なんだよな。
手のひらドリルだって?‥‥知らないな、そんな言葉。
「ち、ちなみにどんな意見なんですか?」
「あぁ、それはな。5人全員の耳元で『愛してる』って囁いてやればいいんだよ」
「できるかぁ!!むしろ悪化するだろうがぁ!」
前言撤回。やっぱりこの大人は頼ってはいけない。むしろ、どんどん間違った道を教えられてしまう。
あぁ、認めよう。これは手のひらドリルだ!!
「ほぅ。随分と自分に自信があるようだな、少年?」
「今までの姿見てたらなんとなくわかりますよ‥‥」
「チッ。なんでこういう時だけ無駄に察しが良いんだ」
「火神さん、聞こえてますよ?」
とんでもない言葉が聞こえてきたが、ここで気にしたら負けな気がするので、敢えて何も言わないでおく。なんとなくだけど、変に反論したら、火神さんの手のひらで踊らされるような気がする。あくまで勘だけど‥‥。
「というか、本当にどうしたらいいんですか!?」
「だから言っているだろう?耳元で『愛してる』と言えb――――」
「もうそのくだりはやりましたから!本気で考えてください!」
2度同じことを言われそうになったので、すべてを言い切る前に途中で火神さんの言葉を遮る。年上の人に対して失礼かもしれないが、もうこの人に対してのリスペクト精神は、とうの昔になくなっている。
俺は悪くない。火神さん自らの言動のせいだ。
「と言ってもなぁ。私は本気で考えて喋っているぞ?」
「普段から自分勝手な言動で、ほかの店員さんを困らせている人がそんなこと言っても、説得力ありませんよ?」
「えぇー?」
火神さんが納得できないと言いたげな顔をしているが、むしろ俺の言ってることの方が世間一般的な考えではなかろうか?うん、きっとそうだ。
「時間経過で元に戻るのを待つしかないかぁ‥‥」
「少年。1回だけやってみれくれないか?耳元で『愛してる』って」
「だからやりませんって!」
この人しつこいな!自分の考えを通すためなら何でもやりそうだぞ?!
「少年!本当に頼む!1回だけでいいんだ!一回だけやってみてくれ!この通り!」
そう言って火神さんは俺に向かって頭を下げてきた。
「ちょちょっ!?何頭下げちゃってるんですか?!」
さすがに大の大人が高校生に頭を下げるなんて、いろいろまずくないか?
「それだけ私は本気なんだ!頼む!」
再度頭を下げながら火神さんは俺に懇願してくる。
「あー、もう!わかりましたよ!やりますから離れてください!」
さすがにこのまま頭を下げさせ続けるわけにはいかないので、俺も渋々ながら承諾する。マジでやりたくないけどな!
「本当か!感謝する!」
俺が承諾すると、火神さんはお菓子を買ってもらった子供のように目を輝かせる。
この人たまに子供っぽくなるよな。気のせいか?
「本当に1回だけですからね?それ以上は絶対にやりませんので。それから、もし失敗したら絶対責任取ってくださいね!」
「任せろ!」
火神さんに再度念押ししておく。ちゃんとここで約束させないと、調子に乗ってまたやってくれとか言ってきそうだからな、この人は。
(うーん、さすがに1人ずつ耳元でやるのはなぁ。もうこの際5人一気にやっても問題ないか)
「5人ともちょっと集まってくれるか?」
そんな風に考えながら、俺は5人を1カ所に集める。幸い、この言葉は聞こえてくれたようで、5人とも集まってきてくれる。まぁ、まだみんな顔が真っ赤でふにゃけた笑みを浮かべてるけどな。
(緊張する~。でも火神さんにやるって言ったし、今更だよなぁ)
心の中でひっそりと後悔しつつ、俺は覚悟を決めて息を吸う。
言うんだ、俺!
「5人とも。愛してる」
「「「「「~~~~~ッ!/////」」」」」
俺が小声でそう言うと、5人は全員もれなく声にならない悲鳴を上げて、倒れていった。
――――――――――――――――――――――――――――
橙:「虹、お前イケメンだな‥‥」
虹:「ぶっ飛ばすぞ?」
橙:「友達に言う言葉じゃないよね?!」
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