第18話 「やはり君は有罪だ」

「さてと、とりあえずお前たち4人の目的はこの2人と一緒にモデルの撮影をすることって認識で合ってるか?」

「はい、その通りです」

俺の目の前で蒼と火神さんによる対談が行われている。一応、「お店の商品売り場で話すことではない」という火神さんの提案を受けて、今は関係者以外立ち入り禁止のスタッフルームで話し合いが行われている。俺と朱莉が最初に連れ込まれた場所だ。


「あのー、火神さん?一応聞いておくんですが、モデルの話ってそんな簡単に決めちゃってもいいんですか?」

「あぁ、問題ないぞ。そもそもここは私の店で、モデルの話も私の独断だからな」

「いや、さすがに独断はマズイでしょ!?」

あっけらかんとした口調で答える火神さんに俺は思わずツッコむ。


「なんだ、何がマズイ?言ってみろ?」

「‥‥どこぞの鬼のボスみたいなセリフですね…」

「それだと少年は私に解体されてしまうな!」

俺が呆れたように言えば、火神さんは笑いながらそう返してくる。

いや、笑いながらそんなこと言われたら、俺は恐怖しか感じないんですけど‥‥


「って、そうじゃなくて!モデルの話が火神さんの独断って本当ですか!?」

「あぁ、そうだぞ。私が勝手に決めて勝手に少年たちを指名した」

「ほかの店員さんには?」

「お前らの話だけはしてあるぞ。まぁ、同じような美少女が追加で4人も来るとは思ってなかったが」

(よし。あきらめよう!)

火神さんの言葉を聞いて俺は心の中でそう固く決心した。

店員さんにホウ・レン・ソウができない店長の店がなんでこんなに人気なんだよ。俺たちをモデルに採用する前に、店員さんへの報告を優先してほしかったな!


「でも最近、ほかの従業員たちは慣れてきたみたいでな。私が唐突にとんでもない提案をしても、すぐに受け入れてくれるんだよな」

(店員さん、慣れたというより諦めたんだろうなぁ‥‥)

俺は心の中で店員さんに敬礼をする。今まで散々火神さんに振り回された結果、諦めが肝心っていうことに気が付いたのだろう。そういえば、さっき火神さんを呼んでもらえるように頼んだ時に妙に納得したような素振りを見せていたのは、俺が火神さんに振り回されていることに気が付いたからかもしれない。


「まぁそういうことだから、君たち4人を新たにモデルとして採用するのは全然かまわないぞ。もちろん少年もセットでな」

「ありがとうございます!」

どうやら蒼たち4人も正式にモデルへの採用が決まったらしい。まぁ今となって考えると、全部店長の独断なわけだから断られる可能性も、最初からほとんど0に近かったんだろうなぁ。


「それにしても少年はいいご身分だな」

「え?」

話がひと段落着いたところで、突然火神さんにうらやましそうな声でそう言われる。俺が良いご身分ってどういうことだ?モデルの経験ができるからか?


「いや、こんな可愛い幼馴染全員に好意を寄せられているんだろう?LOVEの方で。世の中の男性全員に後ろから刺されてもおかしくないレベルだぞ?」

「え?!なんでわかったんですか?!」

「は?」

火神さん、朱莉はともかく蒼たちも俺に好意を寄せているってなんでわかったんだ?俺も朱莉達5人も何も言ってないはずなんだが。


「少年。まさかとは思うが、ここまで露骨にアピールされておいて気づいていなかったのか?」

「そうなんですよー。虹ちゃんったら全く気付いてくれなくて。かなり大げさにアピールしていたつもりなんですけどね。私たち」

俺が返事をするより先に翠が答える。

いや、ほんとに気づかなかったんだよな。今でこそ母さんのおかげで気づくことができたけど、それがなかったら多分今も気づいていないままだろうな。


「少年。やはり君は有罪だ。後ろから刺されるべきだと思うぞ。それか私が解体してやろうか?」

「怖いですよ?!物騒なこと言うのやめてください!?」

急に真顔で何を言い出すんだこの人は。遠回しに「〇すぞ」と言われているようなものだぞ?さすがにびっくりしたし、背筋が悪寒が走った。


「安心してくれ。冗談だ。それにほら、後ろを見てみな。少年の幼馴染たちが別人のような顔でこちらを睨んでいるぞ?」

「え…?ヒィィ!?」

火神さんの言葉に釣られて後ろを見ると、そこにはさっきまでの友好的な態度を全部どぶに捨てた5人が猛獣のように火神さんを睨んでいた。5大美少女とは思えないほどの殺気を放っていて、さながらサバンナで獲物を狙う猛獣のようだ。


「な?言っただろ?少年を解体してしまったら、今度は私が解体されてしまう。さすがにそれは勘弁してほしいからな」

それに殺人犯になんてなりたくはないしな

火神さんはそうぼやきながら天井を仰いでいる。いや、そんなことする暇があったら、この猛獣のようになってしまった俺の幼馴染たちをどうにかしてほしいのだが。


「あ、あのー5人とも?その、怖いくらいに大量に放っている殺気をとりあえず収めてほしいんですが。せっかくの可愛いお顔が台無しですよ?」

俺がそう言うと、5人は一瞬で殺気を引っ込め、代わりに顔を真っ赤にさせる。

「可愛い‥‥虹くんが可愛いって言ってくれた!」

朱莉がそう言って、体をくねくねさせている。それはほかの4人にも当てはまり、同じような反応を見せている。

さっきまでの猛獣が、今度は恋に焦がれた乙女たちに変化へんげしている。

いやまぁ、確かに恋焦がれた乙女たちなんだけど。

それにしても、俺の『可愛い』の一言でここまで変わるって、なんか心配になってきたな。










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紫:「知ってる?白亜。私たち今回一言も喋ってないのよ?

白:「うん。だからここに呼ばれたんだろうし」

紫:「作者のお情けって感じかしら?」

白:「そうだろうね。まぁ、次回はちゃんと喋らせてもらえるように、作者を締め‥‥ゴホン注意しておくから」

紫:「白亜。アンタたまに怖いわよね」

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