第17話 「君は一体前世でどれほどの徳を積んだんだ?」

「さてと、ここね」

朱莉に振り回され、流れでモデルを引き受け、そのことでほかの4人から激怒されるという、情報量がバグレベルの1日を過ごした翌日の放課後。俺と朱莉、そしてほかの4人の幼馴染は、ブティック「colorful」に訪れていた。理由はもちろん、蒼たちが自分たちをモデルにしてもらうための売り込みをするためだ。


「まさか2日連続でこの店を訪れることになるとは・・・・」

昨日の出来事のせいでこのお店には来づらくなってたんだよなぁ。いろんなお客さんに注目されちゃったし、火神さんだけでなくほかの店員さんにも顔を覚えられてしまっている。だからモデルの撮影をするとき以外はできるだけ来たくはなかったのになぁ。


「とりあえず入るわよ。さっきから周りの視線がいちいちこっちに集まってきて鬱陶しいわ」

紫夕が愚痴るように言う。確かにさっきから周りの視線がこっちに全部集まってきている。『彩良5大美少女』の美しさはどこへ行っても目立つらしい。当たり前だよな。


「コウが店長さんのこと呼んでくれるの?」

店に入るなり、白亜がそんな風に聞いてくる。確かに俺か朱莉のどちらかが火神さんのことを呼んでこないと売り込み出来ないよな。

「あぁ、ちょっと店員さんに聞いてみるよ。ここで待っていてくれ」

そう言い残して、俺は火神さんを探すために店員さんを探し始めた。


「あのすいません。このお店の店長さんの火神さんっていらっしゃいますかね?」

「えっとー、どちら様ですか?」

商品の整理をしていた店員さんに俺が声をかけると、店員さんは不思議そうな顔をしてそう聞き返してきた。それもそうか。いきなり店長のことを聞いてくるなんて怪しいに決まってるもんな。

「あ、すいません。火神さんに『才川虹』が来たといえば対応してもらえると思います」

俺がそう言うと店員さんは納得したような顔をして「わかりました」と言って、店の奥に入っていった。


「おう、少年。どうしたんだ?悪いがまだモデルの準備は整っていないぞ」

しばらくその場で待っていると、昨日散々聞いてしまったせいで、すでに耳慣れてしまった男口調の声が聞こえてくる。

「お忙しい中すいません。実はお話ししたいことがありまして」

「なんだ?今更モデルはやりませんっていう話なら聞かないぞ?」

俺の言葉に火神さんは敏感に反応する。というか、やっぱり俺がモデルをやるのは確定なのか。心の中で、もし4人がモデルをやることになれば、俺のモデルの話がなくなるのでは?とか考えてたけど、そんな甘い期待は許されないらしい。

「違います。今日は僕の話じゃありません」

「どういうことだ?」

「まぁ、付いていてください」

俺の言葉に火神さんは少々訝しんでいたようだったが、大人しく付いてきてくれる。


店内を歩いて、最初の場所に戻ると、見慣れた5人の後ろ姿が見えた。まぁ、遠くからでもこの5人の姿は一目瞭然なわけで、改めてオーラの違いを感じる。

「みんな、この店の店長の火神さんを連れてきたよ」

「あ!虹くんと火神さんだ!」

俺の言葉に真っ先に反応したのは朱莉で、俺たちの視認するなりすぐに駆け寄ってくる。そしてその勢いのまま火神さんに抱き着いている。

「おっと。あんまり店内で走るのは感心しないぞー?」

駆け寄ってきた朱莉を抱きとめながら、火神さんは朱莉を柔らかい声色で諭す。口では注意しているようだが、口元は緩んでいるし、頭も撫でているのでそんなに怒ってはないのだろう。というかいつの間にそんなに仲良くなったんだ。初めて会ったの昨日だろ?


「あなたが店長の火神さんですね。朱莉と虹から話は聞いております。2人の幼馴染の空凪蒼と言います。本日は私たちの我儘に付き合わせてしまい申し訳ありません」

「お、おう・・・」

蒼の自己紹介に少し戸惑いを見せる火神さん。そう言えば、朱莉を除いた4人が用があるっているって伝えるの忘れてたな。

「こんにちは。朱莉たちの幼馴染の氷室紫夕です」

「同じく幼馴染の遠山翠です」

「水無月白亜です」

「は、はぁ」

さすがの火神さんもこの時ばかりは、少し狼狽えている。まぁ、急に知らない人に自己紹介されたらビビるよな。


「えっとー、少し情報を整理させてくれ。まず、今日私に用事があるのはお前たち4人か?」

「はい」

火神さんの確認に蒼が答える。

「それじゃあ、次。お前たちは誰と誰が幼馴染なんだ?」

「虹ちゃん含めた私たち6人全員ですねー」

火神さんの次なる質問に今度は翠が答える。そしてその答えを聞いた火神さんはさすがに驚いたようで、口をあんぐり開けて固まっている。まぁ、それぞれタイプの違う美少女が5人もそろって、しかも全員幼馴染というのだから驚くなという方が無理だろう。


「少年。君は一体前世でどれほどの徳を積んだんだ?」

「・・・・・僕自身もかなりの運だなぁと思ってはいますよ」

火神さんの言葉に俺は苦笑いをしながら答える。実際、こんなことが起きる確率なんて天文学的な数字だろうし、俺も俺自身がとんでもない強運の持ち主ということで片づけるしかない。


「火神さん。先ほども言いましたように、今日は私たちの我儘を聞いてほしくてこうした場を設けさせていただきました」

「あぁ、そうだったな」

仕切り直しとばかりに蒼が本題を切り出す。火神さんも本来の目的を思い出したようで、真剣な表情に変わる。


「それで我儘ってなんだ?」

「朱莉たちから聞きました。今度今店のファッションモデルに朱莉と虹を起用すると」

「あぁ、そうだな」

蒼の言葉に火神さんも同意する。まぁ、ここまでは安泰だろうな。問題はこの後だ。


「そこでお願いがございます。私たち4人もモデルとして起用してほしいのです」

「あぁ、いいぞ」

「いいのかよ!?」

えー?モデルの起用ってそんなに簡単に決まるものなの?










―――――――――――――――――――――――――

改めて考えると5人幼馴染がいて、その5人全員女の子で、さらに美少女ってどういうかくりつなんですかね?


虹、世の男の人たちに文句を言われても私は知らないぞ。自己責任だからな。

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