第13話 「虹くんはそういう人だよね……」

「だーかーらー、やりませんって!」

「いいじゃねーか。別に減るもんじゃねーし」

さっきからずっとこの押し問答を続けている。言い合っているのは、この店の店長さんの火神 茶耶(かがみ さや)さんだ。口調からも、かなり男勝り音性格をしていることが感じ取れる。ただ、顔は美形だし、すらっとした体型をしているため、かなりの美人に分類されると思う。

そして、さっきから俺と店長さんがなんのことで押し問答を繰り広げているかというと、店長もとい、火神さんのある提案についてである。


「なぁ、頼むからモデルをやってくれって」

「嫌です。なんで俺がモデルをやらないといけないんですか」

そう、さっきからこの「火神さんの店のモデルをやるかやらないか」という点でずっと押し問答をしているのである。なぜ、俺がモデルをやらないといけないのだろうか。


「というか、俺がやるよりも朱莉がやった方が良いですって!」

俺は朱莉を示しながら、火神さんに提案する。『彩良5大美少女』と呼ばれている朱莉だ。その美貌を活かせばモデルもこなせるだろうし、俺がやるよりも効果的だろう。

「あぁ、彼女ならモデルをやることに同意してもらっているぞ」

「え?」

火神さんの言葉に驚きながら朱莉の方を見ると、朱莉は困ったような笑みを浮かべながら「えへへ」と笑っていた。いつの間にモデルに同意したんだ?


「アハハ。店長さんに懇願されて断れなくって・・・」

頬を書きながら朱莉はそんな風に言っている。どうやら朱莉は店長に言いくるめられてしまったようだ。

「でも、朱莉がモデルをやるなら、俺がやる必要なくないですか?」

「いや、そんなことはないぞ。彼女にモデルをやってもらう条件として、少年と2人でモデルをやるというものがあるからな」

「朱莉・・・・・・・・」

「いいじゃんか別に!私だけでモデルをやるのは嫌だし、やるなら虹くんと一緒にやって、虹くんがモデルをやってるところを見たかったんだもん!」

呆れたような目で朱莉を見ると、朱莉は開き直って、自分の本音をさらけ出した。どうやら店長のお願いを聞く代わりに、俺もモデルをやるという条件と付けたらしい。


「ほら。可愛い彼女さんもこんなふうに言っているぞ。ここまで言われてもまだやらないというのか?」

「別に彼女ではないんですけど・・・・・」

ここぞとばかりに火神さんが口撃を仕掛けてくる。火神さんの言う通り、朱莉だけにモデルをやらせるのは気が引けるし、かといって朱莉に辞退してもらうことも、この感じだと期待はできない。逃げ道がほとんどつぶされて袋小路状態である。こうなったら腹を括るしかないか。


「わかりましたよ・・・・。モデルは引き受けます。ただ1度だけですからね」

「おう、サンキューな」

「やったー!」

俺の言葉に店長より朱莉が喜んでいる。こいつがモデルをやるのは本当に、ただの俺目当てだったようだ。

「それじゃあ、今日のところは帰っていいぞ。こっちの準備が出来次第連絡をするから、どちらかの連絡先を教えてもらっていいか?」

「わかりました」

火神さんに言われた通り、俺はスマホのメッセージアプリのアドレスを表示させ火神さんに差し出す。

「ほい、サンキューな」

俺の連絡先を登録し終わった火神さんが俺のスマホを返してくる。それを受け取って、ようやく俺たちは解放される。

「それじゃあ、撮影の時はよろしくなー」

火神さんの声を受けながら俺たちは帰路に就く。来たときは夕方だったが、火神さんのお店でのいざこざがあったせいで、すっかり真っ暗になっている。思っていたよりもかなり時間が経っているようだ。


「いやー、すっかり遅くなっちゃったねー」

「誰のせいだか・・・」

俺の皮肉めいた言葉に朱莉は「アハハ・・・」と微笑を浮かべる。

「でもでも!滅多に経験できないことができるわけだし、むしろ得じゃない?」

明るい顔でそう言う朱莉とは対照的に、俺の顔は曇っている。

「貴重な経験にはなるんだけど・・・」

「どうしたの?」

言葉を濁す俺に、朱莉は不思議そうに聞いてくる。

「あー、いろいろ思うところがあってな。まず、なんで俺がモデルに選ばれたんだ?」

「・・・・え?」

「え?」

俺の言葉に朱莉は不思議そうに首をかしげる。その朱莉の態度に、俺も違和感をおぼえ、つられるように首をかしげる。俺、何か変なこと言った?


「虹くん、本気で言ってる?」

「あ、あぁ」

何を言っているの?とでも言いたげな目で朱莉が聞いてくる。むしろ俺は、朱莉が何を言いたいのかがわからないのだが。

「うん、まぁそうだよね。虹くんはそういう人だよね・・・」

朱莉が何か言っているが、声が小さく聞き取れない。


「あのね、虹くん。自分では気づいていないかもしれないけど、虹くんってかなりのイケメンなんだよ?」

「・・・・・・・はぁ?」

振り向きざまに、朱莉がそう言ってくるが、俺の頭は、うまく言葉を理解できない。何を言っているんだ、朱莉は。俺がかなりのイケメン?いや、ありえないな。仮に俺がイケメンなら、なぜ今まで蔑まれてきたのか(第1話参照)。

「うーん、虹くんが不思議に思うのも仕方ないか。でもね、虹くんが今までイケメンだと思われなかったのは理由があるんだよ?」

「理由?」

朱莉の言葉に俺はまた、首をかしげる。どういうことだ?

「うん。主に2つかな。1つは、『5大美少女』である私たちが近くにいたこと。1つは、虹くん特有の雰囲気の暗さだよ」


うーん、確かに朱莉の言うことは合っている。『5大美少女』と呼ばれる朱莉は、その名の通りかなりの美少女だ。そこに同じような美少女が5人も集まれば、そりゃ輝かしいオーラが出るし、俺の存在も霞む。それと俺の雰囲気が暗いというのも、朱莉の言うとおりだ。何も間違いはない。ただ、それだけだと俺も自分がイケメンだと思うことはできない。15年以上蔑まれてきたのだから、そう簡単に認識は覆せない。


「いいよ、別に。今すぐ納得できるわけでもないし。でもそれを確かめるという点では、今回のモデルを引き受けたのはいい機会なんじゃない?」

「それもそうか・・・・・」

朱莉の言葉に今度はすんなり納得する。今回俺のモデルに人気がでれば、朱莉の言うことは間違っていないのだろうし、逆に人気がでなければ、朱莉の言葉を否定できる。朱莉の言葉の真偽を確かめるのに、今回のモデルを提案はこれ以上ない機会だろう。引き受けてよかったかもな。


「それにほかの4人にも聞いてみたら、素直に虹くんの印象を教えてくれると思うよ?」

「あの4人かぁ・・・・」

朱莉の言葉に再度、俺は顔を曇らせる。

「どうしたの?」

「いやー、さっき問題がいくつかあるって言っただろ?2つ目の問題として、このことをあの4人にどう説明しようかなって」

首を垂れながら、俺はそう答える。これからあの4人にモデルのことを説明すると思うと、頭が痛くなる。


「あー、それなら心配いらないと思うよ」

「え?」

俺の言葉に朱莉は苦笑しながらそう答える。

「帰ったらわかると思うよ。まぁ、お互い覚悟を決めておかないといけないかもねー」

そういう朱莉は、少しだけ困ったような笑みを浮かべていた。









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期間が空いてしまい申し訳ありませーん!!


テスト期間なんですけど、課題の量が過去一で多くて執筆に手が回りませんでしたァ!


後、1週間ほどテスト期間なので終わり次第、通常の投稿ペースに戻そうと思います!

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