第14話 「確保ー!」

拝啓 お母さま

春らしく穏やかな気候に心和む季節となりましたが、お元気でいらっしゃいますか?

私は今、朱莉と並んで正座をさせられながら、4人の幼馴染に睨まれています。何か特殊な性癖に目覚めてしまいそうです。

と、ふざけた話は置いておいて、本題に入ります。


「どうしてこうなったぁぁぁぁぁ!?」


――――数十分前

地平線に沈みかけている夕日に照らされながら、帰路をたどる俺と朱莉。二人の間に会話はないが、朱莉がべったりとくっついてくるため、歩きづらいことこの上ない。朱莉にはこのバグった距離感をどうにかしてほしいものである。


「さてと、一応家には着いたんだけど・・・・」

「なんか雰囲気違う・・・?」

駅から数十分歩いてから俺の家に着いたのだが、いつもと雰囲気が違うような気がする。なんかこう、禍々しいオーラを放っているような気がする。


「と、とりあえず入ろうか」

「お、おう・・・・・」

覚悟を決めて、俺と朱莉は恐る恐るドアノブを回す。普段はそんなことないのに、今だけはギィと重々しい音が鳴りそうだ。


「「た、ただいま・・・」

玄関に入り、俺と朱莉で声をそろえて中に声をかけるが、返事は帰ってこない。玄関のカギは開いていたし人はいるはずなのだが・・・。


「こ、このドアの向こうから禍々しいオーラが・・・・」

朱莉の言葉に俺はゴクリと喉を鳴らす。実際にはそんなことないはずなのに、このリビングに続くドアの向こうから禍々しいオーラが出ているのが手に取るようにわかる。さながら魔王城最奥の魔王の部屋といったところか。


「じゃ、じゃあ開けるぞ?」

「うん・・・」

スゥー、ハァーと深呼吸を2、3回繰り返し、ゆっくりとドアノブに手をかける。そしてそのままリビングの方へ顔を覗かせる。するとそこには

「だ、誰もいない・・・?」

そう、誰もいなかった。


「な、なんだ。なんで誰もいないんだ?」

予想外の事実に戸惑いながらもリビングに足を踏み入れた瞬間————

「確保ー!」

という言葉と共に、幼馴染の4人が現れる。

「うわっ!」

不意をつかれた俺たちは一瞬で組み伏せられる。そのまま手首を後ろ手で拘束され、その場に正座させられる。恐ろしいほどの早業と連携で俺たちを拘束した4人はそのまま1列に並んで俺たちの前に立つ。そして、冒頭の構図の完成だ。


「さぁ、1つずつ説明してもらいましょうか」

4人の中で最も感情のこもっていない目をした蒼がそう聞いてくる。

「えっとー、説明というのは何についての説明でしょうか?」

ここでいつもの調子で答えると抹殺されかねないので、下手に出ておく。

「決まっているでしょう?過度なスキンシップや、虹のことを誘惑するような言動についてよ」

4人の中で最も顔を歪ませている紫夕が答えてくる。

「一応聞いておくけど、なんで知ってるの?」

朱莉が堂々とした態度で聞き返す。

というか、朱莉の言う通り、なんで4人が今日の朱莉の言動を知っているのだろう?

「決まっているじゃないですか。敵情視察ですよ。今日の登校から下校までしっかりと観察させていただきました。・・・放課後については、桐谷くんに強引に止められたので監視できませんでしたが」

さも当然かのように答える翠。そんな翠は終始顔は笑っているが、目は全く笑っていないから、余計に怖く見えてしまう。


「やっぱりかー」

翠の言葉を受けて朱莉は、「あちゃー」と言ってそうな顔をしているが、あまり大きな反応を示していないし、もしかしたら気づいていたのかもしれない。


「・・・え、待って。てことは、あの腕組みや、膝枕も見られてたってこと!?」

あまりにも自然に会話するものだからスルーしてしまうところだったが、遅れて事の重大さに気付く。もし見られていたとしたら相当恥ずかしいのだが――――

「「「「もちろん」」」」

(ですよね!)

4人が一斉に肯定したことで、俺の羞恥心はマックスになる。あの場面を同級生かつ幼馴染4人に見られるとかなんの罰ゲームだよ!


「それで。放課後はお2人さんでどこに行っていたのですか?」

妙な丁寧口調で白亜が聞いてくる。いつもは無表情で何を考えているのかわからない白亜だが、今ばかりは何を考えているのか手に取るようにわかる。絶対に怒っている。冷たい口調に加え、もう顔が。元の整った顔の原型が見えないくらいに歪んでいる。

(マズイ・・・。答え方をミスったら殺される・・・!)

俺の第六感がそう告げている。ここまで命の危険を感じたのは15年以上生きてきて初めてだ。


「え、えっとー。放課後は朱莉と2人で3駅ほど先のショッピングモールまで・・・」

「は?」

「ヒィィィ。すみません!すみません!」

およそ女の子とは思えないほどのドスの効いた声で聞き返され、反射的に謝ってしまう。とてもじゃないが、モデルの話ができるような状態ではない。


「・・・・ショッピングモールで何をしてたの?」

(いや、ここで『朱莉に服を選んでもらっていました』なんて言えるかよ!そんなこと言ったら間違いなく俺の首が吹っ飛ぶよ!)

頭も中でそんなことを考えていると、ふと1つの案が俺の頭の中に舞い降りてくる。

(待てよ?モデルの話をするならここじゃないか?こじつけでも何でもいいから、とにかくどうにかしないと!)

そう考えた俺はぎゅっと目を瞑り、ゆっくりと口を開く。

「実は、行った先のブティックでファッションモデルのお誘いを受けました・・・・」

「・・・・・・・・」

俺の言葉に4人はなんの反応も示さない。不思議に思った俺は、恐る恐る目を開く。するとそこには、さっきまでと変わらない仏頂面を浮かべた4人が立っていて

「「「「・・・・・は?」」」」

「すみませんでしたぁ!」

地獄のような声でそう言われたのであった。











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後1つなんだ!

後1つで星が100に到達するんだ!


頼む、みんな!

オラに星を分けてくれー!

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