第12話 「今のうちに服を買っておくんだよ」

「虹くーん!一緒に帰ろ!」

放課後、帰りのSHRが終わった後すぐに朱莉が声をかけてくる。

「あぁ、いいぞ」

特に断る理由もないし俺は承諾する。まぁ、仮に断ろうと思ってもいつもの潤んだ瞳で見つめられてあえなく陥落すると思うけどな。


「やったー!虹くんと2人きりで一緒に帰れるの嬉しいなー。ぎゅー」

「うわっ。おい、やめろよ。ここ教室だぞ?」

嬉しそうに俺の右腕に飛びついてくる朱莉に対して、俺は少し慌てる。別に抱き着いてくることは構わないのだが、場所が場所だ。さっきから教室に残っているクラスメイトの視線が痛すぎる。

なかでも、幼馴染4人からの視線が段違いで痛すぎる。この視線だけで人を殺せてしまいそうだ。


「むぅー。しょうがないから学校を出るまで我慢するよ」

いや、別に学校を出たら良いなんて一言も言ってないのだが、この感じだと聞く耳を持たなそうだ。

「ささ、帰ろ!」

「お、おい。引っ張るなよ!」

朱莉に腕を引っ張られながら教室を出る。教室から出る瞬間に、4人からごみを見るような目で見られた気がするが、気のせいだと思いたい。


「ねーねー虹くん?」

「どうした?」

「私、行きたいところがあるんだけど良いかな?」

「いいけど、どこに行くんだ?」

朱莉の提案に首をかしげる。朱莉がどこか行きたいなんて言うことは珍しいし、できれば付き合いたい気持ちはあるのだが、どこに行きたいというのだろうか。

「ふっふっふ。それはね・・・・」

朱莉は妙に自信満々に胸を張っている。そんなにすごいところなのか?

「ショッピングモールだよ!」

・・・・・案外普通の場所だった。


「おぉー。大きいところだね!」

ショッピングモールに着いてすぐに朱莉が感嘆の声を漏らす。あの後、朱莉に連れられて無理やり電車に乗せられ3駅ほど離れたショッピングモールに来ていた。朱莉が言うように、ここのショッピングモールはかなり大規模なところで、平日の今日もたくさんの人でにぎわっている。


「なぁ、来たのはいいんだけど、どこに行くんだ?」

俺がそう聞くと朱莉は「内緒」と言い俺の手を引っ張ってくる。正直どこに連れていかれるのかわからないので、不安である。

「もー。別にそんな不安そうな顔をしなくてもいいよー。変なところに連れて行くわけじゃないし」

どうやら俺の不安は朱莉に見破られたようで、そんな風に声をかけられる。まぁ、とりあえず朱莉を信じてついて行ってみるか。


「ここは・・・・服屋?」

「その通り!」

朱莉に連れられてやってきた場所は、男性物から女性ものまで、幅広い商品を扱っている服屋だった。

「なんで服屋?」

「これから虹くんは私たち5人と遊びに行くことが増えるだろうからねー。その時のための服を今のうちに買っておくんだよ」

俺の質問に朱莉はそう答える。遊びに行くことが増える理由については聞かなくてもわかる。5人のアピールのための場を設けるためだろう。

「それじゃあ、入ろっか。今日は私が虹くんに似合う服を見繕ってあげるよ!」

自信満々に言う朱莉に、俺は黙ってついていくことにした。どうせ何言っても聞いてもらえないだろうし。


「うーん、これは違うな。でも、こっちは捨てがたいんだけどいまいち合わないな・・」

朱莉は店に入るなり、ぶつぶつ言いながら商品を吟味し始めた。その後ろを俺は黙ってついている。さっき話しかけようとしたら、「ごめん虹くん。集中してるから後にして」と今まで聞いたことのない声色でそう言われてしまった。朱莉にこんなふうに突き放されたのは初めてだったので、少しばかり傷ついたのは内緒。


「春と言ってもまだまだ寒いし・・・よし、決めた!虹くん、これ着てみて!」

そう言って、いくつかのアイテムを渡される。ぱっと見、カーディガンとデニムパンツを合わせるものなのかな?とりあえず、朱莉が選んでくれたし、着てみよう。

「わかった。試着室に行ってくるよ」

「うん、私もついていくね。その服を着た虹くん、見てみたいし」

そう言って俺たちは、試着室へ向かった。


(さてと、こんなものかな・・・?)

試着室の中にある鏡で自分の姿を確認する。今回、朱莉が用意してくれたのは、ピンクベージュの春用ニットセーターと、ベージュのカーディガン。そこにストレートのデニムを合わせたコーデだ。自分で見た感じは、全然悪くないし、かなり良さげなんじゃないだろうか。


「朱莉、いるかー?」

着替えが終わり、カーテンの向こうで待っているであろう朱莉に声をかけると「いるよー!」と元気な返事が返ってくる。

「それじゃ、開けるぞ」

一言声をかけてからカーテンを開ける。と同時に、こちらに背を向けていた朱莉が振り返————

「きゃーーーー!」

ったところでまた背を向けてしまった。しかもかなり大きな声で悲鳴まで上げてしまったため、ほかのお客さんの目線もこちらに集まるのだが、こちらに視線を向けてきたお客さん(主に女性)が顔を赤くして、朱莉と同じように背を向ける。な、なにが起こっているんだ?


「お客様!どうなさいました?!」

俺が事態を呑み込めずに混乱していると、さっきの朱莉の悲鳴を聞いてくれていたのだろう。女性店員さんが駆けつけてくれた。これでこのよくわからない状況がどうにかなればいいのだが・・・

「すいません、店員さん。僕の友達が僕を見た瞬間に悲鳴をあげてしまって。周りのお客さんも顔を赤くして目を背けるし、何が何だか・・・・」

「え?それってどういうことです――――きゃあ!」

俺が店員さんに状況を説明すると、俺に気付いた店員さんが朱莉やほかのお客さんと同じように顔を赤くして背けてしまった。マジでなんなんだ・・・?


「なんだなんだぁ?うちのスタッフの悲鳴が聞こえてきた気がしたんだが・・・・ってどういう状況だぁ?これ」

店員さんの対応にさらに俺が慌てていると、この店の店長らしき人がやってきた。さ、さすがに店長ならどうにかなるよね・・・・・?


「すいません、店長さんですよね?僕の友達が僕を見た瞬間に悲鳴をあげてしまって。周りのお客さんや、こちらの店員さんも悲鳴を上げて顔を赤くして目を背けるしで何が何だか・・・・」

「んぁ?それってどういう――――いや、なるほど。そういうことか」

俺の説明に何かに納得したような声を出す店長(?)さん。一体、何が「なるほど」なのだろうか。俺が疑問に思っていると、店長(?)さんが爆弾発言をしてきた。

「なぁ、少年。私の店のモデルをやらないか?」

昨日に続き、今日もよくわからないことを言われる俺なのだった。










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服を着ただけで周りの女性を赤面させてしまう虹くん。どんだけイケメンなんだよw

後、朱莉。自分で選んだ服を見て悶絶するでない。



後、テスト期間に入るため更新頻度が落ちます。詳しいことは近況ノートに投稿しておりますので、そちらをご確認ください。

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