特別編SS 『いい夫婦の日』 翠ver.
「あら?もうすぐあの人が帰ってくる時間じゃない。出迎えの準備をしないと」
そう言って私————才川 翠————は旦那様を出迎える準備をする。
――――ピーンポーン
どうやらちょうどいいタイミングで帰ってきたようだ。私は、大急ぎで玄関のドアを開ける。
「お帰りなさい!虹くん!」
玄関を開けると同時に私は、帰ってきた旦那様に抱き着く。
「うわっ!ちょっと、翠。急に抱き着いてこないでくれよ。びっくりするじゃないか」
私の態度に呆れつつもしっかりと私のことを受け止めてくれたこの人は、私の唯一無二の旦那様である才川 虹だ。
「クンクン。やっぱり虹くんの匂いを嗅ぐのは幸せ~」
今朝ぶりの旦那様の匂いを堪能しながら私は至福の時を過ごす。ちなみに私は結婚するまでは「虹ちゃん」と呼んでいたのだけれど、結婚してからは虹くんが恥ずかしいからという理由で「虹くん」と呼ぶようになった。
「別に俺の匂いなんて、そんないい匂いでもないと思うけど・・・・」
虹くんはそんな風に言っているが、それは大きな間違いである。私にとって虹くんの匂いは、酸素と同じくらい生きるために必要なものなのである。
「と、とりあえずお風呂に入りたいんだけど・・・・」
虹くんがすごく遠慮気味に言ってくる。さすがの私もここまで言わせてお風呂に入れさせてあげないほどひどい女ではない。
「もう沸かしてあるからいつでも入れますよ」
「あぁ、ありがとう。準備が良いな」
「虹くんに喜んでもらうのが私の生きがいなので」
そう言うと虹くんは「ありがとう。助かるよ」と言って、お風呂に向かっていきました。その間に私の頭をポンと叩いて行ってくれたのにはすごくドキドキしました。流れでお風呂に突撃することも考えましたが、さすがに今回はやめておきましょう。あんまりやり過ぎると、虹くんに嫌われてしまいますからね。
虹くんがお風呂に入っている間に食卓の準備をします。ですがまだお風呂を上がるのに時間がかかるでしょうし、温めたりするのはまた後にして、箸などだけ並べておきましょう。
しばらくすると、虹くんがお風呂からあがってきました。
はぁぁ。お風呂上がりの湿った髪の毛と、若干火照った顔。しゅき・・・。私の旦那さん、イケメンすぎ。
「どうした、翠?俺の顔なんか見つめて」
「いえ、なんでもありません」
どうやら顔を見つめていたことに気付かれたようです。私の旦那さんはシャイなので、ここで素直に言ってしまうと、今度から恥ずかしがってお風呂上がりを見せてくれなくなるかもしれません。ここは適当に誤魔化しておくことにします。
「それよりも、すぐにご飯をお食べになりますか?」
「いや、少し時間を空けてからにするよ。それでも大丈夫か?」
「はい。問題ありませんよ。それでしたら、私がマッサージでもしましょうか?」
「いいのか?」
私の提案に目を輝かせる旦那さん、可愛すぎ。
と考えていることはおくびにも出さず、何食わぬ顔で「どうぞ」と旦那さんをソファに座らせる。
その後ろに回り込み、肩のマッサージを始める。
「ふぁぁ。翠、マッサージ上手だね。すごく気持ちいいよ」
「フフ。そう言ってもらえると嬉しいですね」
旦那様の言葉に嘘はないようで、すっかり私に身を預けてくれている。この流れでそのままいけないかな?
「では旦那さん。マッサージは以上となります。次は私のことも気持ちよくしてください」
「あぁ、いいけど。何をすればいいん――――うわぁ!?」
旦那様が最後まで言い終わらないうちに私は旦那様のことをソファに押し倒します。
「いやいやいや。何しようとしてんの?!」
「何って夫婦の営みですよ?」
そう言って、私は旦那様の唇をうば――――
――――チリリリリリ
「はっ!」
アラームの音で私は目を覚ます。視界の中に映るのはいつもと変わらない私の部屋の天井。
「なんだ、夢ですか」
あと少しで幸せの絶頂を迎えられそうだったのに、タイミング悪くアラームに邪魔をされてしまったようだ。
「仕方ありませんね。今の夢の続きは数年後の近い未来のことだと思っておきましょう!」
夢の続きは未来の願望として片づけ、私は学校の準備を始めた。
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