特別編SS 『いい夫婦の日』 紫夕ver.

「・・・うん、こんなものかしらね」

仕上げた料理を味見しながら私————才川 紫夕――――はそう呟く。私には社会人になりたての旦那がいるのだが、今は晩ご飯を用意してその旦那の帰りを待っているところだ。


————ピーンポーン――――


ちょうど料理が仕上がったタイミングで家のチャイムが鳴る。どうやら私の旦那が帰ってきたようだ。外は寒いし待たせるのも悪いから私は少し急ぎ足で玄関に向かう。

「おかえりなさ――――きゃぁ!」

声をかけながら玄関を開けると、目の前には旦那の顔ではなく、大量のバラの花束が現れた。

「アハッ。びっくりしてる。サプライズは成功かな?」

そう言いながらバラの花束の裏から顔を覗かせるのは私の旦那である才川 虹だ。

「そりゃ、目の前にバラの花束が急に出てきたらびっくりするわよ!」

「だって今日は俺たちの結婚記念日だろ?だからお祝いしたくて」

「うぐぅ・・・」

この男は付き合っていたころからこんな感じである。ちょっとした記念日や私の誕生日などを毎年欠かさずサプライズという形で祝ってくれるのだ。自分がどんなに忙しくても。


「ほら、ケーキも買ってきたんだー。紫夕が好きなショートケーキもねー」

「ハイハイ。とりあえずご飯食べましょ。せっかく作ったのが冷めてしまうじゃない」

口ではそっけなく言いつつも、内心はウッキウキである。大好きな旦那がサプライズでバラの花束を用意してくれて、なおかつ私の好きなケーキまで買ってきてくれているのだ。テンションを上げるなという方が無理である。


「なんだかすごくいい匂いがするんだけど・・・・ってうわぁ!どうしたのこんな豪華な料理!?」

「あなた、さっき自分で説明してたじゃない」

旦那の反応に私は呆れた口調で返事をする。さっきは何も言わなかったが別に私は結婚記念日を忘れていたわけではない。むしろ覚えていたから、このサプライズ大好きな旦那にサプライズで返してやったのだ。

「ありがと紫夕。すっごく嬉しいよ」

「~~~////。いいからさっさと食べるわよ!」

ストレートなお礼に少しだけ照れてしまい、それを隠すようにぶっきらぼうな口調になる私。ただそれも見抜かれているらしく虹は「はーい」とニコニコしながら返事をしている。なんだか負けた気がして悔しい。ぜったい見返してやる。


「いただきます」

「どーぞ」

食卓に着くと虹は丁寧に挨拶をして食事を始める。

「ど、どうかしら?初めて作ったのも多いし、結構不安なんだけど」

私のそんな言葉に虹はにこっと微笑んで、「美味しいよ」と言ってくれる。虹の顔を見るに嘘をついているようには見えないし、心からの言葉なのだろう。それが余計に恥ずかしさを増幅させるのだけども・・・・。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様」

「今日も美味しかったよ。いつもありがとうね」

「ハイハイ・・・・・////」

虹のストレートなお礼にまたしても照れてしまう。本当に彼は私を喜ばせるのが得意だ。私がチョロいのかもしれないが、私にとっては、虹の「ありがとう」は何よりもうれしい言葉なのだ。


「それじゃあ、今度は紫夕の番だね」

「え?何言って――――きゃぁ!」

急に意味深なことを言ったかと思うと、虹は急に私のことをソファに押し倒してきた。

「ちょちょちょ、何する気?!」

「そりゃ、今から紫夕をいただこうかと」

私の必死の問いかけにも飄々とした態度で応じる虹。こんなことされるなんて聞いてない!・・・別に嫌ではないけど・・・・

「あ、あの。せめてベッドでお願いします/////」

「フフッ。了解」

そう言って、虹は私の手を引いて寝室の方へ移動————


――――チリリリリリ

「はっ!」

アラームの音で私は目を覚ます。視界の中に映るのはいつもと変わらない私の部屋の天井。

「なんだ、夢だったのね」

あと少しで幸せの絶頂を迎えられそうだっただが、タイミング悪くアラームに邪魔をされてしまったようだ。

「って、いやいや。何を残念がっているの私?!あいつに無理やり侵されそうだったのよ!」

1人で残念がり、1人でツッコむ紫夕なのであった。

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