特別編SS 『いい夫婦の日』 蒼ver.

「ただいま~」

私————才川 蒼————は社会人になりたてのキャリアウーマンだ。やっぱりまだ仕事には慣れていないし、毎日疲れて帰ってきている。ただそんな私にも家に帰ると癒しが存在する。

「おかえり、蒼。今日もお仕事お疲れ様」

そう言って私を出迎えてくれるのが私の癒しであり、旦那でもある才川 虹だ。彼は在宅勤務のため遅くまで仕事がある私の代わりに家事などをしてくれている。


「ん~、虹~。ぎゅってして~」

「はいはい。仰せのままに」

私の我儘に嫌な顔一つせず付き合ってくれる彼ははっきり言って神だと思う。毎日家事をしてくれているにもかかわらず、こうして私の仕事の疲れを癒してくれるのだから感謝しかない。


「ぎゅ~」

「アハハ。こんなところにずっといたら風邪をひくかもしれないし、ご飯食べよう?」

「やだ~。まだ虹のことぎゅ~ってするの~」

「蒼・・・いつの間にこんなに甘えん坊になったんだ・・・」

呆れたように言う虹。確かに私は虹と結婚するまではこんなことをすることはなかった。ただ、結婚してから虹が家にいることが当たり前になって、自然に虹に甘えるようになってしまったのだ。許してほしい。


「と、とりあえずご飯を食べよう?冗談抜きで風邪ひいちゃうし」

「むぅ。わかったわよ」

「大丈夫だよ。ちゃんと後で可愛がってあげるから」

渋々ながら私は着いていく。まだまだ虹に甘えたいけど、さすがにこれ以上は虹を困らせてしまうからお預けね。


「わぁ、いい匂い。この匂いはお肉かしら?」

「うん、そうだよ。疲れてるかなと思って今日のメニューは豚の生姜焼きにしました。温かいご飯と、お味噌汁付きです」

やっぱり虹は優しい。私の体調のことも考えてくれているし、何より私が和食が大好きだということも含めて豚の生姜焼きを選んでくれたのだろう。そう考えると、心がポカポカする。このぽかぽかは生姜焼き以上だ。


「冷めないうちに食べようか」

「うん。いただきます」

「召し上がれ」

虹に促され、私は生姜焼きに箸を伸ばす。

「ん!美味しい・・・」

「それはよかった」

私の言葉に安心したような顔をする虹。私は虹のご飯は食べ慣れているしいつも美味しいと言っているのだが、虹はいつもいつも安心したような顔をする。それだけ私のことを大事にしてくれているのだろう。

虹の愛の深さに感激しつつ虹の用意してくれたご飯に舌鼓を打ちながら、食べ進めていく。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

虹の料理はどれも全部美味しかった。近いうちにお母さんの味から、虹の味が私の家庭の味になりそうだ。

「さてと、そろそろいこうか」

「ふぇ?」

そう言って虹は私の体を突然お姫様抱っこする。

「こ、虹?何するの?」

「何ってさっき言ったじゃん。『可愛がってあげる』って」

「あ、あれってそういう意味だったのぉ?!」

虹の言葉に私は驚きの声を上げる。てっきり私を甘やかしてくれるものだと思ってた・・・


「それじゃあ、1名様。ベッドへご案内~」

そう言って虹は、私をベッドへ連れて————

――――チリリリリリ

「はっ!」

アラームの音で私は目を覚ます。視界の中に映るのはいつもと変わらない私の部屋の天井。

「なんだ夢か」

あと少しで幸せの絶頂を迎えられそうだっただが、タイミング悪くアラームに邪魔をされてしまったようだ。

「しょうがないわね。今の夢の続きは数年後の未来の楽しみにしておこうかしら」

決意を口にし、私は学校の準備を始めるのだった。


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