第10話 「即答はずるいよ」

午前中の授業が終わり、昼休み。俺は朱莉に校内の自転車置き場に連れてこられていた。

「ここなら人目を気にせずにご飯を食べられるね!」

朱莉が言うようにここには全く人がいない。大体の人が教室や学食、広場などで食べるためわざわざこんなところに来る人がいないからだ。・・・まぁ、ちょっとして告白スポットとしては有名みたいだけど、さすがに今日に限ってそんなことはないだろう。


「はい。これが虹くんの分のお弁当だよ」

「おぉ。ありがとう」

朱莉に手渡されたお弁当は、黒いデザインで長方形の形の2段弁当だ。朱莉が持っている自分の弁当箱は小さい1段の弁当箱だし、意識して多めに作ってくれたのかもしれない。

「それじゃあ、開けるぞ?」

「どうぞー」

朱莉の言葉に促されるように俺は弁当箱の蓋を開ける。

「おぉぉ」

お弁当の中身を見た俺は、思わず感嘆の声を漏らす。1段目には色とりどりのおかずがたくさん入ってた。綺麗に巻かれ鮮やかな黄色をしている卵焼き、タコの形に切られた赤いウインナー、ポテトサラダは、レタスで囲まれいて華のようになっている。さらに中華好きの朱莉らしくシュウマイや餃子も入っている。あとはプチトマトと、海老グラタンが入っている。


「すごいな。おかずだけでもかなり豪華だぞ」

「えへへ。おかずも頑張ったけどご飯も工夫してあるんだよ?」

「マジで?」

「うん!」

どうやらご飯にもひと手間加えられているらしい。少しワクワクしながらご飯の入っている方を確認すると、かわいらしい動物の形をしたおにぎりが3つ入っていた。


「うわっ、なんだこれ!?めちゃくちゃ可愛いな」

「でしょー?自信作なんだよ!」

3つのおにぎりは左からウサギ、ネコ、イヌの顔をしている。正直に言って超かわいい。朱莉が作ったと考えるともっとかわいい。食べるのがもったいないくらいだ。永久保存しておきたい。


「いやーほんとにかわいいな。食べたるのがもったいないよ」

「そんなこと言わずに食べてよ!あっ、そうだ」

突然朱莉が何かを思いついたように声をあげた。

「ねぇねぇ虹くん。そのおにぎりと私、どっちが可愛い?」

「朱莉」

「はぅぅ////即答はずるいよ」

でも即答するだろ。おにぎりと5大美少女の朱莉を比べてところで、考える間もなく朱莉に軍配が上がるに決まっている。即答するのは当たり前だ。


「朱莉、食べてもいいか?」

「うん、もちろん!」

朱莉からのお許しも出たところでさっそくお弁当を食べていく。そうだな、まずは卵焼きからにしようかな。3つに切り分けられて入っている卵焼きを一切れ食べ、ゆっくりと咀嚼していく。

「ど、どうかな?」

不安そうに聞いてくる朱莉に卵焼きを吞み込んでから笑顔で答える。

「うん、美味しいよ。卵焼きの味も俺の好みだし」

そう言うと、朱莉はほっと胸をなでおろし、「よかったぁ」と言っていた。


「でも、なんで甘い卵焼きにしたの?」

卵焼きは甘いのを好む人もいれば、しょっぱいのを好む人もいる。俺は卵焼きの好みなんて話していないはずだし、普通だと俺の好みなんてわからないはずなんだが。

「あ、それはね。彩さんに聞いてたからだよ」

「母さんか・・・」

どうやら朱莉が俺の母親に聞いていたらしい。それなら辻褄があうか。


「ちなみに、これを聞いたのは私1人の時だからほかの4人は知らないと思うよ」

そうなのか。どうやら俺の情報は母さん経由で駄々洩れらしい。いつかプライベートの情報までばらまかれそうである。気を付けないと。


「おにぎりの種類はウサギが塩で、ネコがのりたま、イヌが海苔だよ」

どうやら3つのおにぎりは全部味がバラバラらしい。別々の種類で作ったのは飽きを防ぐためだろうか。

「とりあえず最初はウサギからいただきます」

そう言って、ウサギの形をしたおにぎりを手に取る。いまだに食べることに気が進まないが、ここで食べないのは朱莉にも失礼だし、このウサギのも失礼だ。そう思い俺は目をつむっておにぎりを口にする。

「———うん、これも美味いな」

思わずそう口にしてしまうくらいには美味しいおにぎりだった。お米の甘みと程よい塩加減が、口の中でマッチしている。

「そっか。美味しいならよかった。あ、そうだ。この海老グラタン食べてみてくれない?」

おにぎりを味わっていると朱莉がそんなことを言ってきた。

「いいけど、どうしてだ?」

そう聞くと朱莉はニコニコしながら

「それは秘密だよ。とりあえず食べてみて」

と誤魔化してきた。一体何があるのだろうか。食べてみないとわからないみたいだし、とりあえず食べてみよう。


「ん?」

しばらく海老グラタンを食べていると、海老グラタンが入っていた容器になにやら文字が書いているのが見えた。これは・・・・

「『恋愛運 良 待ち人来る』って何だこれ?」

「ふっふー。実はねその容器には占いが書いてあるんだよー」

朱莉がどや顔で解説してきた。なるほど。この占いの結果を確かめるために俺に海老グラタンを食べるようにせかしてきたのか。それにしても『待ち人来る』って・・・。

「占いの結果だと私と虹くんが結ばれるのは必然みたいだねー」

朱莉は嬉しそうに言っているが、どうなんだろうな。『良』とは書いてあるが、『待ち人来る』っていうのはいろんな捉え方がありそうだ。朱莉の解釈通り俺が朱莉のとこに行くのかもしれないし、待ち人というのは朱莉の運命の人を表していて、その人がこれから現れるというとらえ方もできなくはない。まぁ、所詮占いだしそこまで気にすることでもないか。今は朱莉の作ってくれた弁当に舌鼓を打つことにしよう。

結局俺は、占いの結果については深く考えずに、目の前の朱莉が作ってくれた弁当に集中することにした。


「———ごちそうさまでした。朱莉、ありがとな。美味しかったよ。弁当箱は洗って返すな」

「どういたしまして。別にお弁当箱は洗わなくてもいいよ?」

「いや、きちんと洗って返すよ。弁当作ってもらったお礼もかねて」

朱莉はそういうが、さすがにそこまでしてもらうわけにはいかない。弁当を作ってもらっているのにこっちは何もしないなんていうことはできない。ちゃんと洗って返すのが礼儀だ。

「まぁ、そこまでいうなら・・・」

朱莉も渋々ながら納得してくれたようだ。こればかりは譲れないし、早めに折れてくれてよかった。


「さぁ、弁当も食べ終わったしそろそろ教室に戻ろうか」

そう言って俺は立ち上がろうとするが、突然後ろから制服の裾を引っ張られる。もちろんこの場には俺と朱莉しかいないし、引っ張ってきたのも朱莉なのだが一体どうしたのだろうか。不思議に思い振り返ると、朱莉が満面の笑みを浮かべて自分の膝をポンポンと叩いていた。


「虹くん。膝枕してあげるよ」

「・・・・・・はぁ?」

どうやら俺の昼休みはずっと自転車置き場で過ごすことになりそうだ。










━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

今日11月22日は『いい夫婦の日』ですね


ということで頑張っていい夫婦の日SSを投稿します。楽しみにしておいてください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る