第7‐4話 (翠目線)

「ただいま」

虹ちゃんに送ってもらった後、私は玄関から声をかけた。ちなみに、私は虹ちゃんの前と家族の前では態度を変えている。どっちも本当の私だけど、どっちかというと今の私が素に近い。

「おかえりなさ~い。虹くんとのお家デートどうだったかしら~?」

ちょっと間延びした声で私を出迎えたのは、私の母親の遠山 緑麗(とおやま みれい)だ。自分で言うのも変だけど、私のブロンドヘアとおっとりした感じはお母さん譲りだろう。瞳の色は、若干お母さんの方が深い緑かな。


「どうもこうもないよ。虹ちゃんは全然私たちの気持ちに気付いてくれないし。まぁ、それはほかの皆も同じだけど~。それにだんだん私たちに見慣れてきているんだよね~、多分。それなりに整っている顔のはずの私たちを見ても全然反応してくれないんだもん」

愚痴るように私は言う。今日の昼休みの会話からもわかるけど、一応虹ちゃんは私たちのことを『美少女』として認識はしてくれているみたいではある(第3話参照)。

「あら~、大変そうね~。あなたたちの好意に気付かないのは虹くんらしいけど、ちょっとそこだけが玉に瑕よね~」

他は完璧なのにね~。と言いながらお母さんは口元に手を当てて考え込むようなポーズをする。

「本当にそうなんだよねー」

と言いながら私も同調する。ただしこの同調は好きな人フィルターがかかっているわけではない。れっきとした事実である。虹ちゃんの容姿は、私たちがいるのと虹ちゃん特有の雰囲気の暗さでかすみがちではあるけど、整った顔をしているしむしろイケメンに分類されると思う。だから、彼も自分を卑下する必要はないのだけど、そのおかげで変な虫がよりついてこないし大目に見てあげましょう。

そして虹ちゃんは、容姿に加えて内面も完璧。さっきの夕食の時の対応にはキュンキュンしました!私たちの我儘に応えるためにわざわざいろんな種類の料理を用意してくれたんだよ!しかも、全部1人で!もう惚れるなっていう方が無理だから!


「翠は虹くんに女の子としてみてもらうにはどうしたらいいと思う?」

「それがわかったらこんなに苦労してないよ・・・」

「それもそうね」

私の言葉にお母さんも苦笑する。

「じゃー、簡単に女の子としてみてもらう方法があります。ただし、それを行うには翠の覚悟が必要です。翠はどうしますか?」

「やる!」

お母さんの質問に私は即答する。この際、なりふり構ってなんていられない。虹くんに女の子としてみてもらえるなら、私の覚悟なんて欲しけりゃくれてやる!

「それじゃあ教えてあげるわ。やりかたはとっても簡単。色気出して迫ればいいのよ」

「え・・・?」

そんなことでいいの?それだったら母性と似たようなものだし簡単だけど・・・

「まぁ、虹くんは手はださないでしょうね」

「それだと意味なくない?」

「いいえ。問題はそのあとよ。いくら手は出さなかったとしても、そういう印象は与えられるでしょ?」

なるほど。それなら納得できる。そうやって迫れば仮に最後までいかなくてもそういう『印象』は与えられる。それにもしかしたらやれるとこまでやれるかも・・・グヘへ。

「ね?簡単でしょ」

「うん」

お母さんの言葉に私は返事をする。

待っててよ、虹ちゃん!あなたを懸けて私たちは本気で勝負するから!


さぁ、ヒロインレースの開幕だ!

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