第7‐3話 (紫夕目線)
「ただいま」
虹の家から帰ってきた私は、家にいるであろうお母さんに声をかける。
「おかえりなさーい。今日も虹くんの家に行っていたのよね?」
そういって、私を出迎えたのは、母親の氷室 菫(ひむろ すみれ)だ。私のお母さんは私とは違い黒髪だ。お父さんも白髪ってわけではないし、どこからの遺伝子なんだろう。
「それで?今日はどうだったの?」
「どうって何が?」
お母さんの質問に私はとぼける。おそらくこの質問は虹のことだろうけど、ここで素直に答えたら「え?私は虹くんのことだなんて一言も言ってないわよ?」と言って揶揄ってくるのは目に見えてる。私のお母さんはそういう人だ。
「そんなのもちろん、虹くんのことに決まっているじゃない。そろそろ素直になれたの?」
「・・・・・うるさい」
「もぅ。まだ素直になれないの?いまどきツンデレなんて流行らないわよ?」
「わかってるわよ・・・・」
お母さんの言葉に私は静かに答える。お母さんの言いたいことはわかる。けどどうしても無理なのだ。どれだけ素直になろうと思っても、虹を前にすると緊張して思っていることが言えなくなり、恥ずかしくなってしまう。そして、そんな恥ずかしさを誤魔化すために思ってもいないことを言ってしまうから今でも、ツンデレをこじらせているのだ。私も素直になれるのなら素直になりたい。
「そんな調子だと、スタートラインに立つ前にみんなに置いて行かれて、気づいた時には虹くんは誰かのものになっているかもしれないわよ?」
お母さんは呆れたように言う。お母さんは私が虹のことを異性として好きなのを知っているし、ほかの4人の気持ちも知っている。私がツンデレをこじらせていても応援してくれているのだから、お母さんには感謝している。
「じゃー、(ツンデレを直すには)どうすればいいと思う?」
正直、私は今のツンデレを直さないと、あの4人に勝てる可能性は生まれない。だから、お母さんに私はアドバイスを求めたのだけれど、お母さんから帰ってきた答えは
「色仕掛け」
「できるわけないでしょ?!」
とふざけたものだった。
「なんで?そうしたら虹くん、嫌でもあなたのことを意識するでしょ?」
「違うわよ!私が聞きたいのは、どうしたらツンデレを直せるかよ!」
この母親、私の質問をそもそも理解してなかった。だからあんなふざけた内容が返ってきたのだ。
「あら?そうなの。でも、そういう意味でも色仕掛けは有効だと私は思うわよ?」
「はぁ?どこがよ」
何を言っているんだ、この親は。どういう思考回路をしていたらツンデレを直すのに、色仕掛けが有効だと思うのか。
「あなたは虹くんと話すのが緊張してしまうから、ツンデレをこじれせているのでしょ?だったらそれを超える恥ずかしさを経験すればいいじゃない。そしたら虹くんと話すだけでいちいち緊張しなくなるわよ?」
「・・・・・・・・・」
意外と筋が通っていた。無茶苦茶な理論だが、筋は通っている。だからこそ私も、言い返すに言い返せない。
「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいわよ・・・・・」
私の蚊の鳴くような声にお母さんはニヤリと笑って答える。
「いいの?そんなこと言って。虹くんがとられちゃうわよ?」
「・・・・やだ」
「だったらやるしかないわよね?」
「・・・・・・・・・・・わかったわよ」
本当はめちゃくちゃ嫌だけど、虹を手に入れるにはやるしかない。私は覚悟を決めた。
「よしっ!やるわよ。私は絶対にツンデレを直す!」
「フフッ。頑張れ~」
絶対に私はツンデレを直して、虹を手に入れる。
さぁ、ヒロインレースの開幕だ!
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