続 2話
伶匠はいつ学が出てくるのかと楽しみにしていた。今回の運動会、実は個人や団体ともに外部に情報が漏れないよう徹底されていた。
それには、どんな競技があるかも含まれており、伶匠は自分が出るアーチェリーと借り物競争、そして、メンバーのシオンが出る50m走、ユウが出るeスポーツ、そして、全員参加競技のグループ対抗リレーと大玉転がしくらいだ。
「シオンお疲れ〜」
「あー、決勝ビリだったあ……まじ、ディアラブの人強すぎじゃね?」
「そ、そうだね」
個人50m走を終えたシオンは、物凄く悔しそうな顔をしながら、応援していたクーピードゥメンバーの元へと戻ってくる。
この競技で優勝したのは、ぶっちぎりの速さを出したディアラブのショウ。まさに風を切るように走り抜けた姿は、アスリートそのものだった。
伶匠的には、いつも学や自分によく小学生並みのデリカシーない発言してる人と認識していた人だったのに。
まさに、風が生まれたと思うくらいに、コースを軽やかに走り抜けていく美しい青髪。
ただ、その後の優勝コメントでは、
「トゥラブーー!! 俺、お前たちにこのトロフィー捧ぐわー!! いえええい!」
と相変わらずの調子であった。
さて、長かった50m走の次の競技が準備が始まった。
(学さんが出る競技なんだろう、そろそろじゃないかなあ)
その後、相撲、ストラックアウトの競技が終わっていく。学はまだ出てこない。折角、久々に会えたのにと伶匠は不満に思いつつ、3時の休憩前最後の競技が始まる時間になった。
『次の競技はー……』
アナウンスが鳴り響く。その競技名に、会場中から様々な声が上がった。その競技名を聞いた伶匠は、真っ先に競技を観覧する最前列真ん中に向かって走っていった。
『7番 ディアラブ マナ選手入場』
「学さぁあああああああんんんんん!!!!」
アナウンスに合わせて、黒いガウンを着た学さんがステージの袖まで来る。そして、ガウンをばさりと脱ぎ捨てた。
「ああああああああああ!!!!!!」
そんな学の姿を最前列で見ていた伶匠は力の限り叫ぶ。メインボーカルの腹から出された渾身のシャウトは、伶匠の周りから皆退避するほどだ。
肌がいつもより黒いところで、気づけたはずなのに。
そして、その叫ばせた男である学は今、ビルパンというボディビルの時に履くパンツ一枚。
ステージのセンターで一人、ボディビルのポーズ名のリラックスポーズで立っていた。
そう、競技名は『ボディビル』。
『
アナウンスのたびに、その筋肉の美しさを最大限に見せつけてくる学。正直、7人もいる中で、学は圧倒的な筋肉の厚さ、絞り込みだ。美しい筋肉の筋が、
「学さあああん!!!! 腹筋最高級板チョコですううつう!!!」
「ちょ、レイ、おちつけって」
「レイ兄さん目立ってるよ! 目立ってるよ!」
ユウとカナデは必死に伶匠を落ち着けようとするが、伶匠がそんなことで止まるわけがない。もう、目の前の学しか見えてないのだから。
「よっ! 学! 腹筋6円デッキ!」
「それを言うなら6LDKだろうが」
壊れ暴れる伶匠のいるクーピードゥの隣で、ディアラブのメンバー見慣れてるのか、ショウとそれに突っ込むリーダーのサラン以外はぼーっと学を眺めている。
『フリーポーズ準備してください』
規定ポーズという決められたポーズを見せた後、フリーポーズと呼ばれる音楽に合わせてポーズをしていく種目へと変わる。
他の人たちが選択した曲は、自分たちの曲や、はやりの曲、中には「ももたろうさん」の童謡だったりした。
どんな曲だろうか、そう期待しながら伶匠はアナウンスでの発表を聴いた。
『7番 フリーポーズ曲名「未定」』
会場が明らかにざわついた。そして、流れるのは、かなり強めのロックなインストゥルメンタル。荒削りな曲だが、伶匠のハートを思いっきり殴ってくる曲。そして、かっこよさから転調し、急に来るオペラのような突き抜けるような伸びやかな箇所。まるでその高音は、伶匠なら歌えるような伸びやかな高音。
一分しかないフリーポーズ曲。
あまりにも、強すぎる。
もしやと思った伶匠は、筋肉から学の目をまっすぐ見つめる。学はその視線に気づきつつも、最後かっこよく、力強く最後のポーズを決めた。
フリーポーズが終わると、会場からは大きな拍手が巻き起こる。それはそうだ、圧倒的な筋肉美を見せつけ、最後にはアイドルらしいサプライズまで用意してきたのだ。
「学さん、好きいいいいいいいい!!!!」
「れれれれ、レイ!?!?」
「んーーーんんんんっ!!!!!!!」
もう既に感情のコントロールをする気すらない伶匠は、溢れ出す心のまま叫び続ける。その隣りにいたシオンは、流石にやばいと伶匠の口を抑える。学は、審査員の人たちに頭を下げた後、伶匠にも手を振り、ステージから捌けていった。
そして、結果は、圧倒的な点数を出し、学が優勝した。圧勝だ。その結果を誰よりも喜んでいたのは伶匠で、ディアラブのメンバーはそんな伶匠を微笑ましく見ていた。
表彰式で再度出てきた学は、サイドチェストを決めて写真を撮った後、マイクを通しコメントした。
「まさか、諦めた夢が一つここで叶うとは思いませんでした。さっきの曲は、驚く形で皆さんにお届けしたいと思ってます」
それは大変力強い言葉。会場からは大きな拍手が起きる。そして、その後一度控室から戻り、着替えてから戻ってきた学に、伶匠はすぐさま近寄っていった。
「学さん! かっこ良かったです!」
「そうか、ちょっと絞りが間に合うかだったが、そう言ってもらえてよかった。伶匠の応援すごいな、緊張がほぐれたよ。ありがとう」
「本当ですか!? よかったです!!」
褒められて嬉しかったのか伶匠は、頬を赤らめながら照れたように頭を掻いた。そんな伶匠が可愛かったのだろう、学は伶匠の頭を優しく撫でる。
「そうだ、伶匠、さっきの曲どうだった?」
「すごくかっこ良かったです!」
少しだけ心配そうに尋ねた学に、伶匠は即答で答える。
「そうか、よかった。実はあれ、伶匠とコラボ予定の曲で作ってたやつなんだ」
「……やっぱり、そうだったんですね」
学からの返答に、伶匠はのときの「もしや」が正しくて、嬉しさを噛みしめる。やはり、あそこは自分のパートだと、その嬉しさは表現しきれないものだ。
「伝わったのか?」
「勿論ですよ、あんな高音、俺くらいしか歌えないですからね」
「ああ、その高音に俺は心奪われたからな」
伶匠は力いっぱい抱きついた。心奪われたのは、自分の方だ。力強く抱きしめ合う二人に、スタンドで見ていたそれぞれのグループのファンであるトゥラブとアモールは、思わず互いに顔を見合わせた。
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