カムバック

続 1話

 

 ここは、原宿にある屋内体技場。そこに集められたのは、日本で活動するアイドルたち。そのアイドル達は皆、赤青黄三種類のジャージを着ていた。なんと今日は、日本で活動するアイドル達が赤青黄の3組対抗で行う日本アイドル体育祭の初開催日。

 この屋内体技場には、沢山の男性アイドルたちが集められており、そこには勿論この二人もいた。

 

「よ! 伶匠!」

「学さん!」

 

 赤色のジャージを着たディアラブのマナこと鴇田学ときたまなぶと、黄色ジャージを着たクーピードゥのレイこと伶匠は、宣誓が終わったあとのアリーナでやっと本日合うことができた。

 

「あー! とっても、ジャージ似合ってます!!!!」

 

 伶匠はぴょこぴょこと学ぶの周りを飛び跳ねながら、ぐるりとジャージ姿の学を見る。

 いつもより肌が日に焼けたように濃くなった学。その姿はいつもよりも野性味を感じさせ、伶匠は延々と称賛する。

 そんな伶匠に気を良くした学は、巫山戯たように軽くボディビルのポージング、両腕の力こぶをグイッと魅せるダブルバイセップス。

 

「よっ! 肩にトラック乗せてんのかい!」

「おーよく知ってるなあ」

「へへっ、学さん驚かせたくて。最近ちょっと勉強したんです」

 

 照れたように頭を掻く伶匠に、学は思わず頭を撫でる。その瞬間、スタンドからざわめきの声が上がった。なんだと思いざわめいた方を見ると、そこにはクーピードゥのファン「アモール」たちが座っている。そして、そのアモールの隣にはディアラブのファンである「トゥラブ」たちがいる。

 そんなファンたちに二人は手を振ると、戸惑ったようにファンたちが手を振り返してくれた。

 

「あー意外だよな、俺たち仲いいの」

「まあ……あれは、びっくりしてますね。もっと仲良いアピールしましょう」

 

 そう言うと、伶匠はいきなり学に飛びついた。急なことではあったが、学はそれを難なく受け止めると、ぐるぐると回転し、優しく伶匠を下ろす。

 

 その間、ファンたちからは悲鳴に近い声が上がっるのが、勿論二人にも聞こえていた。

 

 すると、トゥラブの一人が大きな声を上げる。

 

「マナーーー!!! そんな可愛い子ちゃん乱暴にしちゃだめえーー!!!」

 

「えー!? 俺のせい!?」

 

 まさかの言葉に慌てふためく学。

 周り的には的を得ていたファンのツッコミに、他のファンや二人の周りのアイドルたちからもドッと笑いが起きる。学は少し困ったように笑うと、「もっと大切にしないといけないな」と伶匠の頭を撫でた。それに対して伶匠は、少しだけ複雑そうにしつつも、「俺も学さん大切にする」と返した。

 

 そんな風に仲良くしている二人は、たくさんある競技の中、まず伶匠が最初に出番が来た。

 グループ対抗戦のアーチェリー。まさに、クーピードゥ(キューピッド)には相応しい種目だった。

 

 5人1組で2回ずつ矢を射て、ダーツのように点数が決められた的に当てて、当てた合計点数を競う種目だ。

 

「伶匠! 気合い入れてけよ!」

「はい! 学さんもびっくりするくらい活躍してきます!」

 

 激励をしてもらい気合の入った伶匠、どうやらとても練習したのだろうか、初めてにしては上手に的を射ている。他のグループでは、0点を出した子もいるのに。

 

「レイ選手、2回合計が200点中160点です!」

 

 アナウンサーの声が響くと、

 といっても、レイと同じグループの一人が無双をしていた。

 

「カナデ選手、なんと! 2回目は的中央のカメラを射抜きました! すごい、100点です!」

 

 クーピードゥの末っ子サブボーカル、カナデ。彼はなんとまだ高校2年生の伶匠の一つ下というのだから、正直そんな子もデビューするなんてともう21歳を過ぎた学も驚きだ。

 

「いいところ、カナデに取られたなあ……」

 

 グループ優勝したというのに、そう言って俺学の隣でむすくれる伶匠。学はそんな伶匠に「いや、お前もめちゃくちゃかっこよかったぞ」と優しく褒めて宥める。ぐずぐすと甘える伶匠は、ちょっとそれが心地よいのかべっとりと学にくっついた。が、しかし。

 

「レイ兄さん、先輩困らせないでくださいよ! マナ先輩、すみません、うちのメインボーカルが……仲いいからと言ってやりすぎです」

 

 学からそう言って伶匠は引き剥がされた。その引き剥がしたのは、先程すべての注目を攫ったカナデであった。

 

「やだぁ! 学さんと一緒がいいー!」

 

 急に剥がされたせいか、カエデよりは年上だというのにも関わらず、ジタバタと駄々を捏ねる伶匠。

 

「情けない声を出さないでください! マナ先輩も、早く競技の待機ですよね? アナウンス名前呼ばれてましたよ」

「あっ、そうだった。すまん、カナデくん。伶匠を頼んだ!」

 

 しかし、駄々を捏ねたところでどうにかなるわけもなく、学は伶匠をカナデに任せ、選手待機室に向かって走っていく。

 

「あーー学さんーー! がんばってくださいー!!!」

「おう!」

 

 伶匠は流石に観念したのか、ぱっと切り替えて、学に目一杯エールを送る。その横でカエデは大きく溜息を吐いた。

 

「本当にこの二人、一緒になると……俺、この人たち尊敬してたのにな……」

 

 その言葉に哀愁が漂っているが、そんな年下に気遣うことはない。なにせ、伶匠には選手室に駆けていく学の背中しか見えてないからだ。

 

 

 

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