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 母のことに関しては、とにかく家の中を歩き回ったり襖を開けてみたりするところから「何かしらアピールしたいらしい」と見当をつけた。とはいえ肝心の「何か」の部分はわからないままだ。

 会話がままならないというのは厳しい。霊能者でもなんでもない母は、どうしておサヨさんと話すことができたのだろう。

「やっぱウィジャボードの日本語版がいるんじゃねーかなぁ。どこで売ってんだ?」

 兄はあくまで降霊術をやりたいようだ。父が「それ普通にコックリさんでないか? 紙に書いて作ったらいい」と横から口を出す。

「そういえばさ」と、兄はいきなり話題を変えた。「オレは会ってないけど拝み屋呼んだんだよな? そっちどうなった?」

 兄の質問に、父は「そっちも駄目や」と答えた。

「もしかして偽物だったとか?」

「いや、本物やったさかい駄目」

「わからんが駄目ならしょうがないな」

 兄はよくわからない納得をして「・拝み屋は駄目だった」と紙に書き加えた。

「さて、どうしたもんかなぁ」

 鉛筆をコツコツ言わせる兄の様子がかなり普段通りなので、わたしはだんだん不安になってきた。ここまで平常運転されると、かえってどこかで突然心が折れて、戻らなくなってしまうような気がする。

「あとは――そうだ父さん、聖くんたちは?」

「見つからん」

「ああ、本家の当主に――晴ちゃんに本命のやつがくっついてるなら、ぼやける力がそっちに行ってるわけだ」

「そうだな」

「じゃあ見つからないよなぁ。見つかったからってどうなるわけでもない気がするけど」

「たぶんそいつが『見つけてほしい』と思うまで見つからんのやないか」

 父がそんなことを言う。

 見つけてほしいなんてこと、あるのだろうか? わたしはだんだん、どこまでも続く迷路の中にいるような気分になってくる。この状況はどうやったら終わるのか、見当がつかないまま手近な角を曲がったり、行ったり来たりを繰り返しているみたいだ。

「うーん……昔から伝わってる方は? 本家が空になったときの対処みたいなやつ」

 兄がぽろっと口に出した言葉に、頭をはたかれたような気がした。わたしは思わず立ち上がった。

「なにそれ、そんな方法あるの?」

「分家の当主に口伝で伝えてるやつな。父さんの世代で使う羽目になるとは思うとらんかったが……言うてもホラ、空になった家に等身大の人形を置くべしとか、妻子の縁を切って逃がすべしとか、そんなことしか伝わっとらんぞ」

「一応書いとこ」と言って、兄がまた鉛筆を走らせる。走らせながら、

「これさ、たぶん本家の当主にその……なんて呼んだらいいのかわからんけど、山のやつが憑く前の対処法だったんじゃないかと思うんだよな」

 と、ぽつりと言った。

「どういうこと?」

「今はこれやっても意味がないってこと。今そいつは晴ちゃんの中に入っちゃってるから、色々条件が変わっちゃったんじゃないかな。実際これやっても人は死んだわけだし」

「じゃあ、今こっちでできることって」

「やっぱ特にないんじゃないの? 今のところ……」

 兄は鉛筆を止めて、ため息をついた。「――コックリさんの紙でも作るか」

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