Episode.1 変化無し

高校一年の冬、東雲 司はいつも通りの学校生活を送っていた。

昨日と今日とで違う点を挙げるとするなら、童貞かそうじゃないかだ。


外は雪が降っている。登校中には降っていなかったが、いつの間にか雪は窓枠に少し積もるくらいになっていた。


「んーなんかさ、司、今日元気ないね。ずっと上の空じゃん」


突然、隣の席の若林 結衣が話しかけてきた。


「そう見えるか?」

「もはや構って欲しいのかなって思ってた。図星?」

「......さぁ」


図星じゃないと言えば嘘になるのかもしれない。自分も少し誰かと話したい気分だった。昨晩の出来事にずっと囚われている。


「今日司の部屋行くね。部活休みだし、前言ってた漫画読みたいし」

「了解」


結衣とは幼馴染だ。

両親同士が高校からの友人で、家も隣にある。

その親同士四人が高校からの付き合いを10年以上続けてるって凄いなと、息子ながら思ったりもする。


授業終わりのホームルームが終わって、皆が一斉に帰宅し始める。


「さ、帰りますか」


俺と結衣もその流れに乗って帰路を辿る。外は寒く、風はマフラーを貫通していた。


「ねえ、あそこの自販機で温かいやつ買おうよ。寒すぎて死にそう」


結衣は道の端にある自販機に詰め寄っていった。その自販機にはコーンスープが100円で売っていた。

そこで俺は1つ提案した。


「じゃんけんで負けたヤツが奢ろうぜ」


すると結衣は勝ち誇ったような表情を浮かべながら、


「受けて立とうではないか」


その結果といえば、惨敗した。

結衣の顔を見ると言い出しっぺは負けるんだよとにんまりとした顔で訴えてくる。ビンタしてやりたい。

自販機が発する無機質な音と同時にガコンとコーンスープが落ちてくる。


「はぁ〜あったまる〜」

「やっぱ冬はコーンスープに限るな」


そんな他愛もない会話をしながら気付けば家に着いた。


「ただいまー」

「お邪魔しまーす」


廊下には二人の声だけが響く。

俺の両親は共働きで帰ってくるのは8時過ぎくらいだ。

ただ最近は年末ということもあってか帰りが遅かったりする。


「司の部屋一週間ぶりだ」


結衣がそう呟いて、俺達は階段を登って二階にある俺の部屋に向かった。

部屋の電気を付けると、物が散乱した様子が目に飛び込んでくる。そういえば掃除してなかったな。


「部屋散らかりすぎでしょ......」

「ごめん......」


いくら幼なじみと言えども相手は女子だ。そこら辺の配慮をしておくべきだった。


でも昨日やろうとは思っていた。ただ帰らないなんで思っていなかったから仕方がないと言えば仕方がない。


「漫画そこにある。あと他に気になるやつあったら勝手に読んでいいから。俺飲み物取ってくる」

「はーい」


空返事をしつつ、漫画をとって俺のベットに寝転がった。その流れるような動作に若干感心しつつ、俺は1階の台所へ向かう。お湯を沸かしながら紅茶のティーパックを取り出して冷蔵庫の冷凍室を見る。そこにはゲーダンハッツという近所の少しお高めのアイスがあったのでラッキーと思い持っていくことにした。


「バニラかグリーンティーかどっち、が......」


ドアを開けると結衣がさっきの漫画とは違う薄い本を手にしていた。


「あっ......」

「......そこに直りなさい司くん」

「......はい」

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