第56話 世界の真実の欠片

 食事を終え、といっても食べていたのは俺と魔王だけだったが、4人は闘技場に向かっていた。赤紫色のカーペットが敷いてある、終わりがないと錯覚するほどの長い渡り廊下を進む。


「この戦闘で、少しでも女神セドナの気が晴れるといいんだが」


 が言った。セドナの表情が強張る。


「まあ、我々と人類と価値観は違うであろうし、気長に考えるとするか」


「黙れサタン! 後悔させてやる」


 セドナはその優しさに神経を逆なでされ、怒鳴った。


「何をだ?」


「父、母、ヴィーナスを殺し、いや、人類を侵略したことだ! 貴様の部下だったベルフェゴールから受けたことも忘れはしない」


「ふむ。それはもうすでに後悔している。すまなかった」


 魔王はあっけなく罪を認め、謝罪した。セドナは茫然とし、怒りを返すことが出来ない様子だった。


「私は私の目的のために、必要なことをしていた。その結果、自分の一部を分け与えた四天王を産み、判断力が低下した部分は大きい。ベルフェゴールは私の知恵と残虐性を強調特化し、抽出した存在だった」


「り、理由など知ったものか! 両親と妹をお前の指示で殺させたんだ! これをどう許せと言うのだ!」


「ふむ。では、なぜそもそも貴公ら人類は、この星の所有権が自分たちにあり、我々魔族はそこを侵略している、と考えているのかね」


「は?」


 セドナと魔王サタンの問答は続く。


「800年前。目覚めたとき、すでに魔族は虐げられていた。貴公ら人類にな。私は生きているということだけで迫害を受けていたのだ」


「それは貴様らが我々を攻撃したからであって」


「この星に最初に産まれた生命は、魔族だ」


「な……何を根拠に」


「記憶だよ。魔王は記憶を継承する。その記憶では、初めにまず魔族がいた。そして人類が産まれ、とんでもない勢いで繁殖した。我々はこの大陸の半分を住処として与えた」


「デタラメだ!」


「嘘である証拠もなかろう。まあ最後まで聞け」


「……」


「すると人間は一定の数を越えると、領地を分断し、食料を奪い合いはじめた。戦争を始めたんだよ、人間同士で。魔族にはそういった発想はない。そもそも強さに従う習性を持ち、弱肉強食だからだ。魔王は死後、魔界に突如産まれる。王として君臨するのは魔界を無駄に争わせないための装置みたいなものだ」


「魔族の方が温和だといいたいのか!」


「いや。そんなことはどうでもよい。そして、その戦争に勝ったのが、女神セドナと、女神アイオンの祖先だ。人類を殺戮し尽くし、王政を敷いた。そして今度は内乱を防ぎ、王家への不満を押し付ける共通の敵を作るために、魔族へ敵意が向くように扇動した」


「……」


 セドナは立ち止まった。それに合わせて3名も立ち止まる。魔王は続けた。


「分け与えた土地で奪い合い、仮初の王政を敷くと、今度は王家に力があるものが生まれ始める。女神の称号によるスキルと、聖魔法による勇者召喚だ。わかるか? 


「何が言いたい」


「私が記憶を持った瞬間に、この世界はすでにあったのは本当か?」


「なん……だと」


「勇者よ、やはり貴公は賢者であるな」


 魔王サタンはこちらを見てほほ笑む。俺はよくわからないから、なん……だと。と言っただけだったが、とりあえずわかってるフリをしておいた。魔王は歩き出す。それについていくように皆も歩き出した。


「すると、今までなかったはずのが現れた。我々魔族の側にだ。魔族の森の奥深くに石碑が現れたのだ。そしてそこに女神と勇者の心臓を同時に捧げよ、と記されている。私が継承した過去の記憶の中で、その森に石碑などなかったはずにもかかわらず」


「それって___」


 

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