第55話 魔王との食事会

 戻ると、アイオンがうつむいていた。ごめん、一緒に見てたのね。


「ついてこい。歓待しよう」


 魔王城に着くと、豪華絢爛な円卓の間に通された。

 魔王のすぐ隣にアイオンは座り、俺はその反対側にセドナと共に座った。


「人間の口に合うといいんだが」


 そういって魔王は食事を提供してくれた。メイド服のような恰好をしたサキュバス達がイソイソと食事を運ぶ。アイオンとセドナは手を付けなかったが、俺は頂くことにした。毒が入っているとは思えない。好意的であるフリをする必要もある。味は問題なく美味かった。何が入っているかは検討もつかないが。人間のスープとかじゃなければいいな。


「アイオンは今後私の側室として迎えることにする」


「なんだって!」


 俺は立ち上がった。装備をしていない下半身の相棒が食卓に顕現する。

 人間の女には欲情しないかと勝手に思っていたが、魔王自体も人型、なにより俺はさっきからサキュバスたちのおっぱいを見ていた。つまりそういうことだ。


「目を離せば貴公らに殺されぬやもしれん。常にそばに置かなければならない。当然であろう。正式に側室として迎える以上、魔王として恥じぬ扱いを約束しよう。アイオンも承諾済みだ」


「アイオン」


「本当です」


 アイオンを見ると、首をかしげ小さく笑った。俺に一人で戦うから大丈夫だと言って見せたときの、強がりの顔だ。我々が荷物を取りに行っている間に約束したのだろう。その状態でセドナとイチャついてるところを見せてしまったことを後悔する。

 それに、魔王はよく考えている。我々と和解するための努力をだ。

 俺は何も言葉を返してやれず、みっともなく席に座りなおし、チンポジを整えた。


「どれだけ仕込んであるか、楽しみだよ」


「……俺は何もしていない。初めてなんだ、大切にしてやってくれ」


「それは失礼した。聖女だったな。わかった、それも約束しよう」


 魔王は食事をしながら言った。セドナは魔王を睨みギリギリと噛みしめていた。アイオンは超現実主義だ。俺が降参したことに賛同したのも、本心からだろう。こうなることも、自分が犠牲になる覚悟も、あの一瞬で判断し決心したのかもしれない。頭ではわかっていても、俺はイラだちを抑えきれずにいた。

 

魔王はそんな俺を見ると


「私の目の前で、という条件であれば初めては貴公に譲ってもかまわないが?」


 と言った。正直俺は嬉しかった。

 だが、アイオンを見ると首をふるふると横に振った。


「気遣いありがとう。だが、大丈夫だ。アイオンも王女だ、覚悟はできている」


 俺はテーブルの下で煙を上げていたセドナの手を握った。強く握り返してくる。


「ふむ。余計なことだったかね。しかし一人じゃ物足りなかろう。気に入った娘がいれば、私に許可を取らず寝室に連れて行ってよいぞ。先ほどからメイドの体をチラチラみているだろう」


 魔王は笑って言った。


「それはありがたい。いずれは頼むかもな」


 俺も笑い返した。アイオンがむくれている。こんな時でも可愛いやつだ。

 そして痛い。セドナさん、握ってる手が痛い。話を合わせてるだけです。これが日ごろの行いがよくない自分への罰か。


「はは! 色好きは強者の証だ。貴公とは仲良くなれそうだな」


「そうかもな」


 アイオンのことがなければ、本当にそうだったかもしれない。敵に対しては残酷な性格をしているが、一度味方と認めた我々に対しては寛大かつこれ以上にない待遇で迎え入れてくれている。アイオンのことも、そうせざるを得ないのは我々の敵意からだ。考えられる中で最上の条件と言える。


「俺は話した通り、もう負けを認めている。だがセドナがどうしても納得いかないようでな」


「そのようだな」


 魔王が布巾で口を拭い、セドナを一瞥して答えた。


「悪いが、俺の全身全霊の一撃とセドナの攻撃を受けてくれないか」


「無論だ。こい、闘技場がある」

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