第50話 慢心と油断と凶兆

 魔王は磔にされたアイオンの前に立ち、手を前にあげ詠唱する。


「【閻魔の絶門】」


 魔王の前に巨大で禍々しい地獄の門が展開された。その門に投じられたエネルギー体がぶつかると、魔王の上げた手に衝撃が走る。バチバチと音を立て勢いを弱めないその攻撃に、魔王最強の防御魔法が破かれようとしている。


「なんだと…!」


 魔王はもう一度魔力を込め、腕を前に突き出し、閻魔の絶門に送り込む。ひび割れていく門が修復されていく。

 魔王がそれを見て気を緩めた瞬間、また特大の衝撃が走った。


「っぐ!!!!」


 3投目が投げられたのだ。


「勇者ぁあああああ!!」


 魔王は叫び魔力を込めた。が、閻魔の絶門は砕け散った。エネルギー体も門と共に消えてくれたが、あんなものを連投されてはまずい。見ると、また左足を上げていた。


「全軍で一斉にかかれ!」


 渓谷から一斉に1万体の魔物が飛び立ち、守に向かっていった。投球される4投目に備え、魔王はまた【閻魔の絶門】を展開し衝撃に備える。

 すぐにエネルギー体がぶちあたり、閻魔の絶門ごしに衝撃が魔王に突き刺さる。


 なんとか攻撃を防いだが門は砕けちった。

 砕け散る閻魔の絶門ごしの視界から全軍が襲いかかる姿を見て、魔王は勝利を確信した。


 しかし、守は手をあげ、天空を睨み詠唱する___


「【雷神の鉄斧】」


 視界が真っ白になったかと思うと、渓谷の幅すべてを埋め尽くすほどの超巨大な雷の斧が、一気に降り落とされる。

 魔王軍1万体は、一撃で壊滅した。


「くははははは! 勇者、楽しませてくれるわ!」


 魔王は素直に関心した。想定していた何倍、いや何千倍も勇者は強かった。


「褒美だ、最上級の魔法で屠ってやる」


 魔王の賞賛を全て無視して守は行動する。

 ふらつく体を奮い立たせ、魔王とアイオンに向かい、守は手を上げる。


「【雷神の鉄斧】」


 同じく雷雲が立ち込めた。魔王は驚愕した。あの技を2発連続で出してくるなど、考えられなかったからだ。思考より先に魔王は頭上に手を上げる。


「【閻魔の絶門】」


 詠唱は間に合ったが、巨大な雷撃がのしかかった。閻魔の絶門はすぐに砕け散った。な


「ああああ!!」


 魔王はアイオンを殺させないために、自ら雷の中に身を投じ盾となった。


「ぐああああああああああああああああ!!」


 雷撃が魔王に直撃した。油断していた。完全に舐めていた。それ故に魔王は肉体強化の魔法をかけていなかった。全身を痛みが貫くのは初めての経験だった。なすすべなく地べたに魔王は落ちていく。


 守も魔力切れで倒れ込む。セドナはアポカリプスに勝利し、とどめを刺そうとしていた。が、倒れている守を見ると、アポカリプスのこの出血量なら動けぬまま死ぬだろうと判断し、守の元へかけ向かった。


「勇者様! 勇者様!」


 セドナは喜びに満ちていた。急いで防具を脱ぎ、お姫様だっこをしながら胸を守の顔に押し当てた。

 MP回復のためだ。守は現状指一本動かせない。セドナは自分の汗と匂いが気になったが、背に腹は代えられなかった。


「ふぁっふあのふぁ?(勝ったのか?)」


 胸の中でパクパクと口を動かす。


「はい! 我々の勝利です!」


 セドナは胸に顔をうずめさせたまま帳の渓谷へ飛び渡った。着地の瞬間肉体強化が切れている守から、グェ、とカエルを踏み潰したような声がした。セドナは慌てて声をかけたが、守は返事の代わりに親指と股間を立てた。大丈夫そうだ。


 黒焦げになった魔王は体を痙攣させて言葉一つ発しない。

 

 アポカリプスは、絶命しかけていた。

 しかしそれは決して吉兆ではないのだ。


 〇

 新年あけましておめでとうございます!

 今年も宜しくお願いいたします。


 こっそり裏話。

 49話と50話は、守の1人称視点で書き上げた後に、アイオンや魔王の視点からの描写をどうしてもしたかったので、全部消して3人称で書き直しました。


 そして、正月早々不穏なタイトルでしたので言霊をば。

 読者の皆様が幸せな一年を過ごせますように! 大吉!


 著 君のためなら生きられる

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