第49話 最終決戦 

「魔王様、森を高速で移動する勇者と女神セドナを確認しました。あの速度であればもう数分で到着するかと」


 監視のイビルアイが跪き魔王に告げた。魔王は不気味な笑みを浮かべる。


「アポカリプス、アイオンに拷問をかける準備を。勇者の目の前で炙ってやろう」


「畏まりました」


 アポカリプスが丁寧にお辞儀し、4回目の火あぶりの準備に向かった。魔王は浮遊し、磔にされたアイオンの隣へ移動する。


「勇者が来るそうだぞ、よかったな再会できて」


「嘘です……」


 アイオンは拷問と回復の繰り返しで、精神的に疲弊しきっていた。


「クハハッ、あれほど私に何をしても来ないと言っていたのにな」


「セドナお姉さまが止めてくれるはず」


「そのお姉さまも一緒だ」


「ありえません……」


「信じなくともいい。すぐにわかることだ」


「魔王様!」


 部下の声に気づかされ森を見ると、輝く何かが木々をなぎ倒しながら進んでいた。


「そんな……!」


 アイオンはそれを見て驚愕した。絶対に来てはいけないと分かっているはずだからだ。来ても勝ち目がない。


 魔王たちがはずみでアイオンを殺してしまうまで耐えるしか選択肢はないはずなのに。一体どうして。


「うっ」


 頭ではわかっている。わかっているが辛かった。もう一度守に会いたいと願いながら受けていた拷問だった。堪えていた願望が、涙に変わってあふれ出す。

 その輝く何かは気づくと崖前までたどり着き、姿を現していた。

 間違いなく、相沢守とセドナだった。全身を肉体強化の光で纏っている。


「アイオーーーーーン!!!」


 守は叫んだ。アイオンは嬉しいと思ってしまう自分を恥じた。唾を飲み込み、叫びかえす。


「守さん! 逃げて!!」


「本当にきたぞ、バカなやつらだ!」


 魔王はアイオンを煽った後、手を天に向け詠唱をする。


「【隕石召喚】」


 上空に50Mはあるであろう、巨大な隕石が瞬時に顕現した。アイオンは絶望した。これで全部無駄になってしまった。私が態度からバラしてしまったばかりに。


 しかし、守の目に微塵も諦めの色はなかった。


「セドナ、俺の後ろに!」


「はい!」


 守はセドナが道中強化し続けた石を握った。強化で濃縮された石は鋼鉄を越え、もはやダイヤモンドのように輝いている。戦闘の唄の重ね掛けで極限まで強化された肉体で、左足を真上にあげ振りかぶった。


「【戦いの唄】×10」


 守はその戦いの唄をかけた。肉体強化の呪文を石にエンチャット出来ないか、姉妹が偵察中に実験して成功していた。石は発光し、手のひらに収まらないほどのエネルギー体に変わった。


 魔王は腕を振り下ろす。召喚された隕石がはるか上空から空間を揺らす音と共に落とされた。

 守は体を捻じり、隕石めがけてエネルギー体をぶん投げた。


「おらぁあ!」


 キンッ、という甲高い音と共に音速の壁が白く現れたかと思うと、エネルギー体は落下してくる隕石をぶち破り、彼方に飛んで行った。巨大な隕石は中心に大きな穴をあけ、クッキーのようにバラバラと砕け散っていく。


 魔王は生まれて初めて本気の苛立ちを覚え、目の下をピクピクと痙攣させた。


「勇者様! お願いします!」


 一瞬躊躇っていた守をセドナが声をかけると、一つ頷き2投目の準備に入り、また左足を高く上げ始めた。


「【デュノラス・ゲルボルグ】」


 アポカリプスは慌てて準備していた熱光線の槍を解き放った。が、セドナが守の前に出て、それを弾いた。


「な……数時間前に防具ごと体を分断した技なのに、なぜだ!」


「俺が胸を揉んだからだよおおおおおおおお!!!」


 セドナはその絶叫を聞き、真顔で頬を赤く染めながら回転回避し、球筋を避ける。

 セドナが恥じらいを抱くことすら置き去りにするほどの剛速球のエネルギー体が、アイオンに向かって投げられる。

 アポカリプスは帳の渓谷を飛び越えセドナに突撃し、唾競り合いになった。


 その数秒前、寸前で魔王は守の狙いに気づいた。アイオンを助けにきたんじゃない。

ということに。

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