第42話 発動条件
俺たちはテーブルについた。アイオンがハーブティーを入れてくれた。
「タイムリープの項目に、発動条件が備考されていると思うんですが、そこにはなんて書いてありますか?」
「確認してみる。……お、おい。【アイオンの自死以外での死亡】って書いてあるんだが」
セドナがハーブティを飲むために伸ばしていた手を止めた。しかしアイオンは何事もなかったかのように言葉を続ける。
「なるほど、発動条件は私に残ってるんですね、でしたら」
「大丈夫なのか? 死なないといけないんだぞ」
俺は言葉を遮った。当たり前に流していいことじゃないはずだ。
「慣れてますので。むしろ守さんじゃなくてよかった」
アイオンは、嬉しそうに笑った。本気で思ってるんだ。今までどんなつらいリープをしていたんだろうか。
「続けます。守さんはリープ後の世界で、この効果が継続しているか確認してください。時間逆行が起きますが、この世の理とは外れた創造神の御力です。おそらくですが、記憶維持者は時間軸に左右されないのと同じように、リープ能力は守さんに残ります。備考欄の条件が、私の死のままか、守さんの死に変わっているかもご確認ください」
「わかった。でも俺にリープが残るなら安心だ。世界救うまで繰り返せばいいんだな」
「……守さん、お願いが二つあります」
いつになく真剣な面持ちでアイオンは言った。
「なんだ。アイオンのお願いなら何でも聞くぞ」
「私たち二人は、これより魔王の索敵に向かいます」
「なら俺も一緒に」
「駄目です。魔王の力は予測不可能です。一撃で守さんを貫く魔法、もしくは私達を咄嗟にかばってしまい守さんが戦死をするとおしまいです」
「リープするから大丈夫なんじゃないのか?」
「私が先に死亡する必要があります。備考条件である私の自死以外での死亡を満たす前に守さんが死亡した場合、タイムリープは起きず全滅です」
「……なるほど」
「我々は情報を掴んだら、また神域に戻ります。ですが、そう上手くはいかないと想定していた方がいいでしょう。その場合私はセドナが神域に戻れるように後方支援し、その後姿を隠し、タイムリープの発動をお待ち下さい」
「ここでアイオンが死ぬのを待ってろってことか」
「そうです。つらい思いをさせてしまい、すみません」
「……分かった。ここで待つよ、アイオンとセドナの帰りを」
アイオンの心が一度折れた気持ちが今なら少しわかる。こんなことを10回も繰り返していたのかもしれない。タイムリープをする者の責務ってやつを、俺は実感し始める。
「ありがとうございます。もう一つは、リープ後は即私と契約し、勇者に___」
「断る」
俺はアイオンの言葉を遮り、ハッキリと告げた。これだけは譲れない。
「しかし!」
「どれだけ頼まれても、断る」
「……なんでも聞いてやるって言ったじゃないですか」
「それ以外なら聞くよ」
「私とセドナお姉さまを、今から飽きるまでどれだけ好きにしてもいいといってもですか」
「ああ」
俺は心の中で血の涙を流した。飽きるまで好きにしたい。めちゃくちゃしたい。というか飽きはこない。
だが、ダメだ。
「私達がそれを望んでいるのにですか? この時間軸での私たちの本気の願いなんです。そしてタイムリープで戻った私の本気の願いも、勇者契約をして世界と姉妹を救って頂くことなんです」
「……」
「守さんは時間が戻るだけと思っているかもしれませんが、記憶を維持しない私たちにとっては、感覚的には死そのものとなんら変わらないんです。それでも私の願いは叶えてもらえないんですか?」
「聖女の力を失うとタイムリープできないんだろ」
「タイムリープするのは守さんです。聖女である必要はもうなくなりました」
二人は俺の返事を待たずに立ち上がり、スルスルと服を脱ぎ始める。
俺は目を逸らした。二人はそんな俺を無視して両脇に立つ。
「そんなことしても無駄だ」
「説得のために嫌々してると思ってますか? 私たちはずっと守さんと結ばれたかったんです。気づいてないとは言わせません。あむっ」
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