第43話 全裸ASMRドッキリ

 アイオンとセドナが密着し、俺の体を撫でながら耳を甘噛みし、舐め始める。

 リアルASMRだ。決心とは裏腹に相棒はもう痙攣してるんじゃないかと思うほど脈動している。


「本当はずっとこうしたかったんです」


 アイオンが耳元で囁いた。


「私なんてまだキスさえしてもらったことないですよ勇者様」


「それはセドナのトラウマを気遣ってんんっ」


 なんということでしょう。俺のうるさい口をセドナがキスで塞ぎました。


「あ、ちょっとずるいですお姉さま、私も」


 アイオンとセドナに唇を奪い合われる。

 椅子に座る俺の両足に、女神は一人ずつ跨り乗っている。

 これ以上したら、ダメだ。決心とか覚悟とか関係なくなってしまう。

 俺は二人を押し退けた。


「駄目だ。ダメといったらダメだ。俺は絶対にアイオンもセドナもヴィーナスも救う。どれだけしんどくても、つらくても、それをアイオンに望まれなくてもだ」


 かっこつけてますが、ビンビンです。

 すみません、童貞なんで許してください。

 アイオンがまた俺に顔を寄せ、じっと覗きこんでくる。

 俺は見つめ返した。めっちゃくちゃ照れている顔をしてしまっているだろう。

 だけど、目を逸らすわけにはいかなかった。


「……ほんっとにずるい人ですね、守さんは!」


「だから言ったでしょう。無理だって」


 え?なに?ドッキリ?? 

 試されてたの?


「守さんの意気地なし! 恥ずかし損です!!」


 セドナは服を着始める。

 ドッキリではないらしい。いつの間に相談してたんだ。俺がトイレ行ってる間か?

 アイオンも服を着始めたが、めちゃくちゃムクれてる。こんなに不機嫌そうなアイオンは初めて見た。


「せめて嘘をついて抱いてくれたらいいのに。リープ後で約束を忘れた私の勇者契約を断るかどうかは今の私にはわからないし」


 ガーーーーーーン!!!!!!

 それありなの?!!???

 むしろそうして欲しかったの?!?

 言ってよほんとに抱かれたいなら!!!

 あ、言ってましたね、俺が信じてなかっただけで。これだから童貞は!!

 そんなこと思いつきもしなかった。今からしようと言うほど情けない話はない。

 俺は拳を握りしめ震える声で答えた。


「魔王を倒したら、抱いてやる」


「えーん、私は今から死にに行くし、その言葉は忘れてしまうのに」


 わざとらしくアイオンが泣き真似をする。

 ええ? やっぱり抱いてもいいですか?


「やめなさい、アイオン。意地悪がすぎるわよ」


「はーい」


「そうだぞ、俺の意思は固い」


 股間も未だ固い。というかおさまるのかこれ。


「流石は意思の勇者様ですね、守さんは」


 そういえばそんなこと最初に言われてたな。意味がわからなかったが、案外間違いないのかもしれない。


 三人はもう一度テーブルについた。


「私の10回のタイムリープの情報を念のため共有しておきます。守さんが戻る時間軸がこのループの初めであれば私から聞けばいいですが、私の1回目まで戻る可能性も否めないので」


「ああ、頼む」


 アイオンは魔界の地図とヴィーナスがアポカリプスに幽閉されていた城の位置や、その他細かい魔物の出現分布図、魔王についての情報など、いろいろと伝えてくれた。


「10回目だといいな」


 ぽつりとアイオンがこぼした。


「なんでだ? 辛い思い出だったんだろ?」


「思い返せば、大切な思い出です。今回のリープを忘れてしまうことがどうしても悔やまれます」


「俺が口頭で説明してやるよ」


「そ、それは相当仲良くなってからお伝えすることをオススメします」


 俺はわけがわからずとした表情をしていると、セドナがクスクスと笑った。この景色を忘れずにいよう。きっといろんな困難があるけど、今を思い出せばきっと頑張れる。


 二人は神域の外に出た。

 すっかり夜になり、月に似た2つの白と黒の天体が輝いていた。渇いた空気と不気味な景色が、俺たちを現実に連れ戻す。


「お別れですね」


 アイオンは寂しそうに言った。


「帰ってくるんだろ」


 きっとアイオンは帰ってこれない。

 セドナともう一度会えるかもわからない。だけど、俺だけは嘘をつかなきゃダメだ。

 俺は笑顔言った。なるべく自然に。


「そうですね」


 アイオンも笑ってくれた。


「セドナ、待ってるからな」


「はい。必ず魔王の情報をもって戻ります」


「「では、行ってきます!」」


「おう!」


 二人は魔王城に向かっていった。

 徐々に背中が遠くなっていく。もう二度と会えないような気がした。いや、今までのことを覚えている二人には、本当にもう会えない確率の方が高い。

 引き留めたい気持ちを必死にこらえる。まだ泣くな。きっと二人に聞こえてしまう。

 

俺が涙を堪えていると、アイオンが走って戻って来た。セドナは立ち止まり見守っている。俺は嬉しくてたまらなかった。だが、なるべく冷静を装った。


「どうした、忘れ物か?」


「はい。大事ことを忘れてました」


アイオンは暫く沈黙した後、口を開いた。


「守さんから……キスして欲しいです」


 そういって目を閉じた。アイオンの目尻から一粒の涙が零れる。

 そういえば胸ばっかもんでキス俺から殆どしてなかったな。これってもしかして俺最低なのか?


「ああ」


 アイオンの耳と頬を覆うように手のひらで角度をつけ、俺は口づけた。

 ゆっくりと唇を離す。アイオンはそのままうつむき、俺に抱きついた。

 何も言わずに頭を撫で、抱きしめ返す。

 やがて脱力すると、目を合わせずに、いってきます。と呟き、振り返らずにセドナの元に駆け戻った。


 二人が見えなくなるまで見送ると、神域に戻り、独りこれでもかというほど大声で泣いた。


こんばんは、君のためなら生きられる。です。

皆様に一言だけ!

メリークリスマス!

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