最終話 アイオンの幸福論
「アイオンに回復魔法をかけてもらうのはありか? 位置はそこでかまわない」
「ああ、もともと3人での戦力想定だろうからな。勿論構わないぞ」
「助かる」
俺はセドナから強化済みの石を受け取り、矢筒に詰めた。
新しい小石を召喚し、もう一度乳首をつねり、強化するフリをして封印するための詠唱を続けてくれというメッセージを送った。セドナは小さくうなずいた。
「アイオン、俺が傷ついたら回復させてくれ」
「わかりました」
アイオンは魔法杖を召喚する。
「【戦いの唄】×10」
戦いの唄を繰り返して、自らと、石の全てを強化する。
俺は魔王の目の前まで近づいた。そしてエネルギーの塊になった石を握り込み、左足を上げた。
「至近距離からの投石か? だとしたら意味はないぞ、貴公が衝撃に巻き込まれるだけだ」
「いや、それだけじゃない。こっからは俺もどうなるかわからん」
「まあ気が済むまでやるがいい」
「そうさせてもらう!」
俺はエネルギー弾を握ったまま、投石のフォームで魔王をぶん殴った。強化したはずの手と腕はビキビキと痛み、ところどころ骨が折れた___が。
「なんだと?!」
魔王は驚いた。ダメージこそは与えられなかったが、こぶしが確かに魔王の体に当たったからだ。
ステータス補正が投石にも掛かっていたため、もし仮にそれが100%掛かっているのだとしたら無駄なことだったが、どうやらそうじゃないらしい。
俺自身の攻撃力、装備の攻撃力、魔力で強化された力に、エネルギー弾と投石スキル、その全てを合算した捨て身の攻撃に、確かな感触を覚えた。
アイオンはすでにエクスヒールをかけてくれていた。
「アイオン! タイミング考えなくていいから、回復をかけ続けてくれ!」
「は、はい! 【エクスヒール】」
右手のエネルギー弾はまだ消失していなかった。今度は左手にもそれを持つ。そのまま俺は同じように連撃を行った。
「っぐあ!」
痛みに声をあげてしまう。打ち込む度に拳が砕けたが、振りかぶるまでには回復している。こっからは根競べだ。両手で只管殴り続ける。
「だあああああああ!!」
エネルギー弾が消失したら、また次のエネルギー弾をとる。ついに拳は魔王をとらえ、顔面にヒットし体をのけぞらせた。
「まさか、これほどまでとは……!」
「まだまだぁ!!」
魔王はのけぞったまま、横眼でこちらを心底嬉しそうに見てきた。覚醒状態で感じた初めての痛みなんだろう。
俺は激痛に顔をゆがめたまま、足上げを省略しラッシュを打ち込み続ける。アイオンは痛みに苦しむ俺を見て、泣きながら回復呪文を唱え続けた。障壁回復の隙を与えず殴り続け、少しずつだが魔王はアイオンから引き離される。
「貴公はどこまで私を喜ばせれば気がすむのだ!」
魔王は殴られながら大興奮だ。約束通り、攻撃も防御もしないでくれていた。
魔王の目的は100%の力を出した我々の攻撃が通用しないことを実感させることだ。
肉体強化の呪文も恐らくはあるだろう。しかし、それを使うほど野暮な男ではないことは今までの会話で十分にわかっていた。一歩、また一歩と魔王はアイオンから遠ざかっていく。
ラストのエネルギー弾を握った時、セドナが俺の背後をとり、後ろから乳首を抓った。俺の背中にセドナの項垂れたおでこが当たる。会話も念話も念のためできない。だが、背中におでこを当たることが、セドナとの別れの挨拶だということはわかった。
俺は息を深く吸った。悲しむな、苦しむな、迷うな。覚悟を決めろ、相沢守。自分に言い聞かせる。
俺は深くしゃがみ、アイオンに近づかない方向に飛び上がり、セドナとスイッチした。魔王の意識をアイオンに向けないためだ。
「お待ちかねの
「当然だ! 来い!」
わざとらしく煽ったが、高揚感で満たされた魔王はその誘いに乗ってくれた。
アイオンの方に俺が攻めても、それより早く移動できる自信もあるんだろう。
範囲を狭めた雷雲が立ち込める。魔王はそれを見上げ、笑い声をあげた。
雷の斧が魔王に直撃する。その瞬間、ほんの一瞬だが魔王の視界を全て雷撃で奪った。俺はアイオンの方に向かうため、着地と同時に足をかがめる。魔王は視界を取り戻すと、目の前でセドナが手を向けていた。
雷を多少食らっていたのか煙を上げて再生している。が、作戦は遂行される。
「【封印ノ儀】」
セドナの全身が発光し、魔王はその光に包まれる。ダメージはないが、身動きが取れていない様子だ。
俺は右腕をアイオンに伸ばし、その距離を縮めた。まるで時間が引き延ばされたように感じる世界で、自分に躊躇うな、躊躇うなと繰り返し言い聞かせる。
アイオンは全てを察して魔法杖を放棄し両手を広げ、キスをせがむときのように目を閉じた。
アイオンの左胸に、俺の右手の伸ばした指先が触れる。俺は接近の勢いを止めずにそのままアイオンの胸をえぐり、さらに心臓ごと___貫いた。俺の肩まで突き刺さった胸からは大量の血が溢れた。
「アイオン、すまない。必ず……幸せにする」
俺は泣いていた。アイオンは出血と痛みからガタガタと体を震わせながら、俺の肩に顔を寄せ声を絞り出す。口からゴポゴポと血を吐き出し、それが俺の顔にかかった。
「……私はもう……充実幸せです……守さん、愛して……います」
「俺も___」
視界の端でセドナの発光が縮小し、封印が終わりかけていた。このままだと、間に合わなくなってしまう。俺はアイオンに返事を返すことができないまま、反射的に左手の手刀でアイオンの首を狩っ切った。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
転がり落ちたアイオンの顔は幸せそうに笑っていた。その顔をみて俺は叫んだ。選択は間違えていない。だが、アイオンを切断した感触が残る自分の手を引き裂きたい衝動に襲われる。
その衝動をなんとか堪え、冷静に頭を回す。まだか、まだタイムリープは起きないのか。
死の判定が心臓の破壊でもなく、頭部と胴体との切断でもないとしたら、俺が取るべき行動は___
俺は一瞬だが、行動に移すことを躊躇ってしまった。アイオンの転がった頭を踏み潰すことを。
その瞬間にセドナが絶命し光を失った姿が視界の端でみえた。魔王はこちらに向かい、すでに右手を上げている。
振り上げる途中の足がアイオンを踏み潰す前に、魔王の攻撃は俺に着弾するだろう。
終わった。全部無駄だった。セドナとアイオンが拷問を受けたことも、今目の前で死んでいったことも。俺が判断を躊躇ったせいで___そう思った瞬間、魔王の右上空にワープホールのようなものが現れ、手が出てきた。魔王はそちらを見ると、笑ってその手を取っ____
「はあ……はあ……よかった、成功です」
第3部 完
☆☆☆
あとがき
最終話までのご愛読、誠にありがとうございます。君のためなら生きられる。です。
カクヨムコン参加のため、自身初の長期連載で不安がいっぱい、10万文字届かずに途中で放棄してしまうんじゃないかとフォロワー様が増える度に震えていましたが、なんとかキリのいい、アニメならここで一旦1クール終えるなと思える所まで書き切ることが出来ました。ラノベ一冊にあたる11万文字でもあります。
ここまで執筆を続けることが出来たのは、ひとえに読者の皆様のおかげであります。
日に日に増加する最新話のPVを見て、追っていただけてることを実感し、執筆意欲を頂いていました。この場を借りて、感謝申し上げます。ありがとうございました!
また、こちら新連載になります。よろしければ合わせてお楽しみ下さい!
今月中に10万文字目指して執筆中です。
推しのアイドルVtuberをキャリーするために最強になったダンジョンゲームが現実世界に現れたんだが、モテすぎて困ってます
https://kakuyomu.jp/works/16817330651469966249
最後になりますが、皆さまと共に過ごせたこの2ヶ月間は、自分にとって宝物になりました。
あとは一緒に読者選考の通過と、その先があることを一緒に祈っていて下さい!
重ね重ねになりますが、ご愛読本当にありがとうございました。
それでは、またどこかで。
著 君のためなら生きられる。
今世ではもう騙されな……凄いおっぱいと尻だ〜童貞おっさん、ハーレム無双出来るまでタイムリープして王になれ〜 君のためなら生きられる。 @konntesutoouboyou
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