第45話 再会と弔い
「勇者様……」
俺はセドナの声のする方へ向かった。罠かもしれない。数分であれば魔法で変装したアポカリプスは神域でも活動できていた。
一歩一歩慎重に向かう。念のため戦いの唄もかけた。
しかし、神域の入り口付近で倒れているセドナを見ると、さっきまでの警戒心など吹き飛んでしまいすぐに駆け寄った。
「セドナ! 大丈夫か!」
セドナを仰向けにさせ、後頭部を抱き抱えた。防具を着ていない。復元できなくなるまで攻撃を受けたのかもしれない。
「勇者様、ご無事で何よりです……魔力切れを起こしただけですので……ご安心を」
震える声でセドナは言った。一切の外傷はないが、それは再生の加護によるものだ。
「わかった。ちょっと移動するぞ」
俺はセドナをお姫様だっこで寝室まで運んだ。俺の魔力は食事、睡眠、胸を揉むで回復するが、一般的な回復手段が何かわからなかった。同じく休息で回復するといいのだが。
「ありがとうございます」
「気にするな。何があったか話してくれるか?」
セドナは寝室で横になり、俺はその隣に座り手を握った。セドナは今にも気を失いそうなほど疲弊している様子だが、声を振り絞って答えてくれた。
「はい。我々は魔王城がある渓谷付近で、襲撃を受けました。そこには四天王含む魔王軍全軍の総魔力量を超える者がいました」
「そいつが魔王ってわけか」
「いえ、魔王は老人の姿だと調査結果が出ています。恐らくは魔王の息子でしょう」
「なるほど、残りの四天王であるアポカリプスと魔王だけじゃなくて、規格外の強さを持った息子までいるってことか」
「そうです。勇者様、タイムリープ後の世界でも魔王の息子と戦ってはなりません。あれは正真正銘の化け物です」
あの気の強いセドナが、姿を思い出すだけで恐怖しているようだった。
「わかった、極力戦闘を避けるよ。アイオンは捕まっちゃったのか?」
「はい……私を逃すために、霧の呪文を唱えた後、アイオンは魔王の息子と対峙しました。私はアイオンが作ってくれた一瞬の隙でなんとか逃げ切ることができました」
俺がタイムリープしていないことが、アイオンがまだ生きている何よりの証拠だが、直接聞くまでは気が気じゃなかった。少しだけ安心する。
「なるほどな。とにかくセドナが無事で良かった。でも、なんでヴィーナスは殺したくせに、アイオンは生かされてるんだろう」
「勇者様を誘き出す罠にするためかと。神域での戦闘は魔王の息子といえど避けたいようです」
「俺をここから出すためか……」
「アイオンには爆破の魔法を予めかけてあります。今どんな拷問を受けていたとしても、残り16時間もすれば首が吹き飛びタイムリープがおきます」
「なんだって? 誰がやったんだそんなこと!」
「私がアイオンの指示でやりました」
「……」
俺は言葉が出なかった。ここまで非情で過酷だとは思っても見なかった。だが、その選択肢がまさしく保険として効いているのだ。
「時を待ちましょう」
時を待つ。今どんな目にあっているかわからないアイオンをよそに、首が飛ぶまでここでただ眠っていることが最善策だという意味だ。
「……わかった」
俺は飲み込むしかなかった。同じ世界だとしても、今回救えなかったという感情はきっと残る。アイオンもこんな日々を過ごしていたのだろうか。
○
魔王城。水浴び場で魔王はアポカリプスに体を流されている。ノックと共に、部下から報告が入った。
「本当に神域で過ごしているとは。驚きだ」
偵察に行かせた魔物から、セドナと勇者が再会したことが確認された。
魔王はあえてセドナを泳がせていた。勇者を匿っているところへ帰るだろうと考えたからだ。
しかし、そんな必要はそもそもなかったようだ。勇者は神域で待機していた。偽物の可能性もあったが、セドナが帰った時点で、ほぼ確定でいいだろう。違ったとしても他に読む手立てがない。
問題は、なぜそうしているか、だ。
どう考えても得策ではない。ベルゼブブとベルフェゴールを倒せるだけの戦闘力があるなら、戦闘に参加した方がいいだろう。魔王の戦闘力は把握されていなかったはず。
となると、もっとも考えられるのは、時間稼ぎだ。ヴィーナスを殺したところ、女神2柱は攻め込んできた。復讐のために動くほど愚かな連中ではない。さらに勇者が戦闘に参加してないことを考えると、答えはある程度まで導き出される。
特定の時間が経過した状態で、勇者が生存していないとタイムリープが起きない。
「ベルフェゴールが居てくれれば、残りのピースも見えたかもしれんな」
魔王は呟いた。アポカリプスは何も言わずに、体を流し続ける。
四天王を吸収するたびに、与えていた人格の部分も取り戻していくようだ。
もはや勇者と神域で戦闘をするのが得策だろうか。いや、三体を再吸収しているとはいえ、神域での戦闘は不利すぎる。そこに誘き出すための女神側の罠の可能性もある。
やはり勇者を誘き出すしかない。
「アポカリプス」
「はい、魔王様」
体を流すだけで欲情しきっているアポカリプスを一瞥する。その冷めた視線が、アポカリプスには褒美に等しい快楽だった。
「勇者を誘き出す。アイオンを磔にして、火炙りの準備を。勇者がくるまで殺さずに再生魔法を繰り返す。ヒーラーの手配もだ」
「畏まりました」
アポカリプスは笑みを抑えられずにいると、魔王は察して言葉を紡いだ。
「ベルフェゴールの弔いとして、女神アイオンの絶叫を捧げよう」
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