第46話 エッチの最大化
「勇者よ。聞こえているか」
上空から、突然声が聞こえてきた。セドナの方を見ると、恐怖に固まっているようだ。
「誰だ! どこにいるんだ」
「私は魔王サタン。部下を使い音声を伝達している」
空襲のサイレンのように空間一体に響いている、冷めた不快な声。こいつが魔王か。
「これより女神アイオンを
「お、おい! 何いってんだ!」
「以上だ。では、帳の渓谷で待つ」
「まて、話はまだ」
ッブ、という断線したような音と共に、一方的に魔王との交信は途絶えた。
「ふざけるな!」
俺は両手を振り下ろし、叫んだ。
「我々が戦闘した者と同じ声でした。ということは、息子と思われていた者は魔王サタン本人。そしてこれは完全に罠」
セドナは淡々と答えた。きっと俺を冷静にさせるためだ。だが俺のヒートアップは止まらなかった。
「わかってる! だけど、これじゃアイオンがあんまりじゃないか」
「アイオンも助けに来ることは望んでいません。むしろ、来てしまうんじゃないかと心配していることでしょう」
「クソ、俺が魔王の偵察に行こうなんていわずにいれば」
「いえ、勇者様に魔王と絶対に戦闘してはいけない情報を伝えられただけでも十分な戦果です」
「ああああ!」
俺はどうしても居た堪れなくなり、立ち上がった。その俺の腕をセドナがつかんだ。弱り切っている。簡単に振りほどけそうだったが、振り返り彼女の真剣な目を見ると、それは失礼に値すると思い出来なかった。
「神域から出ないでください」
「……無理だ、俺には耐えられない」
「行ってもアイオンは助けられず、勇者様も死に、タイムリープが失敗するだけです」
「わかってる! だけど」
「わかっていません!」
セドナはもう片方の腕で体を起こした。それだけで息切れを起こしている。
「……どうしてもアイオンを助けに行くというのなら、私の首を跳ねてから行きなさい」
セドナの表情は苦痛に溢れていた。その顔を見て、自分の行動と言動を後悔した。
俺は今セドナに何を言わせたんだ。
一番助けに行きたいのはセドナだ。
戦闘で囮にして置いてきて罪悪感に潰されそうなのはセドナだ。
再生の加護から精神が喪失するまで続く拷問を受け、その恐ろしさが一番わかっているのはセドナだ。
俺は本当に何もわかっていない、感情的な大馬鹿だ。
「……水を取ってくる」
「勇者様!」
セドナはさらに声を上げた。
「嘘じゃない。離してくれ」
「……わかりました」
セドナに掴まれていた腕が離される。
俺はキッチンに行き、コップにアイオンが溜めてくれていた水を入れ、一気に飲んだ。ここで毎日色々と料理を作ってくれていたことを思い出す。俺と出会って、アイオンは幸せだったのだろうか。もう一度水を入れ、セドナの元に戻った。
「さっきは……すまなかった」
俺はセドナにコップを差し出す。セドナは受け取らずに天井を見つめている。
「嘘をついて向かったのかと。私はもう立ち上がれません。正論でも覚悟でも伝わらないならと、諦めていました」
天井を見つめたままセドナは言った。俺は水を置き、ベッドに腰掛ける。
「そんなことはしない。セドナも俺の大切な人なんだ。勝手にどこかに行ったりしないよ」
俺はセドナの手を握った。セドナは小さく握り返してきた。
「セドナが一番辛いのに、俺は最低だった」
セドナは返事をしない。代わりに、ずっと堪えていたであろう涙を浮かべた。
「言いたくないことを言わせてしまった」
そこまで言うと、セドナは俺にしがみついた。
継続して力は入らず、俺の太もも付近に雪崩れてしまう。そのまま声を上げて泣き続けた。
助けてと頼ることも出来ない。俺に頼っても無駄だからだ。俺は自分の無力さに嘆いた。涙が出そうになること自体許せなかった。俺に泣く権利なんてない。
セドナが少し落ち着いたところで、俺は体を起こしてやり、水を渡した。静かに受け取りコクコクと飲んだ。
「助けに行きたいですね」
セドナは言った。心からの本心だった。そうさっき伝えていたら、俺が本当に行ってしまうから、その言葉とは真逆のことを言わなくてはならなかった。
「そうだな。考えるだけで心が張り裂けそうだ」
「勇者様がいてくれてよかった。私一人だったら、耐えられません」
「俺もだ。セドナが止めてくれなかったら、皆を無駄死にさせるところだった」
気持ちを共有できると、冷静になってきた。と同時に疑問がわいてきた。本当に何も打つ手はないのだろうか。ただここで拷問にあうアイオンの首が爆散するのを待つ以外に。
まてよ。渓谷で磔にあっているということは___
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