第三部 魔王降臨
第39話 何度目の後悔
ヴィーナスちゃん、どんな子だろう。こんな優しい姉二人がいる末っ子とか、メスガキかな。メスガキだといいな。童貞いじりでわからされたい。
「おお! セドナ、似合ってるぞ」
宝物庫から愛用の武器と専用防具を装着したセドナがアイオンと共に帰って来た。
俺の装備が大剣と弓になのに対して、セドナは剣士のフルアーマーにロングソードだ。顔も覆われているため、敵として対峙していたら俺はチビって逃げるほどの迫力がある。
「ありがとうございます。アイオンも。まさか回収してくれてるなんて」
セドナはもう一度本領発揮した上で戦闘できることが嬉しそうだ。しかしアイオンは何やら気まずそうに答える。
「捨てられてたんです。魔城の近くに」
「なんだと……ふん! その油断、後悔させてやる」
RPGでもなんでも、なぜ敵の魔族はこちらに対して油断しているのだろう。
一番強い武器が城の中にあったり、ボス戦の前にわざわざ回復スポットとセーブスポットあったりするからな。なめてるのだろうか。それともそれだけ余裕があるのだろうか。
「勇者様の武器はアイオンが選んだの?」
「いえ、守さんがご自身で選びました」
「流石勇者様です。先王と先王妃の武器を身に着けるとは」
なんだって?! やばい、お義母様の矢筒の中に相棒入れちゃった。
「アイオンとセドナの両親の武器だったんだな。知らなかったよ」
「形見でもありますからね、大事に使ってくださいね」
アイオンにくぎを刺された。やっぱり覚えてますよね。
「はい、それはもう」
遺憾の意だろう。謝罪の謝。
「では参りましょうか」
セドナは言った。
「そうだな。魔王も今日やっちまおう」
俺も言った。能天気にもほどがあった。
この日のことを、俺は後悔することになる。
「はい! ヴィーナスが待って___」
言葉の途中。アイオンとセドナが、二人同時に突然倒れた。
「アイオン! セドナ!」
倒れた二人のもとに駆け寄る。息はしているが、胸をおさえてかなり苦しんでいる様子だ。
呼吸は浅く短く、過呼吸のように喘いでいた。
なんだ? まさか敵襲が? あたりを見渡すが敵の姿は一切ない。
ひとまず寝室に二人を運ぶ。セドナの防具も脱がせた。防具の中には勿論服を着ているのでやましい気持ちはない。
入念に神域外も見回ってきたが、敵の気配はなかった。
寝室に戻るとアイオンはベッドの上で膝を抱えうつむいていた。
対照的にセドナは絶叫している。
「あ、あり得ない! ならなぜ私たちを今まで生かして……供物として必要なんじゃないのか? 答えろ!! サタン!!」
俺は暴れているセドナを抑える。
「どうした、何があった。とりあえず落ち着けって」
「ヴィーナスが……亡くなりました」
アイオンが呟くように言った。
は?
……幽閉してるってことは殺しちゃいけない理由があるんだろ?
なのになぜだ!
しかし、セドナの言葉を思い出し、同じ疑問だと気づく。
つまりわからない、ってことか。
「そんな……。間違いないのか。女神の共有感覚をダマす魔法があるとか」
「ありません。この力は魔法ではなく、初めから在るものです」
セドナもその場にしゃがみこんでしまう。
「……。すまない、俺のせいだ。昨日の晩に無理にでも行っていれば」
「いいえ……私が精神崩壊していなければ。私がヴィーナスを殺したもどうぜ」
「二人とも辞めてください!」
アイオンはセドナの言葉を遮るために、大声を出した。
「ヴィーナス救出にはアポカリプスだけでなく、魔王とその軍全てが待ち構えている可能性が高いです。戦闘で疲れ切った守さんと、精神喪失のダメージがどこまで残っているのか解らないお姉さまを連れて、寝ずに戦うなど在り得ません。タイムリープできたとしてもその選択肢はとりません。それに人質かつ魔王にとっても必要なはずのヴィーナスが殺されることは完全に予想外でした」
ポツリポツリと言葉を漏らす。冷静なフリをしてアイオンは話した。
セドナは何も言わずに震えていた。
そうか。
ここまでなのか。
このタイムリープで終わらせてやりたかった。
アイオンはきっとこれから、何らかの方法で命を絶ち、もう一度勇者召喚の前に戻るんだろう。
そして俺はアイオンに扮したアポカリプスに鼻の下を伸ばすところから始まる。
アイオンのことを全て忘れた俺と今回の教訓を活かしながら、俺のモチベーションと機嫌を損なわないように、自分の重圧や寂しさは押し殺して___
「クソ!!!!!!!」
ガキみたいに叫んだ。何かないのか、今の俺にできることは。なんでもいい、次のアイオンに繋げられる情報や、ヒントだけでも。
「アイオン、タイムリープするんだろ? ちょっとだけ待ってくれないか。どうせ時間が戻るなら、俺に魔王に特攻させてくれ。どれくらいの強さなのかとか、弱点がなんなのかとか、役立つ情報を一つでもアイオンに渡したい。それから時間が戻ったらクソ野郎の俺に、ぶん殴ってでもすぐにセドナとヴィーナスを助けに行くように言ってくれ!」
俺は絶望するアイオンの肩を掴みまくし立てた。NOと言わせないために、俺を気遣わせないように。
だが、アイオンの返答は、想定より遥かに最悪だった。
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