第38話 終わりの始まり

「拝聴致します」


「もし私が戦死した場合、とらえている女神ヴィーナスを殺せ、とのことだ」


「し、しかしそれは!」


 アポカリプスは驚愕した。それは魔王の悲願を一度諦めさせることになるからだ。


「私は、ベルフェゴールほど賢くはない」


「とんでもありません! そのようなことは」


「事実である。よいのだ、そうなるように作った。人類の創造神からの使徒を打ち砕くには、私では爪が甘いと考え、生み出したのがベルフェゴールだ」


「……」


アポカリプスは否定も肯定もできず、押し黙る。それをみて魔王は言葉をつづけた。


「女神と勇者を生贄に捧げ、我らの創造神との謁見を賜りたかったが仕方ない。分かったうえでベルフェゴールは遺したのだ。みよ、キューブに刻まれたループの回数を。10だ。これは本来であれば10度悲願を成功間際まで達成していることを意味する」


魔王は魔族に代々伝わる、魔族の創造神から賜ったとされる秘宝を取り出した。なんの変哲もない、ただの石だったこの正方形のキューブは、気付くと数字を刻んでいた。


「おっしゃる通りでございます。ですが」


 魔王はアポカリプスの言葉を遮る。


「このまま侵攻を続けても、伝承の通りであれば女神と勇者が我々の手元に揃う前に、女神は時間逆行をおこす。我々の記憶と経験はなくなり、女神は勇者召喚の直前に戻るだろう。そして私は突然刻まれた11の数字を発見し、女神アイオンの元へお前を遣わし、召喚を命ずる。これを繰り返すということだ。なぜ、圧倒的に有利であるはずの我々がここまで追い詰められていると思う?」


「ループの中で得られる経験を元に、徐々に攻略されているから、にございます」


「その通りだ。つまり、このループを止めない限り我々に勝ち目はない。生きたまま女神と勇者を贄とするにはな。滅ぼすのは簡単だ。それでは意味がない」


「女神を殺せ、というベルフェゴールの遺言は……」


「タイムリープを行うのに必要な条件に三女神の生存が必要である可能性が高い、と記されている」


「なるほど……ほかに可能性はないのでしょうか」


「あるやもしれん。が、我々が思いつくそれはベルフェゴールの知恵と判断をこえることはない」


「……」


「もしこの判断が間違いで、タイムリープを阻害できなかったとしても、ヴィーナスが死んだのならアイオンはタイムリープを発動する可能性が高い。時間が戻った世界で、この世界の経験を経たことによる女神の行動の変化から、またベルフェゴールが何らかの最適解を導いてくれるはずだ」


「私が不甲斐ないばかりに、申し訳ございません」


「お前は私自身でもある。そう否定するでない」


「ありがたきお言葉」


「創造神への供物を1000年後に見送ったとしても、ループを断ち切るためにはまず女神を殺すことから試す必要がある。そう私より賢いベルフェゴールが判断したのだ。私はそれに従うしかない。すぐにはベルフェゴールのような眷属は生み出せない。時間との勝負なのだ。わざと残している人類を飼育すれば、また必ず女神の加護を得た人間と、勇者が訪れるだろう」


「はっ。すべては御心のままに」


「では即刻ヴィーナスの処刑を行う。案内せよ」


「畏まりました! ……魔王様、女神ヴィーナスの始末、私にお任せいただけないでしょうか」


「ならん。ベルフェゴールの弔いにいたぶるつもりだろう」


「申し訳……ございません」


 アポカリプスの謝罪の言葉には憤りのニュアンスが含まれていた。この手で復讐してやりたい。女神一族と勇者を嬲りたい。その感情を押し殺しきれなかった。魔王はその変化を見逃さなかった。


「アポカリプス」


「はっ」


しばらくの沈黙が続く。魔王の放つプレッシャーに、部下のサキュバス達が数名気絶し倒れ込んでしまう。


「お前が私の言葉に納得しなかったのはこれが初めてだな」


 魔王は張り詰めた空気をとき、小さく笑った。


「返す言葉もございません! ただちに自死し、今一度忠誠を誓う許可を!」


 アポカリプスは魔王の微笑みに恐怖した。しかし、魔王の真意は、子を思うものに近かった。自ら生み出した眷属たち。けして裏切ることはないが、どこか退屈だった。子らが絆を持ち思い合い、報復したいと思う気持ちが魔王への忠誠より瞬間的に勝ったことが、嬉しかったのだ。


「よい。アイオンがループする前に、即刻女神を私の前で処刑しろ」


     ☆☆☆

 いつもご愛読ありがとうございます。君のためなら生きられる。です。

 これにて第二部完となります。やっとヒロインが増えてまいりました。遅すぎますよね、他のランキング上位の作品を勉強して驚きました。10話行く頃にはもうハーレムが出来てました……反省。需要に供給したい。


 そしてそして! 

 皆様の読者フォローとご愛読のおかげさまで、カクヨムコンランキングで上位に進めております。本当にありがとうございます!


 お楽しみいただけた方、少しでも続きが気になると思っていただけた方いらっしゃいましたら、星を賜れると幸いです。

 読者選考が通るか否かを決議する権利があるのは、今読んでいただいている読者の皆様他なりません。


 フォローと星レビューはこちらから↓

 https://kakuyomu.jp/works/16817330649446361153


 次話から第三部にはいります。

 激しいぶつかり合いと、この世界の成り立ち、戦う意義への葛藤、下ネタがてんこ盛り沢山の第三部です。是非続きもお楽しみくださいませ。


 著 君のためなら生きられる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る