第37話 最後の朝
「妹の名前初めて聞いたよ! それにアイオンはいいのか、3人も嫁がいて」
「私は家族みんなで一緒に過ごしたいので、守さんが嫌じゃなければ是非」
どうみても本心で言っている顔だ。アイオンは本当に顔に感情がよく出る。
「アイオン……」
セドナが愛おしそうにアイオンの名前を呼んだ。
そうか、二人が再会の時に泣いていた理由は、久々に会えた事が嬉しかったという、単純なものじゃない。
セドナは、自分が助かる時にはアイオンは死んでいると思っていたんだ。
セドナより戦闘力の低いアイオンが単独でセドナを助けられる可能性は極めて低い。自分が助かるとしたら、アイオンの命を賭した勇者契約後だと思っていたはず。
精神喪失していたため女神の共感能力で生存を確認できていない。
地下で拷問を受けながら幽閉され、妹の死が共有されるのを待つ苦痛は想像を絶する。その中で精神喪失が回復したら、まず初めに姉として心配するのはアイオンのことだろう。
召喚した勇者と共に、契約せずに助けに来るなんてルートは想像もしていなかったはず。
だからこそ、家族揃って過ごしたいというのは、アイオンの何よりの本心だ。
願うことすら許されなかった奇跡だ。
そして、その奇跡を生み出し、姉妹を助けている俺を二人が好いてくれることにも合点がいった。
「なるほどな」
俺もアイオンをみて、笑った。
「なんですか?」
「なんでもないよ」
「変な守さん」
「そういえばアイオンって何歳なんだ?」
「守さんよりかは遥かに年上かと」
うんうん。続きは聞かないことにしよう、女神は顔も体も大分若く見えるみたいだ。
「私が121歳で、セドナお姉様は168歳、でしたっけ?」
「忘れちゃったわ、年齢なんて」
思ってたより10倍近くお年をめしていらっしゃる!
いや、半端に45歳とか言われたほうがリアルだったな。女神は若い姿で長生きらしい。素晴らしいことじゃないか。
アイオンは16〜18の女子高生、セドナは21〜23の女子大生から新卒あたりに見えてる。それでいい。それでいいんだ。俺の相棒もそれでいいとピクついた。心の玉○浩二も田園を奏で石ころを蹴飛ばした。
「さて、飯も食い終わったし、HPもMPも気力も満タンだ! 昨日の今日だが後悔したくない。ヴィーナスちゃん助けに行こう」
「「はい!」」
○
「ヴィーナス、あんた強情だねえ。感度30倍にまで上げてるのに」
アポカリプスは女神ヴィーナスに快楽地獄をかけていた。縛り上げられ、媚薬効果のある粘液を吐き出す触手がヴィーナスを襲い続ける。
「っん……ふぅっ……」
ヴィーナスは自らに精神回復魔法をかけ続け、正気を保っている。
返事をする余裕はないが、派手に嬌声をあげたり、意識を失うこともなかった。
全ては、二人の姉がまだ生きていることを女神の力で理解していたからだ。これだけの時が経ってもその状態にあるということは、想定外の何かが起きているということ。
良いか悪いかどちらかはわからない。ただ二人は抗い続けているに違いないことだけはわかっていた。
それに、仮に勇者契約に失敗していたとしたら、女神3人が生きていなくてはならない理由がもう一つあった。
「まあでも時間の問題ね。あんたの姉さん、ベルフェゴールが壊しちゃったみたいだし」
「んん?!」
そんなバカな。いや、セドナ姉様の加護は再生。もしかすると肉体が傷つけられて、心が死んでしまったとしたら?
ヴィーナスの心がブレそうになる。
いや、罠だ。そういって揺さぶっているだけだ。
「信じてないか。まあいいわ、感度50倍に変更。あんた性的耐久力が強すぎ」
「んんっ……んんん!」
アポカリプスは扉を閉めた。まさかここまで耐えるとは、完全に想定の範囲外だった。
「アポカリプスさま! 至急お伝えしたいことが」
扉の外で側近のサキュバスが膝をついて待機していた。
「なによもう。私これからベルフェゴールのところに戻らないといけないのに」
「魔王様が10分後にいらっしゃると連絡がありました」
「はぁ!? なんでそれを早く言わないのよ!! 匂い落して、メイク直して、あー!」
アポカリプスが身だしなみを整えるに必死な最中、魔城の部下たちは魔王を歓待する準備に勤しんでいた。
数刻後、魔王が到着する。サキュバスたちは2列に並び、正面をあけ頭を下げる。
アポカリプスも正面ややサイドで膝をつき、魔王を出迎える。
「顔をあげよ」
「はっ。魔王様ぁ、呼んでくだされば私がすぐにで……も」
アポカリプスは魔王の姿を目にし、言葉を失った。
若返っていたのだ。
それはつまり、ベルフェゴールが死亡し、魔王に還ったことを意味する。
四天王。魔王が力を分け与え直接生み出した魔族の貴族。特に同時に産み落とされたベルフェゴールとアポカリプスは、同期というだけでなく、いわば血を分けた双子の兄妹だった。
許さない。
女神も勇者も、早く地獄に落としてくれと懇願するような苦しみを与えてやる。
アポカリプスは生まれて初めて、悲しみと怒りと追悼と寂しさが混ざった感情を味わい、声をあげずに涙をこぼした。
「ベルフェゴールからの遺言がある」
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