第10話 見える乳首

 鎧をずっと着ているのが重くて嫌だったので脱いだ。 

 全裸だ。早く服が欲しい。

 ゴブリンとの戦闘で痛みを感じたせいか、一気に現実感が襲ってきた。

 なんで俺は知らない世界を救うために努力して痛い思いまでしなくちゃならないのだ!


 怒りと悲しみに震えているとアイオンが後ろから抱きしめてきた。


 かなり力強く抱きしめられているため、逆に柔らかさを常時堪能することできないが、アイオンのなんとも言えない甘い匂いが、戦闘で興奮した俺の交感神経を副交感神経にスイッチさせた。


「守さん、ごめんなさい。初めての戦闘、怖かったですよね。私、急いでレベル上げなきゃって早まって、守さんの気持ち全然考えられてませんでした」


 俺は何も言えなかった。


「もう、嫌になっちゃいましたか?」


「……お腹すいた。食事にしよう」


 これ以上話をしたら、俺は正直にもう嫌だと話してしまいそうだ。

 そうしたら女神はきっと了承する。

 それは、なんだか嫌だ。



 女神が作ってくれた食事を堪能した。外の世界をみて素材不足から大した食事は期待していなかったが、お世辞抜きに絶品だった。しかし、それでも俺の気持ちは晴れなかった。


 さっきまでおっぱいだ、なんだと浮かれていたのが馬鹿みたいだ。 

 これから俺は、危険な戦闘を何度も何度も行わないといけない。

 前までの俺なら、こんな可愛い子に支えられながら、美味しい手作り料理まで食べられて最高だと思っているところだ。 

 だが、それは想像力が足りなかったに過ぎない。


 本気の殺意を向けてくるモンスターと、嘔吐するほどの痛みを受けながら戦闘する恐怖。

 それが当然である価値観の世界。

 命を奪った感覚。 

 特にゴブリンは人型だ、まるで殺人でもしたような罪悪感もある。


「ごちそうさま、美味しかったよ。少し寝たいんだが、布団とかあるか?」


「あの!」


 やめろ、言うな。


「後にしてくれないか、疲れてる」


 何を言い出すかはわかりきってる。

 でもその言葉は、どうしても聴きたくなかった。

 一度1人になって休みたい。

 そうすればまた、気持ちも前向きに変わるかもしれない。 

 しかし女神はそんな俺の気持ちを無視して、続けた。 


「やっぱり、私1人で戦うので大丈夫です。こう見えても私、強いんですよ」


 首を少しだけ横に傾けた、悲しい笑顔だった。

 1人で戦うと勝てないから、勇者召喚をしてるんだろ。 

 タイムリープでやり直しがかかる条件は、恐らく死だ。勇者がアポカリプスの手に落ちた世界しかアイオンは経験していないと言っていた。

 生存者の防衛で、戦力は割かれているため、一緒に戦える戦闘員はおそらく居ない。

 つまり、すでに9回は1人で戦い、1人で死んでいったことになる。

 自分の命を投げ売ってでも、世界と姉妹を救いたい。勇者召喚に成功しても、アイオンはすぐに自らの命を犠牲にし、俺を強化しようとした。

 もう頑張ることに疲れていたのかもしれない。死が救済と思えるほどに。 


 だが、俺は大丈夫だ、の一言がどうしても言えなかった。アイオンの立場や気持ちを、これだけ考えられた上でも、俺の恐怖は拭えない。情けなくてたまらなかった。

 だが所詮俺は、童貞のまま死んだ38歳のおっさんだ。環境が変わっても、中身は結局変わらなかったんだ。

黙り続ける俺にアイオンは見かねて口を開く。


「怖い思いさせてすみませんでした。守さんはここで、私の無事を祈っていてください」


 そういい、深く頭を下げる。

 あまりにも深く下げたため、たわわに実ったマスクメロンは大きく揺れ、服の間をすり抜け、ピンク色の乳首が露出した。 


 乳首!!!!

 乳首だ!!!!!

 乳首が見えた!!!!

 乳首が見えた!!!!


 透けてる服越しには薄らと見えていたが、直接見えたのは初めてだ!

 俺の心はクララが立った時のハイジのように踊った。

 ヨーロヨーロレッイッヒー! 

 服越しに透けて見えるのも良かったけど、やっぱり生に限るなー!最高だ!

 あれ?さっきもそんなこと思ったっけ?まあ良いやそんなことは乳首の前では無意味!

 さっきまで心につっかえていたものが全て取れ、饒舌に想いが溢れ出した。


「俺なら大丈夫だ」 


「守さん…嘘つかないで下さい、これ以上迷惑をかけるわけには」


 俺は話を遮り、距離を詰める。


「嘘ついてるのはアイオンだ。1人じゃ勝てない。もう10回それは試したんだろ?」


「そ、それは!……でもだからって、無関係な守さんをこれ以上巻き込むわけには」


 俺はアイオンの肩を掴み、キスでうるさい口を乱暴に塞いだ。

 彼女は驚き肩を硬直させたが、次第に力は抜け、目を閉じ体を委ねてきた。

 ゆっくりと唇を離し、目を見て伝える。


「アイオンを1人にはさせない。さっきははじめての戦闘に驚いただけだ。必ず強くなって、世界と、アイオンの家族を救ってみせる。失望させてすまなかった」


「守さん…私、頼っていいんですか」


 孤独を癒し、絶望を希望に変え、安心を与えた。

 今なら、言える。


「ああ。それと約束のおっぱいを揉ませてくれ」

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