第9話 1ダメージの重み

「早速レッサーゴブリン発見です!」


 アイオンが体ごと屈折させ、指をさした。現場猫かお前は。


 ゴブリンは1体。

 体長140cm強、木の棍棒を持ち、体は細いが筋肉は発達し、腰にボロ布を巻いている。


 腰にボロ布を巻いている。 


「おい! ゴブリンだって腰にボロ布身につけてるぞ!」


 あたしゃ恥ずかしくてしょうがないよ。

 心のさくらももこが、俺に恥を知らせる。


「大丈夫です、知能で負けても力では負けません!」


「俺はアホだから下半身を露出しているんじゃない! アイオンが準備してなかったからじゃないか!」


 テヘペロっと舌を出し、自らの頭をこづく。

 アイオン…可愛くなかったらぶっ飛ばしてるところだ。可愛いは正義。はっきりわかんだね。


「キキィ!」


 しまった!戦闘中だということを忘れていた。

 レッサーゴブリンの声に振り向くと、棍棒を構えこちらに向かって走っていた。


 まずい、このままだと一撃頂いてしまう。

 戦闘技能がチートとして与えられているわけではないため、恐らくもう回避することは不可能だ。

 ここは大人しく1ダメージ貰いつつ、聖剣で倒そう。


 俺は聖剣を抜刀しようと、柄に手を添えた。

 ゴブリンが大地を蹴り、砂煙を浴びながら真横に棍棒を振り抜く。

 抜刀すらできないまま、防具の左肩あたりに俺の頭より太い棍棒が激突した。


「ぎゃぁぁぁあああああああああ」


 いってえええええええええ!!!

 なんだこれ痛すぎワロタァ!!!!

 もしかして1ダメージって、体力で割るところの、22回くらったら死ぬ程度のダメージってことか?ヤバすぎる。


 脇腹を抑え倒れる俺に、容赦なくレッサーゴブリンはもう一度さよならホームランを打ちこむ。


「おごぉおお」


 露出されたお尻に衝撃が走り、情けない姿勢のまま吹っ飛ばされた。なるほど、たしかにむき出しの尻にぶつかっても同じ程度の痛みだ。


「何してるんですかー守さん、遊んでないで倒してくださーい」


 遠くでアイオンが手でメガホンを作って大声を出している。


「これが遊んでるように見えるか?!」


 マジギレである。


「そ、そうとしか見えません」


 そうですか、そうですか。

 レッサーゴブリン程度はこの世界では雑魚なんですねわかりましたよ。 

 俺は未だ鈍痛の響く脇腹をおさえながら、なんとか立ち上がる。


 吹っ飛ばされたことで距離が取れた。

 逆にチャンスだ。


「抜刀 エクスカリバー!」


 一度言ってみたかったんだよね。 

 聖なる光を帯びた大剣は、その重量を両腕に伝えた。ゴブリンに切先を向ける。さっきはよくもやってくれたな。


「うおお!」


 走る! 大きく振りかぶり聖剣を振り下ろす準備をした。

 しかし、それ故ガラ空きになった俺の脇腹に、達人が隙を指導するがごとくゴブリンの棍棒が振り抜かれてしまう。


「ぐっっはああ」


 俺はまた吹っ飛ばされ、さらに嘔吐した。

 体の痛みで頭痛がしてくる。

 普通に体調不良です早退していいですか?


「凄い……エクスカリバーと女神の寵愛を装備した上で、レッサーゴブリンにおされてる」


 不名誉な感想を、どうもありがとうございます!


 このままじゃダメだ、本当に殺される。

 今ってチュートリアルだよね?ダークソ○ルより難易度高いんだが。

 もう帰りたい、地球の平和が恋しい。


 エクスカリバーは重すぎて、振る前に反撃されてしまう。ステータスを見た時、魔法は何も覚えてなかった。

 落ち着け、何かヒントが……

 そうだ、ステータスを見た時、俺はエクスカリバーを攻撃力に補正がかかっていた。 

 女神の寵愛が防具を身に付けていない下半身の防御力も上げていたことから推察すると、恐らく俺自身の攻撃力があの数値なはず。 


 俺は襲い来るゴブリンの棍棒をエクスカリバーを盾にして防ぐ。 

 大剣を振り回すことは出来ずとも、身を守るために持つことくらいは今の俺でも出来た。 

 棍棒はエクスカリバーに弾かれ、ゴブリンの体がのけぞる。


 今だ! 


 俺は小学生の時に一度だけした殴り合いの喧嘩で学習した、本気の猫パンチを繰り出した。拳がゴブリンの体に当たったかと思うと、手応えすらなく一瞬で弾けていった。

 死体は残ることなく、塵になって消えていった。

 頭の中でファンファーレのような音が鳴り響く。


「はあ…はあ…やったのか」


 自らの拳を見つめる。

 俺は今、命のやりとりをしたのだ。 


「おめでとうございます! 初勝利ですね」


 アイオンがニコニコと近づき言った。

 まったく心配等はしていないようだった。

 こいつ…!と思ったが、まあそうか。

 怪我してもヒールすればいいと思っているんだろう。

 危険を感じる線引きが俺の元いた世界とはだいぶ違うことを実感する。


「ああ。なんとかな。あと、頭の中でファンファーレが鳴った気がしたんだが」


「レベルアップですね! ステータスを見てみましょう」


「おお! レベルアップ! わかりやすくていいな、どれどれ」


 少しテンションが上がった。

 俺は自分のステータスを意識する。

 脳内に情報が開示された。


 相沢守 level 4

 体力 38

 魔力 14

 攻撃 17+621

 防御 12+489



 装備 聖鎧 女神の寵愛 rankMAX

   聖大剣 エクスカリバー rankMAX


 魔法 なし


 特殊能力 勇者の器 女運+∞


「3レベル一気に上がってる。各ステータスも上がっているけど、魔法とかは何も覚えてないな」


 体力の上昇がこの上なく嬉しい。

 寿命がのびた気分だ、1/38になれば1ダメージあたりの痛みも大分減るだろう。


「すごい! さすがレッサーゴブリン亜種ですね、レベル上げもスイスイです」


 親指を立てアイオンは笑った。

 おいおい、聞き捨てならないぞ。


「亜種? 結構強いのか?」


「いや、弱いですよ。今の守さんのステータスから考えるとメチャ弱です」


 なるほど、神殿の天井を破壊できる魔力を持ち、回復魔法も使えるアイオンは、俺を甘やかす気はないらしい。


「戦闘経験がないんだ、場数を踏みたい。もっと弱い敵はいないのか」


「レッサーゴブリンがここらに出る敵の中では一番弱いですね」


 先が思いやられる。俺はため息をつき、うなだれた。 


「と、とにかく! 初勝利おめでとうございます! 神域に戻って少し休みましょう、あの中にいれば安全ですので」


 さあさあと手を引かれ、神域に戻った。

 俺の精神力ゲージがゴリゴリと削れていることに女神は気づいたようだ。

 床に座り込む。召喚陣の中央に戻ったらまた元の世界に戻るとかはないらしい。

 まあ戻っても俺は墓の中で骨になってるか。

 隣でちょこんと座っていたアイオンはナーバスになっている俺をみかねて厨房に向かった。


「初勝利のお祝いに食事にしましょう! 待っててください」

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