第6話 葉っぱ一枚すらもない

「っは!」


 目覚めると俺はアイオンに膝枕をされていた。

 おかしい、世界を救い終わって凱旋中だったはず。

 まさか、タイムリープ?!


「よかった! すみません、気絶されたときはどうしようかと」


 アイオンが顔のぞき込み俺の頬を撫でた。


「ここはどこだ、世界を救ったはずなのに」


「いえ、まだ胸を揉んだだけです……私のビンタで気絶するようじゃ、魔物とは戦えません。やはりここは運命に従い私の命を犠牲に契約を」


「くどい。その選択肢はない」


 絶景だ。アイオンに膝枕されながら、その2つの膨らみ越しに、完璧に整った美形を眺める。視界の全てが美しさであふれていた。

 この景色、世界遺産登録した方がいい。

 誰がみすみす死なせるものか。


「守さん……」


 アイオンは、仕方ないな、とでも思っているのだろうか。

 緊張が弛緩し、表情が柔らかくなった。

 俺は太ももスベスベでやわらかいなと思った。


「気絶なんてしていない。寝ていただけだ」


「あら、よくお眠りになること」


 俺の本気の強がりを勝手にギャグと受け取り、アイオンはほほ笑んだ。

 待て待て、どんだけ可愛いんだ?この至近距離で俺に向けられた笑顔。

 とんでもない破壊力だ。


「いいかよく聞け。俺の元居た世界の話だ。ボクシングといってな、殴り合う競技があった。そこで、50戦無敗、5階級制覇をした伝説のプロボクサー、フロイド・メイウェザー・ジュニアという男がいる。彼がなぜそこまで強かったか。それは圧倒的な破壊力を持ったパンチが導いた結果ではない。答えは徹底したガードと完璧なスウェーだった。ディフェンスが大切なんだ。どれだけ屈強な男でも、油断した顎先に一撃をもらい脳震盪を起こせば、倒れるのが必然だ」


 俺は早口で言い訳した。


「つまり?」


「防御とHPステータスを上げにいこう」


「なるほど! では早速魔物狩りに」


「いや、その前に防具とかないかな」


「し、失礼しました!」


 どうやら忘れていたらしい。全裸の男を膝枕しているということを。

 アイオンが慌てて立ち上がる。

 俺は突如支えを失い、後頭部から地面にゴツンと頭をぶつけ悶絶する。


「あぎゃーー!!」


「あわー!! ごめんなさい、ほんと私ドジで! すぐ治します」


 ゴロゴロと頭を抱えながら地面を回転して痛みを紛らわす。

 魔物と戦う前にアイオンに殺されそうだ。


「ヒール!」


 女神の発唱とともに、まばゆい光が頭を包みこんだ。

 鈍痛がみるみると引いていく。


「おおお! すごいな。これが魔法か」


「はい! でも完全に切断されて、時間がたった腕などはくっつきませんし、再生もしません。過信しないようにしてくださいね」


 やっぱり世界救うの辞めようかな……

 青ざめていく俺にきづいたのか、アイオンが慌てて背中を押してくる。


「装備はこちらに特別なものを用意してあるのでご安心を!」


 導かれるまま進むと、神殿の玉座の下にあった隠し扉の奥の奥の小部屋にたどり着いた。

 そこには宝物庫があり、見ただけでわかるほど豪華絢爛な、おそらく伝説級の装備が飾られていた。


「すごいな。着てみていいか」


「ええ、勿論! 勇者さまのために用意したものですから」


 そういってアイオンはゴールドセイントのような鎧を、俺に着せてくれた。俺の小宇宙は丹田の下にあるぜ。

 少し大きめだと思ったが、身に着けるとサイズが変わり体にフィットした。

 流石は伝説級、性能が素晴らしい。


「武器はどちらがお好みでしょうか?」


 一通りの武器がズラーっと並んでいる。

 モンスター〇ンターは全作品大剣使いだったため、迷わず大剣を装備した。

 お、重い。しかし、背中の担いだ専用の鞘にしまうと重量が消えた。助かった。

 どうやら抜刀するとそこに刀身が現れるらしい。


「大変お似合いです! ステータスを確認してみてください」


「ステータス? どうやるんだ?」


 すると、脳に直接情報が送り込まれてきた。

 なるほど、ステータスを知ろうとすること自体が、発動の合図なのか。


 相沢守 level1

 体力 22

 魔力 9

 攻撃 9+621

 防御 4+489



 装備 聖鎧 女神の寵愛 rankMAX

   聖大剣 エクスカリバー rankMAX


 魔法 なし


 特殊能力 勇者の器 女運+∞


「おー、すごいな。俺装備ないと、めちゃくちゃ弱い」


「女神と契約してない勇者はただの人間ですからね」


「ん?女運+∞ってなんだ?」


「そんなスキルありました? 聞いたことないですね」


 なるほど、それで俺は女神の元で勇者に引き当てられたのか。

 たしかにこの世界で一番美しいのは、間違いなくこの女神だ。


「まあ、マイナスじゃないならいいだろう。もうひとつ、勇者の器、というのもある」


「それは、守さんが勇者たりえる証拠です。レベルが上がれば、器だけでも特殊な能力が開花するかもしれません」


「楽しみだな」


「ええ! では、行きましょう」


 女神が俺の手を掴み、外に出ようとする。

 俺はその手を握り、引き留めた。


「ちょっと待ってくれ」


「はい?」


「防具は上半身だけなのか?」


 俺はフルチンだった。

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