第2話 祇園精舎の鐘の音 色即是空の響きあり
「そこをなんとか…お願いします」
女神アイオンは深々とこうべを垂れた。
二つの大きなプルプルプリンが、絶景の渓谷を作りあげる。
ああ、その谷を流れる硬水に生まれ変わりたい。
俺は無意識に手を伸ばしていた。聖女は顔をあげ小さく笑った後、手を掴もうと歩み寄ってきた。
しかし、その表情は死に際にみた前妻の姿と重なりフラッシュバックが起きる。
___落ち着け、何回俺は女に騙されれば気が済むんだ。
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。唇をかみしめ、自問する。
神に誓ったことをもう忘れたのか?
そんな上手い話あるか、罠に決まってる!
俺は差し出された彼女の手を弾いた。
「嫌です」
「そんな……」
彼女ははじかれた自分の手を掴み、眉をひそめ一歩退いた。
断っておくが、俺は今全裸だ。
召喚された時に服は着せられていないらしい。色即是空を心で唱え続けることで、なんとか体の反応を抑えている。この世は空。
だがしかし、少しでも気を抜けば即座に俺の相棒はラオウよろしく、天を突くだろう。
無心だ。無心になるのだ。
「お願いします、契約を…!」
う。
アイオンは、俺に抱きついてきた。
銀色のシルクを纏っていたが、そのシルクよりも隙間から触れる肌の方が、圧倒的にきめ細やかで繊細だった。この世のものとは思えない柔らかい存在が、俺の上半身を包み込む。
「どうか…どうか!」
アイオンは体をより密着させ、強く抱き寄せてきた。
双丘の頂点にある突起物が、コリコリと俺の肋骨に当たり、その存在感をアピールする。
これは罠だ!松田!誰を撃っている!
俺の心のキラが緊急アラートを爆音で鳴らしている。
俺は松田じゃないよキラ。マツモ○キヨシだよ。
思考がおかしくなりそうだ。
マツモトキヨ○は薬局だ。俺じゃない。
だが、よもや。
よもやよもやだ。罠でも、俺が薬局でも、いいのでは?
こんな美女になら騙されたっていいのでは?それが柱としての責務なので全うした方がよいのでは?
「お願いします、勇者さまぁ」
女神アイオンはニヤリと片方の口角を上げ、より一層体を擦り付け始める。
猫なで声でふしだらに喘いだ。
「ああん、勇者さまおねが〜い」
腰をくねらせ体を密着させ、耳元に息を吹きかけられた。
「俺は〜〜〜〜〜〜勇者として貴方と契約をしま〜〜〜〜フンッ」
最後の抵抗で彼女の両肩を掴み、腕いっぱい伸ばす。しかし、俺を覗き込むアイオンと目が合ってしまい決意と股間が揺らぐキッカケになってしまう。
「しま〜?」
だめだ、神様。俺は弱い男です。
罠だと思っていても逃げられません、罠パイに負けました。
俺は数刻前の魂の契りさえ守れない、脳を下半身に奪われた愚かな豚野郎です。
ついに「す」を発音しかけたその時。
突如教会の天井が、激しい爆撃音と共に崩壊した。
ガラガラと音を立て降り注ぐ、先ほどまで天井だった巨大な穴から、聖女アイオンが飛んできて、目の前を浮遊している。
「ま、間に合ったぁ! 勇者様、そのものは女神ではありません。名をアポカリプス、黄泉の国に住まう女邪神です!」
空飛ぶおっぱいが叫ぶ。
何言ってんだ?
「ちぃ! もう来やがったか。あんたの貧相な体じゃ誘惑しきれなかったみたいだね!」
目の前の女神は姿を変化させていく。
肌は薄い紫色になり、白目は黒く染まり、銀色のシルクは漆黒のボンテージになり、双丘はさらにその標高を高めた。
全裸の俺を差し置いて、女神と邪神は言い争いを始める。
「ひ、貧相な体って、私の姿で一体何をしたんですか?!」
「お前みたいなガキが思いつかないようなことだよ!」
「最低! お下品です!」
邪神の体がボロボロと崩れ始める。
「くそ、神域内だともう活動限界か。今日のところはひいてやる! せいぜいそこのインポ野郎と必死こいて楽しませてくれよ」
どこに収納されていたのか検討もつかないが、突如現れた漆黒の翼をはためかせ、抜けた天井から邪神アポカリプスは羽ばたいていった。
俺はインポ野郎じゃない!
どれだけ必死に気持ちを抑えていたと思っているんだこのアバズレが!
変身後も色っぽいなチクショー!
もっと罵ってくれ!
無表情のまま心で叫んでいると、本物の女神が歩み寄ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます