第28話 夜のパパん

:視点がコロコロ変わりますがヨロピクです


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私はティーナ・タナー。プラチナ国のオジャマンべ領でS級冒険者をしてる女だ。私は強くならなければいけなかった。

大切なものを守る為に。


私にはパパが居る。パパを守る為に強くなった。優しいパパ。太っていてちょっと臭いけど大好きなパパ。

このオジャマンべ領に男性は1対100の割合と他の領地よりも多い。

それでも男性ってだけで襲おうとする輩や、隙あらば食ってやろうって女で溢れている。

私はそんな怪物モンスター達からパパを守るために冒険者になった。

ダンジョンのモンスター達を相手にそいつ等と重ね合わせて剣を振った。

男を食い物にする女達、殺す、殺す、殺す

優しいふりして裏では何言ってるかわからない輩達、滅す、滅す、滅す

強くなる方法。それは憎しみだ。

憎めば憎むほど私は強くなった。

憎しみの果てに見えたのはエゴの塊だった。

相手を思いやる事を辞めた時、私はS級冒険者になれるくらい強くなっていた。


メスガキ共がパパを悪く言う


パパはDJ。パパはオジャマンべ領に3つ存在するCLUBの大箱(でかいCLUB、有名なCLUBの事)その1つでDJをしてる。


男がDJしてるってだけで客が来た。

男がDJなんてすんなよって揶揄われた。

女の世界の底辺に咲いた花だ、なんて言う詩人も居た。


私はいつも、いつだってパパを守る。

なんでこんなに強くなったんだっけ?

ある時疑問に思った。

強くなったのに、何か大事なナニかを忘れてしまった様な気がする。


忘れない、そう、パパを守るためにだ。


最近のパパはちょっとおかしい

ママが亡くなってからおかしくなった。

前はこんなにお酒を飲まなかった。

最近は仕事中でも、家に居ても、何もしなくてもお酒を飲んでる。

そんなパパから今日も深夜の1時過ぎに迎えに来てと連絡が有ったので私は向かう。パパを怪物から守るために。




「もうパパ飲み過ぎだよ?」


「ハハッ、すまんすまん。今日は針飛ばしちゃって笑われたよ」


(針飛ばしとはDJが回ってるレコードをブチブチやっちゃう事です)


「もう〜そんなこと言ってもダメッ!もうちょっとお酒控えなよ」


「わかってる、わかってるって、ちょっと待ってくれティナ、吐きたい」


「ええっ?しょうがないなそこの路地裏でしてきてよ、付いてこうか?」


「いやっ、ウプッ。大丈夫だあ」


オロロロロと言う音が聞こえながらも周囲を警戒するティナ。怪物は何処にでも居る。

あいつらは隙を窺ってる。

パパは男だから

私達みたいなモンスターには勝てない。

DJもやる必要なんて無いのだ

パパは変わってる

そんなパパをママは大好きだった

ママは私を愛してくれてた

パパは・・・


「ゲロロっ、ゲッ!?」


「ッ!?どうしたのパパっ!」


「あ、ああ見間違いか?ここに人が居るんだ。ゲロ思いっきりかけちまった」


溝を指差しわけわかめな事を言うパパ。そんなパパの元へと向かい溝を覗き込む。


「何言ってるのパパって、本当だ男の人っぽいね」


「どうしようか顔にゲロかけといて知りませんでしたは流石に人としてどうかっつうか、なんでこんな所で寝てるんだ?」


「浮浪者じゃない?良いよ帰ろうよパパ」


「まあ待ってくれクリーンだけでもかけてくれないか?」


「しょうがにゃいなあ『クリーン』」


「ッ!?この人は!?国際手配されてる行方不明者の朽木聖夜くんじゃないか?」


「・・・ぽー」


「何顔赤くしてるんだティナ、取り敢えず彼を担いで帰ろう。行けるか?」


「ママママ任せてよっ!でへへ」


夜空を見上げると1番星の近くに寄り添うように小さな星が輝いていた。









ん?朝か。最近知らない布団で目覚める聖夜とは僕のこと。質のいいベッドに知らない天井。


「知らない天井だ・・・」


これリアルで有るとマジわけわかめになるから。CLUBでテキーラ飲み過ぎて朝目が覚めたら知らない姉ちゃんの部屋に居てう◯こ漏らしてた。そんなトラウマが蘇る。


「ウッ頭がっ」


なんつってる部屋にガチャっとドアの開く音がして誰かが入ってくる。


「おお、聖夜くん起きたかい?安心してくれここは俺の家だ」


なんつってる彼はファット・タナーさん。横に凄い幅がある人だ。溝で寝てた俺を娘さんと担いで家に連れてきてくれたらしい。


「それはそれはすみません。助かりました。実は僕誘拐されちゃっててどうしようかと思ってたんです。」


「ああ、連日テレビで放送されてるぞ?だから日本大使館にも連絡しといたからな、とりあえずここに居てくれれば安心だと思うぞ聖夜くん大変だったな」


なんて出来た人なんだ。俺をまた誘拐して売っ払うとかしないなんて。ファット・ジョイみたいにタトゥーあってイカツクて太ってるけど人は見かけじゃわかんねえよな。目を見ればいいやつか悪いやつかわかるって誰かが言ってた・・・


「真顔になってどうしたんだ?そうだ娘を紹介させてくれ、聖夜くんが起きたら必ず紹介してって五月蠅いんだ」


「ちょっとパパっ!やめてよっ!って、あっ!聖夜くん初めましてティーナです。ティナって呼んでください」


「おっ!こりゃドエロイ、じゃないドスケベでもなくて可愛いですね、よろしくお願いしますティナちゃん」


パパに突っ込み入れながら部屋に突撃してきたのは青髪のボブカット。乳があばれる君くらい有る。フィーリングで感じてくれ。


ティナの穴に突っ込みたいのを我慢して聞く。


「ティナちゃん独身?俺の所に来ない?今絶賛ボディガード募集してて、ボディタッチもされちゃうかもだけど」


「ごっ、ごめんなさいっ。私にはパパが居るから、何処も行けないの、私っリビングで見張ってるからゆっくりしてね聖夜くんっ」


真っ赤にしてた顔から一転暗い影を落としながらボディタッチを拒否する彼女。微笑みながら部屋から出て行ってしまった。こりゃナニかあるな。ビンビン来ちゃうぜ。


「お義父さん、いやファットさんティナちゃんは何か抱えてますね?」


「おうっ、流石伊達にラップしてねえな聖夜くん。ティナはアレだ、その、ファザコンって奴だ、多分、な」


ふむ。あんな乳デカにパパなんて言われたら新しい扉開いちゃいそうだ。俺はどうする事もなくただ時間だけが過ぎていった。。。











私のパパはDJ。

普通と少し違う

それで暮らしていた。

そんな私のファミリー。

ママが死ぬ前に言ってた。ヤバいヤバいヤバい曲を作るのがパパの夢だって。

パパはママが死んでから無気力になった。

DJを今もなんでしてるのか、私にはわからなかった。

酒に逃げながら皿を回してる

私はそんなパパをいつだって見詰めてる。


テーブルの上に置かれたグラスの中の氷がカランっと鳴った。


私はなんでこんなに強くなったんだろう?

パパの為に強くなったんだ。

わからない、他人の気持ちがわからない。

パパは優しくない。ママが死んでから私を見る目が変わった。

強くなって守りたかっただけなのに。


パパを怪物達から守ってもパパの心は守れなかった。パパは壊れてる。

今のパパを見てるのは辛い。

だけど何も言えない、これ以上嫌われたくないから


私はグラスに残ったお酒を飲み干した








「アッハッハッ!そんで言ったのさ、フ◯ックしたけりゃケツ◯穴舐めろってな、オラッ飲め飲めっ!」


「あ、こりゃどうも!そりゃファットさんとファ◯クをかけてるんですね?ニヤリ」


「「アッハッハッ」」


かなり話が合うこのお義父さん。いや親父。

俺は異世界でも通じるネタにほっこりしながら酒を飲み交わしてた。


「いや〜しかし男性と初めて会いましたよ僕」


「ん?そうなのか?けっこう居るぞ?そうか日本だと勝手が違うのかもしれんな」


「あ、なるほろ。プラチナ国って日本から遠いんですか?」


「昨今テレポーターもあるしな、気軽に行けるだろ金はかかるが」


テレポーター?転送装置みたいな奴か。相槌を打ち、摘を抓みながら考える。

なら日本から母さんか誰か迎えに来るのも早いかな?しかしミチルちゃん、まさか俺を誘拐するなんてな。そう言えば車に乗った時も覆面を被ってる女が運転してたな。コスプレかと思って突っ込まなかったがKと書かれた覆面。何かあるかもしれん。


「ファットさんKって書かれた覆面をした女達とかって何かわかります?」


「ん?三角白頭巾を被ってる奴等か?白いとんがり帽子みたいな」


「あっ!それです!」


「プラチナ人至上主義の奴等だ、関わるのはやめとけ、殺されるぞ?」


酒を飲みながらゴクリと唾を飲み込む俺を見詰める親父。


「プハッ!聖夜くん、奴等はプラチナ人以外の人間を人として見てないんだ。若しくは他国の人間を奴隷にするかだな」


そうか。Kの集団はプラチナ国の人間。

ミチルちゃんが何なのかは分からないがメンクイーナ・オジャマーべがK集団と関係してるっつー事だな。まあ会うことも無さそうだが。


「んな事より聖夜くん飲めよっ!」


「アハハありがとうございます。それより奥さん何も言わないんです?こんな飲んで怒られませんか・・ねって・」


「ああ、ママは死んだんだ・・・プハッ。飲まないとやってられなくてよ、あいつは俺の夢を笑わなかったたった一人の女だったのによ。俺はDJだ。女から見たら選曲はもうちょいミーハーな曲かけてくれとか、チ◯ポ出せとかよ、好き勝手言いやがる。そんな中で彼女は俺の夢を応援してくれてる。20年以上かかっても実現出来てねえがな。最近じゃなんでDJしてるのかもグズンっわがらなぐなっでぎでよエグっ」


やべえ何か泣き出した。

地雷踏んじまった。

笑ってごまかせ、だ。


「アハハハ、夢?けっこう毛だらけじゃないですかっ!どんな夢なんです?」


「ぐずびんっ。エグっ、ハァハァすまねえ、妻を忘れられなくてよ、俺の夢か?それはヤバい曲をママに聞かせる事だ。それも出来なくなっちまったがな。エグっ」


「・・・」


何も言えねえ。死んだ女を思う気持ちは俺も解る。人には絶対踏み込んだらいけない領域があるのだ。それを片足突っ込んだ俺に出来ることは沈黙あるのみ。


そんな二人の会話をドアの向こうから聞いていたティーナ。ティナは震えてドアを開く。


ガチャッ

「パパっ!ママは死んだのっ!私が居るでしょ?ねえっ!『バチンッ』きゃッ!」


「うるせえっ!ママは良い女だったんだ!お前と違ってなっ!」


ドアからティナちゃんが出て来て親父に縋り付きながら何か言ったと思ったら頬を叩かれてスカートが捲れてパンツをガン見する俺。ティナちゃんは頬に手を当てて放心してる。何があったんだ?

今の一瞬で。わけわかめだ。


「親父、違う、ファットさん、馬鹿はあんただ」


わけわかめだがティナちゃんの心はここで貰う


「ああ?」


「ティナちゃんを見てみな」


「あぁん?何言ってやがる?」


「ティナちゃんはあなたしか見てないんだ。なのにあんたは影を見てる。太陽が居るのにだ。影に居ると心が曇るぜ?」


「なに言ってやがるっ!!」


「痛いっ!!!」


右フックで殴れてもうた。

糞がギャル相手じゃないと上手くいかん。


「パパっ!やめてよっ!」


俺の前で手を広げて止めてくれるティナちゃん。ダサ坊とは俺の事、違う。なんとか好感度を稼ぐんだ。リセットボタンが欲しい今日この頃。ティナちゃんの肩に手を置いて俺は前へ出る。


「ファットさん、あんたは奥さんの影を引き摺って何がしたいんだ?」


「てめえ、遺言はそれか?」


いやだ殺されちゃう。

マママ待って。


「マママ、ママは、ぅうん、いつも感謝してる。家族だろ?奥さんは家族が1番大事だったんじゃないのか?ティナちゃんを悲しませて奥さんは喜んでるのか?」


「クソっ、わかってんだよ、曲が書けねえんだ、あいつが逝っちまってからな」


「ティナちゃんを大切にしろよ、そしたらまた何か書けるだろ?」


「俺はわからねえ、分からなくなっちまった。」


エググウと泣く大きな男。

フィットさん酒飲ましたらあかんな。

頬が痛え。頬を擦りながらチラリと後ろを振り向く。ティナちゃん惚れたでしょこれで。


「このボンクラっ!」


「ひでぎっ!?」


今度はティナちゃんに殴れる俺。


「な、なぜに?」


「なんでじゃないわよっ!パパはパパで良いのよっ!私は何も求めてないのっ!」


無償の愛ってか?無償が付いた時点で愛じゃねえぜ。ティナちゃんは目をギラつかせながら俺を睨む。隣には泣きじゃくる大の大人が。


俺はなんでこんな所に居るんだ。

逃げたくなったが逃げられねえ。

外国に一人。ニューヨークに行った時だ。姉貴とCLUBに行った記憶。

英語が喋れねえ俺を置き去りにして一人で遊んでた姉貴。俺はカタコトの英語で冬の寒い夜に喫茶店でコーヒーを頼んだ。

なんで置き去りにしたんだ。

地下鉄の浮浪者からは逃げられねえ。


なんつってトリップする所だった。

今は目の前の憤怒のこの女を落ち着かせなければイケない。

俺は裸になる。


「チョッ!?」


「見るんだ、ティナちゃん」


「バババッ馬鹿言ってないでフフフ服っ服着てふくっ!」


「愛を教えてやるよ」


俺は怪物セックスピストルになった。

「チョッ、あっ〜」




父親の隣でプレイをした俺は父親のベッドの上で腕枕をしてるティナちゃんの髪を優しく撫でる。


「しゅごかったあ〜」


「ヨチヨチ、落ち着いた?」


「うん〜ありがとう〜聖夜くんっ」


親父はプレイ中外に出て行った。

なのでのんびりピロー・トークなんてしちゃう


「てかなんでファザコンなったの?」


「えーと?なんでだろう?私はパパを守らないとって思ってずっと生きてきて、うーん、わからないやっ!」


「そかそか、冒険者だからそんな筋肉あるんだね、めっちゃいい筋肉」


さわさわ腹筋を触る

「くすぐったいよもうっ!私ね、そう、怪物からパパを守るために冒険者になったんだよ」


「モンスター?」


「他の女達の事だよっ!怪物をやっつけてパパを守るのが私の生き甲斐なの。だけどね、ママが死んでからパパはおかしくなっちゃったんだ。パパは・・・ママしか見てなかった。私の事なんて見てなかったんだよね、今わかった」


「ティナ」


俺は泣く彼女を黙って抱いてやる

そんな自分に泣きたい時もあるさ

愛されない。見られない。

それがどんなに辛いことか。

愛の痛みを知れたなら愛が何か判るだろ










夜のパパはDJ。

愛した女はママ。

子供も愛せよ親

それが出来なかったDJ


ヤバいヤバいヤバい曲を作るのがパパの夢。

ヤバいヤバいヤバい曲でママを喜ばすよねん。



いつか愛せる日が来る。パパも子供も笑える日が来る。怪物はいつだって心に飼っている。


俺の中のモンスターは今日も性欲に代わっていた。

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