第3話 ゆれる

作注:基本メイド視点っす色々分かりづらくてすんません







最近、朽木家で働くメイド達は浮足立ってる。


浮ついてる。そう、ショッピングモールで買い物なんてする時に尻がフリフリと意味もなく揺れ動いてしまうくらいに。


その原因はこの屋敷に住む男、朽木聖夜その人にあった。


彼は変わった。


以前は自室から出るときは人払いして浴室を使う時とお手洗いの時くらいで彼を見る回数等この屋敷で勤続6年になるメイドでさえ片手で数えられる程度でしか見たことがない。



本人は知らぬが聖夜は引きこもりだった。


怖いのだ、外が。


周りは女ばかり、道を歩けば好色と好奇の目で見られる。拐われるんじゃないか。襲われるんじゃないか。殺されるんじゃないか。


何時からか、家を出ること、部屋を出て家族でさえ会うのにも臆病になってた。




そんな彼が変わったのは確か3月の中頃、お部屋から大きな物音がして奥様がたまたま居たのも幸いだった。メイド風情が男性の部屋に入れることなど無いのが常識の範疇だった。


その日から良い意味で変わったのだ。

その日勤務してたメイド事私はなんと聖夜様と会話をした。しかも軽く謝られた。しかもしかーも可愛いねなどと言われた。


んなことないわ。全人類が突っ込むと思う。


その話を他のメイドにしたら、んなこたあない!っつってたのだが本当なのだと後日皆わかる事になる。


ある日掃除をしてる時だった。視線を感じたので振り返ると聖夜様が私を見てた。臀部を見られていた事に気付いた時は頭がおかしくなりそうだった。いい意味で。


そんな事が何回もあったのだ。聖夜様は屋敷内を散歩しながらメイド達をよく観察してた。視姦してた、とは後日談。


他のメイドを見てる時だった。彼の視線が一点を集中してたのだ。野獣の様な目で見てる。からだがふるえた。


そう、尻を見てる。


そんな男が居るのだろうか?いや、いる。ここに。女のけつを見て何が楽しいのか。獣の様な目で彼はずっと尻を見つめているのだ。


獣◯見た夢か?なんて私は好きなラ◯ベ小説を思い出して現実逃避するくらいには衝撃的だった。


何かがおかしいのを実感出来たのは私だけではなかった。あるメイドは「髪切った?綺麗だね」とか「何か手伝える事とかある?」とか言われたり、胸の大きなメイドにマッサージを頼んだなんて話もある。


頻繁に髪をきるわけないんだがよく聖夜様は髪切った?って髪の毛弄りをメイド達にしかけてくるのだ。そしてよく触られる。訴えられたら負けるのはメイド、勝つのは聖夜様だ。


それなのにちょいちょいしでかしてくる聖夜さん、様呼びとかええわもう。そう、手伝える事とかあるかなんて聞くのは聖夜さん以外の男性は口が裂けても言わないだろうし、メイドの仕事だし。


おっぱいの大きなメイドの揺れている胸に聖夜さんはよく視線を向けている。マッサージを頼んだのだって揺れている胸が見たいだけじゃんって思う。勿論私も呼ばれたが。デブ(パイでか)なので。


おかしいのだ、聖夜さんは。 

普通男性は女と話すときは鼻の辺りを見ながら話すのが一般常識だ。鼻を見ると襲われない、らしい。動物学者のナムゴローさん提唱説だ。私は男性と話したことがあるのが聖夜さんだけなのでわからないが。


それなのに聖夜さんはジッと目を見つめて話す。たまに視線が下に向き、ああ、おっぱい見てるんですね、と最近理解した。


おっぱいと話してるのかと思うくらい私の胸を見ながら話す時が聖夜さんにはある。


聖夜さん曰く男はビッグになりたいが為にでかいパイオツを見てしまうんだ。等と意味不明な供述を4ヶ月後の事後のベッドの上で語るのを知る事になる。


そう、メイド達はゆれる。


わざと胸を揺らすメイドまで現れた。


聖夜さんとすれ違うときに体を揺らすわ揺らすわ。聖夜さんは安定のガン見。


胸の大きな女性は男性と対面すると男性が萎縮してしまう為に女性の胸は小さい方が好ましい風潮がある。糞が。


そうなのだ。それなに頭がおかしい聖夜さんは胸と話すし目だって見つめてくる。



私の胸が、揺れる。揺れる。


心が、揺れる。揺れている。









時は遡り聖夜が銀河探検した日の事。


「あら、かすみちゃん。ちょっといいかしら」


奥様から話し掛けられる。病院へと息子の聖夜様を連れて行かれた帰りだろうか。私は恭しく頭を下げた。


「せいくんがね、記憶喪失かもしれないの、それでねまた皆にも話すけどそれを深く聞かないであげてほしいの。何か思い出して私達にまた関わらないようになったらいけないからね。うん。えっと、そう。だからせいくんとヘルパーさん達が会話する事もこの先あるかもしれないから先に言っておこうと思って。」


なんと、男性と会話する事なんてこの私に有るのだろうか?それに記憶喪失?それを深く突っ込みたいが私はデキルメイド。ヤバすぎるスキルを持つメイドなのだ。することは1つ。了解のみ。


深々と頭を下げて承諾すると奥様は鼻歌を歌いながらキッチンへと向かった。今日の料理はハンバーグぅ〜グーグーグーっと歌ってるので今日は奥様自ら料理するのだろうか。奥様の名前はハルミだったっけ。


えっと。まあええわ。私は屋敷の管理へと戻ることにした。



奥様方の夕食の時間になり末っ子の朱音様が聖夜様の部屋へと向かった時だった。私の帰宅時間はとっくに過ぎてたがもしかして会えるかもなんて、ワンチャン根性丸出しで聖夜様の部屋の付近を徘徊してたら聖夜様の部屋のドアが開いた。


ヤッベ。


少し隠れて私偶然歩いてました感を出して玄関先の方へと歩く。なんと、朱音様を抱っこしていらっしゃる。うらやまけしからんとはこの事。



「メイド?」


ハイ。あなたのメイドです。言いたい所を我慢してなんとか挨拶を返す。


「聖夜様、今晩は。」


「こんばんは、あの、ご飯食べたいんですが」


「・・・食堂まで案内致しましょうか?」


挨拶を返してくれた、だと?男性と会話したのが人生初、これもう実質結婚でしょ、ご飯より私を食べれば?


「あっ。お願いします。すみません」


私、生きてる気がする。お願いされちゃったし。すみませんなんてこちらがスミマセン。マンモス嬉しいんだが。


「・・・・・では、こちらに」



なんとか返事をして食堂へと案内する。地面がグニャグニャと揺れて足元が覚束なかったがなんとか到着出来た。徒歩10秒が車で10分くらいの距離を歩いたのかと感じられた。



「聖夜様、こちらで御座います」


「ありがとうっ。君、可愛いね」



えっ!!?君かわうぃーね?キミカワウィーネ、君可愛いね、私はそこから記憶が、ない。












気が付くと同僚のミチルが心配そうな顔で私の額に手を当てて見てた。


「ッ!!ここは?」


仮眠室のベッドの上みたいだ。たしか、聖夜様とハネムーンはグアムにしようかなんて言われた気がする。


「あんた、大変だったんだよ?大丈夫?何があったのよ?食堂の前で気を失ったあんたを運んだの私なんだからっ!感謝してよねッ!」


「えっと、ありがとうミチル。私パスポート取りに行かなきゃ、新婚旅行なの」


「あんた馬鹿ぁ?一人じゃ新婚旅行なんて行けないのよ?そもそも新婚旅行なんて漫画の中だけの話じゃん」


ハッ。漫画の住人になってたわ私。いや、違う。確かに聖夜様が二次元のキャラ、チャラい眼鏡をかけたヤリチンが声を掛けてくる創作物でしか言わない様な言葉コトノハを私に放ったのだ。


「えっと、ミチル。聖夜様がね、私の事可愛いねって言ってくれたの。信じられる?」


ミチルは爆笑しながら私のことを指差しながら馬鹿が居るっ馬鹿が居るわッ!なんつって大笑いしてる。


なんなのこの惨めな気持ちは。新しい扉が開いちゃう、やめたげて。


ミチルは高笑いしたのに疲れたのかハァハァ言いながら私を慰めてくる。


「プッ、クスクス。霞さあ、疲れてるのかもしれないけど聖夜様が可愛いね?だって?ゲスゲスッ、そんな事言う訳ないじゃん、あんた夢見てたのよ。そんで倒れてたの?もう帰る時間過ぎてるでしょ早く帰って寝なよ笑」


ぐぬぬ。こいつ貧乳だからって自意識高いぜ。意識高い系ツンデレ目指して変なツンデレになってるミチルに慰められるとクルものがあります。


私は納得してないが帰宅時間を大幅に過ぎてたのは事実なので誰も居ない自宅に帰ることにした。





あれから1週間が過ぎた。今日も朝のメイド集会の時間だ。メイド達はソワソワ、今日の昼の担当は私とメイド長含めて10人。いつも通りだがいつも夜勤のミチルも居る。休憩中も髪を梳かしたりメイクを整えたりと意識してる、朽木聖夜さんを皆意識してるのがわかる。


髪を触られるのはもう皆暗黙の了解になっている。メイド長でさえ髪をお団子にしてたのに今では全ツッパで髪をロング状態にしてる。40過ぎの筈だが、聖夜さんはメイド長の髪も触るのだろうか?疑問だ。

そんなメイド長が1つ咳払いしながら朝の挨拶を始める。


「コホンッ。皆さん。おはようございます」


「「「おはようございます!!!!!」」」


「元気でよろしい。ですが、最近皆さんフワついていらっしゃる様で、皆さんは己を自戒出来て居ますか??」



「「「・・・・・・・・・・」」」



お前が1番浮ついてるだろって皆が思ったのは皆に伝わった。


「コホンッ!ええ。そうですあなた達はフワッフワに浮ついてます。それは行列の出来るカフェのパンケーキよりもフワッフワです。カフェのパンケーキは美味しいですが、あなた達は不味い。ええ、激マズです」


こいつっ。浮つくじゃなくてフワッフワだと!?そんな表現今時の若い子はしねーぞ!!


「ええ。何が不味いのかと言いますと・・・聖夜様。いとしのコホンッ!いえ、聖夜様に寄り付くのは害が有ると私は判断しました」


こいつっ!?愛しの聖夜さんを独占しようとしてやがるな!?メイド達9人が一斉に殺気だった。その中でミチルが先陣を切る。


「ちょっと待った!メイド長ッ!発言を求めますッ!」


「・・良いでしょう、ミチルさん発言を認めます」


冷や汗を額から流しながらメイド長は妖しく微笑む。これは手強いぞ。熟女は喪うものがない。そしてやがて喪女となるのだ。


「メイド長は勘違いをしてるわッ!ひとつ、聖夜は私達を毛嫌いしていない、ふたつ目、聖夜は私達のことを性的に見てる、みっつめ、これは、なにかわかるかしら?」


指を3本立てた所でミチルはメイド長に不敵な笑みを浮かべる。場は完全にツンデレ貧乳の独擅場だった。わけわからんが。


「ゴクリッ。ミチルさん、それは一体・・・?」


メイド長も変な空気に当てられたのか生唾を呑み込みながら冷や汗をさっきよりも大量に流しながらミチルへと問掛ける。


「それはね、愛よ」


「「「エッ!!!???」」」


「そう、愛なの。愛があるのよ。聖夜は。だから聖夜は私達が争うのを望んでなんかいない。聖夜がもしメイド長が私達の事を遠ざけた、なんて・・・かから聞いたら、どうなるかわかる?」


これは脅しだ。チクるぞと。ミチルが聖夜さんの事を呼び捨てにしてるのも気になるが愛というものも気になる。愛って、古事記とかの古い文献に書かれてた概念だったかしら。わからないけど、場は完全にミチルが乗っ取っていた。


「・・・良いでしょう、ミチルさん。よくわかりませんが今回のミーティングは以上としまして今日は引きましょう。それとあなたの給金は3年3ヶ月3割減とします。では解散ッ!本日もご安全にッ!」



「「「ご安全にッ!!!!!」」」


「チョッ!?3年3ヶ月3割減ッ!?」


ミチルの切り込みによりメイド長の陰謀は阻止出来たがミチルの財布は大打撃を食らったのだ。南無三。


今日も、胸元を開けて胸を揺らす。揺れる。揺れる。胸が、胸が。


この心が揺れる時がある、


あなたが、見てくれるから。


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